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2014年7月 2日 (水)

アスモデウスAsmodeus

●魔王の副官
アスモデウスは地獄の王のひとりに数えられる存在です。ソロモン72将の一角を占める有力な悪魔で、72師団もの軍団を率います。悪魔王ルシファーの副官を務め、コラン・ド・プランシーによれば地獄の遊技場総監も兼任しているそうです。現代で言えばラスベガス市長かモナコ国王といったところでしょうか。
利己、達成、美、自信などの概念をつかさどり、しばしば七大悪魔のひとりにも数えられます。

一般に「牡牛」「肥った人間」「牡羊」の3つの頭を持つ姿で描かれ、口からは炎を吐き、蛇の尾を持ち、足にはガチョウのような水かきがあります。
手には槍と旗を持ち、地獄の竜に乗ってどんな場所にも現れます。「地獄の王」と言うイメージからか、頭に王冠を載せた姿で描かれることもあるようです。


●地獄の教授
この悪魔は、何故かオカルティスト(オカルト研究者)の信奉を集めています。なぜなら、あらゆる知識に通じており、しかもそれを気前よく人間に教えてくれることがあるからです。

だから、彼と出会うことがあっても、決して怖がってはなりません。
落ち着いて「あなたはアスモデウス様ではございませんか?」と聞いてあげることです。
アスモデウス本人であれば「然り、私がアスモデウスである」と答えてくれますので、その機を逃さず立て続けに質問を飛ばせば、気分を良くしたこの悪魔はどんなことでも答えてくれます。例えそれが自分に直接関係ないことであっても。

彼はとりわけ幾何学、算術、天文学、工芸、力学などの分野に強いそうで、また、生身の人間ではとうてい知ることのできない悪魔学(デモノロジー)や不可視の術を授けてくれる場合もあります。
他にも、彼を支配する術者にはあらゆる効能を持つ指輪を与えてくれ、その人物を不敗たらしめます。財宝のありかを教え、特定の人物にその発見を強いる場合もあるようです。

逆に、この悪魔を祓うときには、堂々とした態度を取らねばなりません。
神の名を唱え、自信を持って大地に足を踏みしめ、なぜ去って欲しいのかを物怖じせずに宣言する必要があります。中途半端な「お願い」は彼を逆に調子づかせるだけです。これは他の悪魔の場合にも同じことが言えます。


●聖書に見るアスモデウス
アスモデウスは旧約聖書の外典「トビト書」にその名前が出ています。とある女性に恋をし、その夫たちを取り殺したが、しまいには天使に退治される……という役回りです。

メディアの街にサラという美しい女性がおりました。彼女はラグエルという資産家に嫁いだのですが、横恋慕していたアスモデウスはその夫を初夜の晩に取り殺してしまいます。
これだけなら単なる偶然と片付けられるかも知れませんが、同じような状況が何と7回も続いたので、とうとうこの呪われた女性を妻にする男性がいなくなり、サラは独り身を余儀なくされます。

大いなる神はそれを哀れみ、四大天使のひとりラファエルを地上へ遣わします。彼はアザリアという男性に変身して、トビトの息子トビアを引き連れてサラのもとを訪れます。そして、悲しみにふけっていた彼女にこう耳打ちしました。
「悪魔のことは心配しなくていい。きっと何とかしてあげるから」

実は、この天使は道中、チグリス川のほとりでトビアに命じ一匹の魚を捕らえさせておりました。この肝臓と心臓をいぶすと、どんな強い悪魔であっても耐えきれずに逃げ出してしまうのです。

果たして、内臓をサラの部屋でいぶし始めると、突如何かが部屋の外に飛び出す気配がしました。アザリア(ラファエル)はそれを見逃さず、直ちに後を追いかけます。
捕まえてみるとその正体はやはりアスモデウスでした。イヤな臭いを嗅がされて弱っていたこの悪魔は、ラファエルによって縛り上げられてしまいます。

こうして悪魔から解放されたサラは、アゼリア(ラファエル)の勧めもあってトビアと結婚します。そして、今度は夫が突然死ぬこともなく、二人は一生幸福に暮らした……ということです。


●ソロモンとアスモデウス
アスモデウスの登場する話はもう一つあって、こちらは女性を巡った話ではなく賢王ソロモンに関するエピソードです。追いかけ回すのもラファエルではなく、同じ四大天使のガブリエルです。

アスモデウスはソロモンに対し良い感情を持っておらず、この絶大な力を持つ王を失脚させようとことあるごとに策謀を巡らせていました。しかし、それが効力を発する前に大天使ガブリエルが降りてきて、せっかくの仕掛けをすべて見破ってしまいました。

アスモデウスは逃げ出しますが、ガブリエルはこの悪魔をさんざん追いかけ回し、小突いた挙げ句、エジプトのタアタという街の洞窟にこの閉じこめてしまいました。そして、足かせを嵌めてソロモンの前に連行し、この悪魔に強制労働を命令します。

アスモデウスは素直にこの刑に服し、エルサレムのさまざまな建物を建てたと言います。かつてこの街にあったと言われるソロモン宮も、実はアスモデウスの手によるものです。


●天使としてのアスモデウス
中世に悪魔とされたものの多くは、古代の神もしくは悪神にルーツを持っています。

アスモデウスも例外ではなく、もともとはゾロアスター教の悪神で、アエシュマ・デーヴァAeshma Devaと言う名前を持ち、「激怒」もしくは「情欲」をつかさどる存在であったと言われています。
ユダヤ人はこの悪神を「アスモダイ」もしくは「シャマダイ」「シドナイ」と呼び、悪魔の長と見なしました。アダムとイブに「知恵の実」を与えたのも、このアエシュマ・デーヴァ=アスモダイであると言われています。

別の説では、彼はグリゴリGrigori(人間界を監視する天使)と人間の間に生まれたハーフであったとされています。ハーフと言っても若者のような姿ではなく、天を衝くような巨人です。しかも性格は酷薄にして残忍、子供に触れるとすぐさまその首を絞めて殺します。
あるいは、智天使(ケルビム)の長……つまり上級第二位の天使たちのリーダーという超エリートでしたが、天界戦争でルシファーにくみしたので追放され、地獄に堕ちたのだとも言われています。

中世に入ると、アスモデウスは地獄を代表する悪魔のひとりとして説教師や悪魔学者に敵視されるようになります。「不正と犯罪と悪行の復讐者」と呼ばれ、しばしば結婚や恋愛を阻害する存在と見なされました。


●17世紀の悪魔憑き事件
17世紀のフランスでは、このアスモデウスがとある街の女性に取り憑いたと言うことで、大騒ぎになったことがありました。

フランス中西部、ルーダンという街の修道院に、1630年ごろ、グランディエという若い司教(司祭という説もある)が赴任しました。
彼は美男子で頭が良く、しかも若くして司教になった切れ者と言うことから、たちまち街中の女性の噂に上り、そのうちの何人かと浮き名を流すようになります。

その中に、ジャンヌ・デ・ザンジュという女性がいました。
女性ながらに男装に身を包み、女子修道院の院長も務めるやり手でしたが、新任司教に熱を上げすぎたせいか、あるいは他の理由があったのか、ある日突然彼女に大悪魔アスモデウスが取り憑きます。

街中が大騒ぎになり、直ちに中央より何人かの悪魔祓い師(エクソシスト)が派遣されました。何度か激しいやりとりがあった後で、とうとうアスモデウスは追放され、ジャンヌは悪魔から解放されますが、事件はここで終わりません。
関係者の間で「悪いのは誰だ」と言うことで再び大騒ぎになり、グランディエ司教の存在が問題視されました。

彼は教皇に釈明書を送るなど言い訳に終始しますが、町民の怒りは収まらず、「風紀を乱す罪」などで告発されます。そして、赴任から4年後の1634年、とうとう彼は「魔術を使う罪」で火刑に処されたと言うことです。



●亜種・別名など
アスモデ/アスモダイ/シャマダイ/シドナイ

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