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2014年1月30日 (木)

バンシーBanshee/Bean-Sidhe

●ケルトの女妖精
バンシーはアイルランドやスコットランドなどにいる妖精です。
なぜか女性ばかりで構成され、男性はひとりもいません。それもそのはず、バンシーという名前自体がゲール語(アイルランド語)で「女(バン)の妖精(シー)」を意味する言葉から来ています。
いやいや、それは違う、バンは「塚」「丘」を意味するもので「女」にあらず……なんて説もあるようですが、いずれにしても、古い時代には妖精の女性を差す一般名詞として使われました。
男性を差す時にはバンシーの代わりに「ファーシーFear Sidle」という名称を使います。ファーFearはやはりゲール語で「男性」を意味する言葉です。


●泣き虫妖精
バンシーは女妖精という面の他に、死に臨んですすり泣く「泣き虫妖精」としての面があります。

地位の高い人間、名声のある人間が死にかけようとしているところに、どこからともなく顔色の悪い女性が集まります。彼女は家の周りをそぞろに歩き、そして大変大きな声で泣き喚きます。
その声はこの世のものとは思えず、身の毛がよだつほど。空を飛んで空中から金切り声を出す者もいます。このようにひとしきり大騒ぎした後、対象が死ぬと彼女らは忽然と姿を消してしまいます。

このような姿から、しばしば彼女らは「死神(デス・ゴッド)」と同一視されました。
しかし、積極的に生命を奪うわけではなく、死者の大切な何かを奪うわけではありませんので、その意味ではむしろ「死神」と言うよりは「死を告げる存在(デス・テラー)」に近いのではないかと思います。


●バンシーと名誉
イギリスでもアイルランドでも、バンシーが登場することは大変な名誉です。「バンシーが出た!」という噂が流れるだけでその家屋の価値は一気に跳ね上がります。

「バンシーが登場する」→「その家は名家と証明されたようなもの」という意味合いもあるのでしょうが、それ以上に幽霊やお化け好きな国民性が影響しているように思えます。「ミステリー・サークル」や「ネッシー」「心霊写真」と言ったものは、すべてこの国々が発祥です。

こうした面が影響しているのか、彼女らはしばしば「幸運の女神」としての役割も持ちます。
だらしなく垂らした乳房に吸い付くことができれば、その人間はあらゆる望みを叶えることができます。また、バンシーだけでなく全ての妖精に言えることですが、人間と(いろんな意味で)交わることでその相手に霊感や才能を与えることもあります。


●バンシーの外見
バンシーの外見は伝承によって違い、一定していません。
若い女性の姿で出ることもあれば、まるっきり老女という場合もあります。顔を器用に隠しながら出るものもあれば、姿はなく声だけが周辺から聞こえてくるなんてパターンもあります。まあ、いろんなタイプがあるということなのでしょう。いずれにしても、目の周りは泣きはらしたように真っ赤で、ほほえみを見せることはほとんどありません。

ハイランド地方(スコットランド高地地方)のバンシーである「ベンニーア(ベンニー)」は人間に似た姿の持ち主ですが、よくよく見れば身体のどこかに「人間ではない」部分を持っています。
例えば、鼻の穴が一つしかないとか、前歯がリスのように飛び出しているとか、指の間に水かきがあるとか……。このベンニーアは、一説によれば産褥(さんじょく)で死んだ女性の霊であると言われています。産褥とは産後に続く体調不良のことです。


●「泣き女」とバンシー
泣くだけで危害を加えないなんて、まるで人間のようだ……と思った人もいるかも知れません。実は、その指摘は核心を衝いています。そもそも「死に臨んで泣く」という行動そのものが、人間の風習から来るものなのです。

ヨーロッパにロマ族という部族がいます。少し前まで「ジプシー」などと呼ばれていたので、ご存知の方も多いでしょう。
独特の風習や文化を持つことで知られ、確たる定住地を持たず、古くは馬車、今はキャンピングカーに乗って各地を放浪しています。スペインの名物として有名なフラメンコも、実はイベリア半島に移住した彼らが伝えたものです。

このロマ族に、「泣き女」という風習がありました(今もあるかも知れません)。葬式の際に個人への悲しみの情を盛り上げるために、報酬を貰って家の前で泣くというものです。
言わば「泣きのプロ」。その様子は実際に見た人の話では「凄まじい」の一言だそうで、泣くわ喚くわ転がるわ、見ている方が心配になるほどだと言います。しかし、ことが終わればさっきまでの騒ぎようはどこへやら、笑顔さえ浮かべて悠然と去ってゆきます。

この風習自体は、決して珍しいものではなく、かつては日本でも行われていたことがあり、朝鮮半島や中国などでは今も「泣き女」で生計を立てている人がいると言います。

巷間に伝わるバンシーのイメージの多くは、こうした「泣き女」のイメージが元となっています。
死に臨んで現れると言うのは、「泣き女」たちが死にそうな人間の情報をつかんで集まる姿。バンシーの数が故人の徳に比例すると言うのは、有名人や金持ちには報酬目当て、あるいは顔つなぎのために多くの泣き女たちが集まることを示しています。



●亜種・別名など
バーバン・シー/泣き女/バン・ニーア/グラッハ・ア・フリビン/カヒライス/クーニアック/クンチアッハ

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