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2014年1月30日 (木)

ホブゴブリンHobgoblin

●人間に近しい妖精
ホブゴブリンは中世ヨーロッパの伝承に登場する妖精の名前です。単に「ホブ」「ホッブ」、もしくは「ホブメン」などと呼ばれることがあります。

「ゴブリン」に何かがついた、というイメージから、しばしば「ゴブリンより悪くて強そう」などと思われることもあり、そのような位置づけで出てくる作品もいくつか存在します。

しかし、ここで言う「ホブ」とは、「放浪者」「浮浪者」を意味する古語「ホボ」、もしくは人間の名前によく使われる「ロブ」がなまったもので、つまり、ホブゴブリンとは、人間のすぐ側にいる妖精、あるいは人間により近いメンタリティ(知性)を持った「善意のある妖精」のことを差すのです。

有名な例で言えば、イギリスの民話に出てくるロビン・グッドフェローや、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」に出てくる小妖精パックなどが、このホブゴブリンに当たります。
シャーウッドの森の義賊ロビン・フッドも「ロブ」系の名前なので、妖精でホブゴブリンの仲間に当たると考えられたことがありました。
妖精学的には、家付き妖精のブラウニーやシルキーを含む概念として使われることもあります。


●ホブゴブリンの性格
彼らは非常にイタズラが大好きです。酒やバターをダメにしたり、家畜を急に暴れさせたり、肌をギュウとつねってアザにしたり、椅子に化けては急に変身を解いて、座った人間をすっ転ばせたり……。

ただ、無辜(むこ)の人間を襲ったり、必要以上に傷つけることはしません。彼らはあくまでも、人間の驚くさまを見たいだけなのです。

だから、困った人がいれば積極的に手を差し伸べます。その辺は人間とあまり変わりません。
また、彼らは非常に律儀です。悪意には悪意で返しますが、その代わり善意にも善意で返します。彼らに親切にしたら一生幸福に暮らせるような贈り物を貰った……という話が、中世の民話にはいくつも残っています。


●ホブゴブリンのイメージ
ホブゴブリンの外見についてはいくつかのパターンが示されています。幽霊のようなタイプ、ギリシア神話のサテュロスのような半人半獣。悪魔そっくりの姿。妖精のような姿。そして人間とまったく変わりないとするもの。
これは、ホブゴブリンという存在が一つの起源から生まれたものではなく、いろんな伝承のいろんなエッセンスを取り入れて形成されたものであることを示しています。

後の時代になると、次第に彼らはゴブリンの上位種、もしくは悪魔そのもののような呼ばれ方をされるようになります。これは、キリスト教の「フォークロア(民話)追放運動」が大きく影響していると言われます。

一神教を標榜する教会にとって、多神教の雰囲気を色濃く残すホブゴブリンの姿は疎ましく映ったに違いありません。それゆえ、教会関係者の手によって、ありとあらゆる妖精が悪魔もしくはそれに類する悪鬼、小悪魔のたぐいに堕とされました。

特に、人々の広い支持を集めていたトロールやホブゴブリンは、中でもとりわけひどい扱いを受けました。
エルフやドワーフなど、近年のファンタジーブームで「復権」した存在もいくつか存在しますが、そんな中でも、ホブゴブリンに対するイメージは依然として悪いままで、彼らの名誉が完全に「回復」したとは言い切れない状態です。


●手伝いをする妖精
一口にホブゴブリンと言っても、そのイメージはさまざまですが、その中にはブラウニーやシルキーなどのように家に憑くタイプもいます。

彼らはわずかな報酬と引き替えに家事を行います。ミルク1杯、パン1枚などを台所の隅に置いておくと、次の日にはなくなっておりますが、その代わり薪割りや掃除などの家事がすっかり片付いているのです。
この報酬は一度たりとも欠かしてはならないもので、もし1回でも忘れると、ホブゴブリンは怒って永遠に姿を消してしまいます。

なお、パンやミルクの代わりに服などでも結構ですが、素材は上等すぎても粗末すぎてもいけませんので、注意が必要です。とあるホブゴブリンは、家の婦人から良いフードとマントを贈られたところ、
「はっ、フードとマントだ!ホブはいいことなんかもうしない!」
と歌って飛び出し、そのまま二度と戻りませんでした。

ホブゴブリンの名前に病魔を祓う力がある、と言うのもよく聞く話です。例えば、百日咳に苦しむ子供がいたら、ホブゴブリンのいる(とされる)洞窟まで連れてゆき、こう唱えるのです。

ホッブの穴のホッブさん
ホッブの穴のホッブさん
うちの子のかかった百日咳
持っていっておくれ
持っていっておくれ

すると、あれだけしつこかった百日咳がたちどころに快癒すると言います。


●ホブゴブリンと被征服民
ホブゴブリンの伝承。その根底にあるものは、ブリトン人やケルト人などに代表される被征服民、あるいはロマ人(ジプシー)などに代表される放浪民族などのイメージです。少なくとも、民俗学的にはそう読み取ることができます。
彼らの独特な風習が征服民の中に取り込まれ、同化し、昇華してゆく過程で、妖精という形に変わってゆくのだそうです。

人間の手伝いをしながら、最小限の報酬しか受け取らないというのは、ブリトン人やケルト人といった被征服民が、ローマ人やゲルマン人などの征服民の世話を受けながら、その水準を最低限にとどめようとしているあかし。
上等な服を贈られると出て行ってしまうのは、彼らが自分たちの文化を大切にしているということの証左でもあります。



●亜種・別名など
ロブ/ロビン/ロビン・グッドフェロー/ブラウニー/ホブ/ホブス/ホッブゴブリン/ホブスラスト/ホブゴブリン・ロード(貴族ホブゴブリン)/ホブゴブリン・シャーマン(魔法ホブゴブリン)

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