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2013年12月

2013年12月28日 (土)

シルキーSilky

●ヨーロッパ版「お絹さん」
シルキーはケルト(ヨーロッパ北西部)の伝承に登場する妖精の名前です。なぜか女性ばかりで、男性はほとんどいません。絹の服を好んで着ると言われ、近くを通るときシュルシュルと絹のすれるような音を立てることから、「絹の服を着る人」もしくは「お絹さん」を意味する「シルキーSilky」の名前が与えられました。

彼女のホームグラウンドは、その名前からも想像できるように、名家や大金持ちの家です。大勢の召使いが一生懸命働いている中に、顔は見たことがあるのにどうしても名前が思い出せない女性がひとりか二人は確実にいます。もし、誰に聞いてもその正体が分からないのであれば、彼女はシルキーである可能性がきわめて高いと言えましょう。

この妖精は、事件に巻き込まれた人物の幽霊であるとも、家に宝を隠したまま死んでしまった家人の残存意識であるとも考えられています。とある屋敷に住み着いていたシルキーは、天井裏から金貨の詰まった袋が発見された途端に、姿を消してしまいました。


●シルキーの性格
彼女たちは妖精としての性質を持ちながら、妖精であると気づかれることの少ない、希有な存在です。あまりに自然に人々の中へとけ込み、誰かが怪訝に思ったときには既に姿を消しているので、誰もその正体をつかむことができないのです。

伝承に語られる彼女らはおおむね有能で真面目、敏腕の持ち主で、炊事洗濯はもとより、掃除片付け、果ては暖炉の火入れや屋敷の見回りまで行ってくれます。とある古い屋敷に住んでいた老婆は、シルキーがかいがいしく働いてくれたお陰で、「困ったことは何もなかった」と述べています。

しかし、人間の召使いには、あまりにそつがないゆえか、有能すぎるゆえか、いずれにしても嫌われていることが多いようです。彼女らにあまり活躍されると、自分の仕事のアラが目立ってしまうからかも知れません。


●怖いシルキー
このように、「同業者」に妬まれるほど、まめに仕えるこの妖精。さぞかし性格も良いのであろう……と思いきや、さにあらず。伝承を見るとけっこう過激な性格の者が多いようです。

特に望まれざる侵入者には容赦せず、自分のあらゆる能力を駆使して追い出しにかかります。ちょっかいだけで済めばしめたもの、中にはさんざん翻弄して外へ放り出す者もいます。それでも去ろうとしなければ、首を絞めて殺すことさえあると言いますから、かなり恐ろしい存在です。

怖いシルキーと言えば、ニューカッスル地方(イギリス中東部)のヘドン・ホールに棲んでいたシルキーはひねくれ者で知られていました。

部屋がきちんと片付いていれば散らかし、散らかっていれば片付けるようなところがあり、家事の手が空くと、「シルキーの椅子」と呼ばれる近くの古木に座り、通りかかる馬や馬車にちょっかいを出して遊びます。
しかし、ナナカマドで作られた十字架を身につけた者にはどうしても近づくことができなかったそうです。


●ブラウニーとの相違点
家に付く妖精と言えば、他にホブゴブリンやブラウニーなどの名前が知られています。シルキーがそうした妖精たちと大きく違うのは、ホブゴブリンたちが人間たちから見返りを求めるのに対し、シルキーは何も求めないと言うことです。

その代わり、彼女らは自分から出て行くことをしません。住民がどんなに迷惑に思っても、勝手に居座り、勝手に世話をし続けます。
ですから、シルキーを怒らせたら住民の方が追い出されることになります。部屋の中をしっちゃかめっちゃかにされ、生活を邪魔しまくり、住民がすっかり参って出て行くまで攻撃を続けます。こうしてシルキーに家から追い出された人の報告は、何と20世紀に入るまで続きました。


●日本のシルキー
彼女らはケルト地域特有の妖精ですが、その人気は本場ヨーロッパよりも、むしろ現代の日本の方が高いと言えます。
「幽霊同居人」や「突然主人公の家に押しかけてくる不思議なお手伝いさん」という「シルキー的な存在」は、かなり昔から漫画や小説の題材になってきました。「ドラえもん」もある意味、男のシルキーであると言えるかも知れません。

彼らの共通点は、普段はおとなしいのに、怒ると手がつけられなくなることです。そう言えば、ドラえもんも、ネズミの存在に怒り狂って、地球を破壊しかねない爆弾をポケットから取り出していました。



●亜種・別名など
ブラウニー

コボルド(コボルト)Kobold

●ゲルマン生まれの妖精
コボルド(コボルト)は中世ドイツの伝承に登場する、子供っぽい姿の妖精です。

名前の由来はゴブリンと同じくギリシア語の「子供」を意味するコバロスKobalosから来ているとも、ドイツ語で「部屋の精」を意味するコーベンホルトKobenholdから来ているとも言われ、要するにあまりよく分かっていないわけですが、いずれにしても、子供と縁の深い存在であるということは間違いありません。

伝承によれば、彼らは赤い帽子に緑の服、金色の髪といういでたちで現れます。あるいは素肌に赤いコートだけという場合もあるようです。

その帽子の色から「赤い帽子」すなわち「レッドキャップ」なる名前で呼ばれることもありますが、イギリスでは「レッドキャップ」と言えば人殺しをする悪いボガート(妖魔)の名前です。
彼らは夜な夜な犠牲者を求めて彷徨い、その血で帽子を赤黒く染めていきます。


●人間とともに暮らす妖精
この妖精たちは常に人間の側に寄り添って暮らしています。
基本的にイタズラ好きではありますが、ゴブリンほどの悪辣さはありません。状況によっては人間の手助けも行いますし、善意には善意でキッチリ返すような義理堅さもあります。
むしろゴブリンと言うよりは、ケルト(ヨーロッパ北西部)の「ブラウニー」や「シルキー」に近い存在と言えるかも知れません。

彼らは家だけでなく、人間たちが働く鉱山などにも出現します。通路をうろつき回っては、コーン、コーンと何かを叩くような不思議な音を立てるので、しばしば「叩く者」を意味するノッカーKnockerの名前で呼ばれることもあるようです。
鉱夫たちは、この不思議な音が聞こえたらすぐに避難しなければなりません。なぜなら、必ず直後に落盤とか異常出水、あるいは爆発などの大災害が起こるからです。

実際、坑道などで変な音が聞こえる時は、例えば近くを大量の地下水が通っているとか、地盤がゆるんでいるとか、いずれにしても人間たちのすぐ側に危険が迫っていることが多いのです。
昔の人々は、こうした「危険の前兆」を、妖精という分かりやすい形に仮託して、子供たちや後世の人々に伝えようとしたのかも知れません。


●妖精の金属
彼らには変わった習性があります。それは、鉱山から銀を盗み出し、代わりに粗悪な金属を置いてゆくというものです。鉱夫たちはこの金属を妖精の名前にちなみ、「コボルド」と呼びました。現在の「コバルトCobalt」です。

実際、コバルト鉱(方コバルト鉱)と銀鉱(硫銀鉱)は非常に質感が似ていて、素人にはほとんど区別がつかないと言います。
そのため、慣れていない人間が銀と間違えてコバルトの方をつかまされ、後でがっくりする……ということも多かったようです。

コバルトの厄介なところは、価値が銀より著しく落ちるというだけではなく、「毒」が含まれていることがある、という点です。

精製前のコバルト鉱にはしばしば砒素分が混じっていて、精製時に中毒を起こす例が後を絶ちませんでした。砒素は和歌山カレー事件でもお馴染みの、大量に服用すれば死ぬこともある、極めつきの猛毒です。
さらに、銀へ触れると黒く変色するという性質があります。ゆえに、価値がない上に、銀と迂闊に混ぜるとシルバーの輝きが失われてしまうこの怖い石を、危険な「妖精石(コボルド石)」と呼んでひどく恐れました。

ちなみに、この物質が銀とはまったく別の元素であることが確認できたのは、中世を過ぎてかなり経ったころの18世紀になってからです。
現在では医療用の放射性元素、あるいは顔料「コバルトブルー」の原料としてさまざまな使われ方をしており、「本物の」銀に劣らぬ活躍ぶりを見せています。


●エンターテイメント作品に見るコボルド
ところで、この妖精はゲームや小説ではどのように扱われているのでしょう。局所的な妖精だからあまり知名度は高くないのではないか……と思ったらさにあらず、意外にもその活躍の場はかなり広いようです。
その背景には、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」と言ったゲームの「やられ役」として登場し、プレイヤーにとってかなり身近な存在になっていたことも影響しているようです。

ゲームに登場する彼らは、姑息で臆病、腕力もないし頭も弱いのですが、繁殖力は抜群で、だいたい数十から数百のオーダーで出現し、その手法は常に力押しです。要するに人海戦術しかできない存在です。
爪などに毒を持つとする作品があるのは、コボルド石(コバルト鉱)には毒が含まれることからの連想でありましょう。

彼らの外見として、イヌもしくはジャッカルの頭を持つとするものが多いのも、大きな特徴です。中世のコボルド伝承にイヌもしくはジャッカルとの積極的な関連性を示すものがない以上、これが「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」などのゲームによる一方的な設定であることは明白です。
知名度と引き替えに本来の姿を失った典型的な例と言えましょう。



●亜種・別名など
ブルー・キャップ/レッド・キャップ/コブラナイ/コボルド/プッカ/ゴブラン/コボルド・ロード(コボルド貴族)/コボルド・シャーマン(魔法コボルド)

ゴブリンGoblin

●イタズラ好きの妖精
ゴブリンはヨーロッパの伝承に登場するイタズラ好きの妖精です。フランス語ではゴブラン、ドイツ語ではコボルト(コボルド)という名前になり、日本語では「小鬼」「天の邪鬼(あまのじゃく)」の訳語が与えられます。

妖精、と言ってもフェアリーのような愛らしい妖精ではありません。
外見は醜悪で、性格は邪悪かつ姑息。貪欲この上なく、どんなに欲しいものを手に入れても満ち足りる、と言うことを知りません。当然のことながら、多くの場合は主役ではなく敵役、しかもすぐにやっつけられるザコ役として登場します。


●ゴブリンの由来
ゴブリンという呼称の由来については、「飲む人」を意味する古語に由来するという説もありますが(ガーゴイル参照)、一般にはギリシア語の「子供」を意味するコバロスKobalosから来ると解されています。このことからも分かるように、本来彼らは子供のような「イタズラもするけど悪さもする」ような愛嬌のある存在を差しておりました。

しかし、時代の変化とともに、彼らは徐々に悪い悪い存在へと貶められます。
もともと人間の悪い面を集めたような存在だったから、ということもありますが、それ以上にキリスト教のフォークロア(民間伝承)追放運動が影響しているように思われます。
一神教を標榜(ひょうぼう)するキリスト教にとって、多神教の雰囲気を色濃く残した妖精の存在は、かなり都合の悪いものでありました。ゴブリンだけでなく、トロールも、コボルド(コボルト)も、エルフも、ドワーフも、この運動によりみな一旦は悪魔や悪鬼のような存在に堕とされましたが、より人々の広い支持を集めていたゴブリン、ホブゴブリンといった連中は特にひどい扱いを受けました。


●悪いゴブリンたち
時代が下がるとともに、ゴブリンの悪辣さと傲慢さはますますその度合いを増します。民話や伝承を見ても、昔は「人間と対決しよう」「人間と知恵較べしてみよう」なんて気概のある連中がチラホラ見かけられたものですが、近世に入るとそんな前向きな姿勢もどこへやら、身も心もすっかり堕落して、完璧な「悪役」への道を邁進し始めます。

大人たちはいつまで経っても寝ようとしない子供たちに「ぐずぐずしていると悪いゴブリンがやって来るよ!」なんて怒り方をしましたし、子供たちはそんなゴブリンたちを本気で恐れました。この辺り、死者の意味だった「鬼」が、単なる剛力のバケモノに変わっていったのとよく似ています。

SF映画の金字塔として名高いスティーブン・スピルバーグ監督の「E・T」でも、宇宙人に初めて出遭った少年はまず「ゴブリン!」という叫び声を挙げておりました。「バケモノ!」というニュアンスでしょうか。


●物語のゴブリン
ジョージ・マクドナルドの作品に登場するゴブリンは、地下に棲み、人間へ強い恨みを持っています。思い出したように地上に這い出しては悪さをしますが、美しい歌声に弱く、聞くと耳を塞いで一目散に逃げ出します。下手くそ!と思っているからではありません。歌声に強いコンプレックスを持っているからです。

彼らはその姿に似合わず、歌というものをこよなく愛しています。いつか自分たちもあのような歌声を……と思っています。
しかし悲しいかな、彼らの声帯はガラガラ声しか出すことができません。ゆえに、人間が美しい旋律を奏でると、いたたまれなくなって逃げ出してしまうのです。

ゲームや小説に登場するゴブリンは、怖い怖いと言われていた近世・近代のスタイルをほぼそのまま踏襲しています。「敵役」としてこれほど分かりやすい存在もないからでしょうか。
特殊能力として「毒」と「暗視能力」を持っているとする作品も少なくありません。毒はその不潔な外見からの、「暗視能力」は暗がりに好んで棲むことからの連想だと思われます。

ところで、ゲームなどの中にはホブゴブリンをゴブリンの上位種として位置づけるものも多いと言います。ただ、ホブゴブリンとは「人間っぽいゴブリン」「善良なゴブリン」を意味するものであり、「悪い妖精」であるゴブリンとは本来一線を画すべき存在です。



●亜種・別名など
ブルー・キャップ/レッド・キャップ/コブラナイ/コボルド/プッカ/ゴブラン/ゴブリン・ロード(ゴブリン貴族)/ゴブリン・シャーマン(魔法ゴブリン)

オークOrc/Ork

●トールキンの怪物
オークは豚顔(もしくは醜い顔)を持つヒューマノイド(人間型知性体)の一種です。
ゲーム、小説、マンガなど、ありとあらゆる作品に登場する活躍を見せながら、なぜか中世以前の伝承にはまったく登場しません。それもそのはず、20世紀にとある作家の手によって生み出された、まったく新しい怪物であるからです。

英米比較文学の権威としても知られるオックスフォード大学言語学教授J・R・R・トールキン。彼が子供たちのために書いた「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」や「ホビットの冒険」と言った一連のシリーズ。その中で、冥王サウロンに連なる存在として、悪の限りを尽くしていたのがオークたちでありました。


●中つ国のゴブリンたち
トールキン自身の語るところによれば、オークとはホビット語(主人公たちの言葉)で「ゴブリン」を意味する言葉だそうです。

もともとは美しい種族エルフの仲間であったのですが、メルコール(モルゴス)という冥王がおびただしい数のエルフを地下世界に連行し、ひどい拷問を加えました。その結果、相当な数のエルフが苦痛と憎悪によって「堕落」し、醜いオークになり果てたのだと言います。

そうして生まれたオークは、あの美しいエルフとは同じだったとは思えないほど醜くなり果てました。
腰は曲がり、脚は弓なりになり、背は低く縮み、手は南方のサルのように長く伸びました。血は黒く冷たく、皮膚は「焼けた皮膚のように」真っ黒で、鼻孔も顔ものっぺりと扁平型です。口からは黄色く光る牙と分厚くて真っ赤な下が覗き、目は「炭が熱く燃えさかるが如く」に赤くギラギラしています。

醜悪なのは外見ばかりでなく、性格もそれに比して悪くなりました。酷薄で残虐、身勝手で貪欲。自分の利益のためならば、仲間でさえも平気で裏切る、文字通りの「卑劣漢」です。

彼らは太陽の光に大変弱く、日なたに身をさらすと衰弱するか焼け死にます。
サウロンはその辺りを改良して「ウルク・ハイ(ホブゴブリン、ハイ・オーク)」と言うオークの上位種を作りました。「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」で主人公の仲間ピピンとメリーを誘拐したのも、このウルク・ハイです。

歴史上(小説内の歴史という意味です、念のため)では冥王メルコールが滅した後、ぷつりとその姿を消します。
しかし、いなくなったわけではなく、地下に潜っていただけで、メルコールの配下であったサウロンが新しい冥王の座につくと、再び姿を現して彼の尖兵として働くようになりました。


●オークの由来
オークの名前の由来については、よく解っていません。トールキン自身がその話題に触れることを極度に嫌っていたためです。ただ、ローマ神話にオルクスという冥界をつかさどる神があり、それが起源ではないかと現在では考えられています。

オルクスはギリシア神話の冥界神ハーデスに当たる存在で、メデューサらゴルゴン3姉妹の父でもある神です。古代バビロニアの女神ポルキスとも深く関わっていると言われ、主に豚が生け贄へと捧げられました。その流れから、中世には豚顔と黒い羽を持つ悪魔とされることもあったと言います。


●ゲームのオーク
この怪物は、オリジナル系(非フォークロア系)としては珍しく、いろんな作品に登場します。
もとの作品からして悪役専門なので、イメージ的に敵役として使いやすいと言うのもあるのでしょうが、一番の理由は、現代のファンタジー作品に多大な影響を与えたゲーム「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」に、この怪物が正式採用されたことによるものと思われます。
もっとも、最近の作品のイラストなどを見ると、豚顔と言うよりは「サル」に近い感じになっているようですが……。

ゲームに登場する彼らは多くの場合、力も頭も弱いやられ役です。
その分を旺盛な繁殖力で補い、人間の前に登場する場合は必ず数人から数十人というオーダーです。人間と交配することもでき、生まれた子供は「ハーフ・オーク」と呼ばれ、人間からもオークからも疎まれる存在となります。


●オークのモチーフ
オークのイメージについては、あくまでも噂レベルの域を出ませんが、「黄色人種か黒人をモチーフにした」という話もあるようです。確かにこれらの人種は鼻が低く、繁殖力が(欧米人)に較べ強くて、肌も明らかに濃い色をしています。

トールキンが「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」を書いた20世紀前半と言う時代は、実は有色人種に対する偏見が最も強かった時代でもあり、黄色人種の進出を脅威とする「黄禍論」が話題を呼んだのもこのころです。
トールキンも、もしかするとこうしたイメージを頭にオークの姿を描いたのかも知れません。もっとも、作者の名誉のために言えば、彼自身はこうした噂をキッパリと否定しています。



●亜種・別名など
ウルク・ハイ/ハイ・オーク/オーク・シャーマン(魔法オーク)/オーク・ロード(貴族オーク)/ハーフ・オーク

オーガーOgre

●ヨーロッパの「鬼」
オーガーはヨーロッパの「鬼」に当たる存在です。
角も生やさず、トラ縞の服も身につけませんが、巨大な身体を持ち、その力は並はずれています。恐らく人間の骨など、素手の一発で叩き折ってしまうでしょう。

頭は決して良いとは言えませんが、変身などの魔法を使うこともあり、一筋縄では行きません。よほどの知恵者でない限り、その魂胆を見抜かれ、規格外の腕力で簡単にあしらわれてしまうのがオチです。


●知恵と努力の象徴
ヨーロッパに限らず、中世の民話には「鬼」や「巨人」と対決する話が数多く存在します。
そのほとんどは、弱い者(人間)が知恵と機転を働かせ、努力を尽くし、やがて鬼や巨人を退治する(または彼らの目を盗み、見事目的を達成する)という内容です。そこには、力がなくても人間が一致団結し、頭を働かせていれば、どんなことでもなしえるという強いメッセージが込められています。

シャルル・ペローの有名な童話「長靴をはいた猫(ねこ先生)」は、知恵のある猫が主人のために活躍する話ですが、その中に金持ちが人食い鬼(オーガー)をだまくらかす場面が出てきます。

猫は言います。「でもわたしにはどうも信じられないのですが、あなたは一番小さい動物の姿にもなる能力をお持ちとか。例えば、ねずみとか、二十日ねずみに変身する。正直に申して、そんなことは全く不可能に思われますが」
人食い鬼は当然その言葉に腹を立て、「これでどうだ!」と言わんばかりにネズミへ変身します。しかし、猫はその瞬間を逃さず、ぱくりと食いついて、人食い鬼を退治することに成功します。


●オーガーのルーツ
オーガーの呼称は、この「長靴をはいた猫」で人食い鬼につけられた「オーグルOgre」という名前が元になっています。オーガーはその英語読みです。
このオーガーは通常種族名か男性のみを差し、女性を特に呼ぶ場合は「オーグレスOgress」という呼称を用います。

オーグルという呼称そのものについては、北欧神話の主神オーディンの異名ユッグから来ているとも、ローマ神話の地下神オルクスの名から来ているとも言われますが、一般には遊牧民族オノグル族の名前から来ているという説が有力です。

オノグル族は東欧や中央アジアを荒らし回った種族で、マジャール族(フン族)とも密接な関係があります。
勇猛果敢な戦い方と残虐な性格で知られ、各地を蹂躙したので、住民たちが彼らを「鬼のような連中だ」と思ったのは当然と言えましょう。
そこから、オノグルという名前自体に「恐ろしい連中」「鬼」という意味が付加され、転じてオーグル、オーガーなどの言葉になったのではないかと考えられます。


●日本におけるオーガー
オーガーは現在の作品に多く登場しています。ジャイアント(巨人)やサイクロプス(一つ目の巨人)タイプも含めると、恐らくこの怪物が出ていないゲームはないのではないかと思われるほどです。
昔話に出る「鬼」と共通するところが多かったり、「でかくて強くて怖そうで」という比較的想像しやすいイメージだったりするなど、結構イメージ的に身近な存在であるところが、その「人気」の秘訣かも知れません。

一部の作品には、中世の伝承にあるような魔法を使うオーガー、高邁な精神を持つオーガーなども登場しますが、ただ、あくまでも一部の作品にとどまっていると言うのが実情です。



●亜種・別名など
鬼/オーグル/オグレ/オーグレス(女性形)/オーガー・ロード(貴族オーガー)

エルフElf

●ファンタジーの顔役
エルフという言葉に「幻想」の雰囲気を重ね合わせる人は多いと言います。今や彼らはドラゴンやゴブリンと並んで、ファンタジーの顔役であり、物語になくてはならない存在となりました。

ゲームや小説などの影響からか、彼らを一箇の種族として捉える向きもありますが、もともとは北欧やゲルマンにおける妖精の総称であり、つまりは「フェアリー」と同じく一般名詞に当たる言葉であったのです。

現在私たちが別の種族として認識し、別の名前で呼んでいる連中……ゴブリンやホブゴブリン、ドワーフ、コボルド(コボルト)、スプリガン、シルキー、ピクシー、ブラウニー、ケルピー、トロールなども、すべて「エルフ」の概念に含まれる存在でありました。
いま彼らとエルフが別と考えられているのは、あくまでも近年の区別によるものにほかなりません。


●エルフのルーツ
エルフという名前がどこから来ているのかはよく分かっていません。
チュートン語(古代ノルウェー語)の「妖精」を意味する「アールヴァー」「アールヴ」から来ているとする説が有力ですが、他にもラテン語の「白」を意味する「アルブス」、同じく「山」を意味する「アルベス」(※アルプス山脈の語源?)、北欧古語の「水」を意味する「エルフ」などが語源として考えられています。

北欧神話によれば、エルフは明るいエルフ(リョース・アールヴァー/ライト・エルフ)と暗いエルフ(デック・アールヴァー/ダーク・エルフ)に分かれると言います。

「明るいエルフ」は妖精界(アルヴヘイム、エルフェイム)に棲み、光と空の属性を持つ存在です。月下で金髪をくしけずり、自由に空を飛び、「白妖精」という名前を持っています。
一方、「暗いエルフ」は地底や人間の家のそばに棲み、闇と地の属性を持つ存在です。「白妖精」に対比して「黒妖精」と呼ばれることもあります。

「白」「黒」と言っても、あくまでも棲む場所や外見による区別によるもので、どちらが「善」で、どちらが「悪」とか、そういった区別はありません。強いて言うならどちらも「中立」。良い部分もあれば悪い部分もある……そんな感じです。

ただ、醜いモノをできるだけ自分たちとは縁遠いところに置いておきたいのは今も昔も変わらないようで、次第に「黒妖精」は、人間に敵対する巨人の一族であると考えられるようになりました。


●エルフのいたずら
今からはあまり想像もつきませんが、エルフと言えばかつては「イタズラ者」の代名詞でもありました。英和辞典によれば、今も「エルフelf」という言葉には「腕白小僧」「いたずらっ子」という意味があります。

彼らのイタズラはちょっと手が込んでいるのが普通で、多くの場合「エルフ・ショットelf shot」という見えない矢を射かけます。この矢に当たると足腰がしびれたり、突然生命を失ったりすると言うからかなり恐ろしいシロモノです。別名「フェアリー・ストロークfairy stroke」「エルフ・ダートelf dart」などとも言います。

恐らくは、脳血栓やヘルニアなど、かつて原因不明とされた病気の原因を、こうした妖精たちのイタズラに帰したのではのではないかと推測されます。弓矢の形をしているのは、イギリス各地でよく見られるやじり型の石を、妖精たちの放った矢の痕跡だと考えたところから来るものです。

その他にも、エルフの名を冠したものはいくつかあって、例えば「エルフ・サイトelf sight」は今で言う千里眼。「エルフ・ダンスelf dance」はエルフたちの踊り場です。エルフ・ダンスは草が円形に生えているのですぐに見つけることができます。
この踊り場に足を踏み入れた者は突然目が見えなくなったり、奇妙な病気に襲われたりするので、見つけても絶対に近寄ってはならない、とされました。


●エルフのイメージ
妖精や妖怪にさまざまなタイプが存在するように、エルフも、地方によってさまざまなタイプが存在します。
例えば、イギリス南部のイングランド地方では、群れをなす小妖精と考えられましたし、逆に北部のスコットランドでは人間大の大きさと考えられました。前者のイメージはシェイクスピアの考えた小妖精パックに、後者のイメージは「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」のエルフ像に、それぞれ昇華します。

今でこそエルフは美形・痩身・不老……など良い印象の言葉で語られるようになっておりますが、実はこうしたイメージはつい最近になってできたもので、中世どころか20世紀に入るまでは、どちらかと言えば悪い印象の方が強かったのです(この辺は日本の妖怪に似ています)。

姿も美形・不老どころか、老人の姿を持つ者あり、醜悪な姿を取る者あり、奇妙奇天烈摩訶不思議……なる外見の者あり。まるっきり怪物、あるいは宇宙人みたいな風貌で描かれることも多かったようです。

中世スコットランドの民謡には次のようなフレーズが残っています。ここでは「エルフ」の呼称がいわゆる「蔑称」みたいなかたちで使われています。

「インプ」「エルフ」と呼ぶなら気をつけて。
「フェアリー」と呼ぶなら、いろいろ邪魔をしてあげましょう。
「素敵なお嬢さん」と呼ぶなら、あなたの良きお嬢さんに。
「素敵なシーリー(妖精)」と呼ぶなら、
昼も夜も、良いお友達になりましょう。

こうしたイメージが一転したのは、トールキンが「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」などの中で、エルフを貴族的な雰囲気を持つ種族と描いてからです。
この設定はのちに「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」「ソード・ワールド」などの作品へと受け継がれ、エルフ像のスタンダードとなります。


●エルフと人間の見分け方
エルフの中には人間そっくりの姿を取る者もいます。そうした連中と人間を見分ける方法については、昔から「エルフは身体のどこかに人間ではない部分を持っている」というのがありました。

例えば、デンマークのエルフである「エレウーマン」はニワトコの木の精なので、背中がうろのようにぽっかりと空いています。だから、彼らは人間たちと踊ることがあっても、決して背中を見せる真似はしません。

スカンジナビア半島のエルフ「ハルダーフォルク(隠れた人)」は上から下まで人間そっくりですが、ただ一つ、「牛の尻尾を持っている」というところだけが違います。

あるハルダー・フォルクの女性がダンス・パーティに参加していたとき、ふとしたことからその尻尾がスカートの裾からはみ出してしまったことがありました。しかし、とある親切な若者が、そっと彼女に「靴下止めが出ていますよ」と注意したお陰で、周りに妖精とバレずに済みました。
くだんの若者は、そのお礼に一生幸福な生活を送ることができたということです。


●エルフの長い耳
エルフと言えば長い耳を思い浮かべる人は多いようです。「長耳族」と書いて「エルフ」と読ませる漫画家もいます。
彼らが長い耳を持つに至った理由について、動物の擬人化などの影響を考える人もいるようですが、どちらかと言えばアメリカ映画の影響の方が強いようです。彼の国では、「スタートレック」のスポック博士のように、亜人種に限らず、人間以外の知的生命体について耳を長く描く傾向があります。
それを、RPGリプレイ「ロードス島戦記」のイラストを手がけた出渕裕氏が、何を誤解したか、フェネックフォックスのような巨大な耳に描いたことから、日本では横に張り出した大きな耳のタイプが主流になったと言われています。



●亜種・別名など
アル/アルフ/アールヴァ/エルヴィン/アルプ/エルヴス/エルファ/フェアリー/シー(アイルランド地方の呼び名)/ムリアン(コーンウォール地方)/タルウィス・ティグ(スコットランド地方)/ウィーフォーク(ウェールズ地方)/エレウーマン/ハルダーフォルク/海エルフ/山エルフ

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