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2014年7月 2日 (水)

アスピドケロンAspidochelon

●海の怪物
アスピドケロン(アスピドケローネ)は鯨に似た海の怪物です。
古代ヨーロッパ人の旅人や船乗りからその存在が言い伝えられており、2世紀に成立したと言われる「フィシオロゴス(動物寓意譚)」にもその記述があります。

アスピドケロンとは「蛇亀」の意味であり、古くはファスティド・カロンとも呼ばれました。皮膚は石のように硬く、身体中に海藻類が貼り付いています。背中に木々が密集して生えることもあるようです。
そのため、ちょっと見ると小島のように見えます。船乗りがそれを見つけて背中でたき火をしたところ、怪物が目を覚まして海中へ沈んだため、多くの犠牲者が出たとも伝えられています。アラビアンナイト(千夜一夜物語)の「シンドバッドの冒険」にもアスピドケロンに似た怪物が登場していました。

この怪物の特徴は、口から甘い匂いを出して魚を引き寄せるところにあり、中世の絵画には、しばしばこのアスピドケロンが魚をくわえた姿で描かれています。


●怪物の正体
この怪物の正体は、諸説ありますが、おおむね鯨で合っていると考えるのが妥当でしょう。

口から甘い匂いを出すというのは、龍涎香(りゅうぜんこう)の存在を示唆するものでしょう。ちなみに龍涎香とは、鯨の体内で生成される甘い匂いの排泄物のことです。
また、「フィシオロゴス」には、この怪物は空腹になると小さな魚ばかりを食べ、大きな魚は食べないと書かれていますが、これも鯨のヒゲを利用した食性をよく表わしています。


●悪魔の象徴
この怪物は、中世には悪魔の象徴と考えられるようになりました。
「甘い匂いで小魚を惹きつける」のは、悪魔が甘言を弄して、宗教的に成熟していない人間を誘惑して地獄へと連れ去ることを表わし、「大きな魚を食べない」というのは、理性をそなえた大人は、そうした悪魔の誘惑にうち勝つことを象徴しています。

ちなみに、古代詩を集めた中世の写本「エクセター写本」には、「鯨」と題する詩が所収されており、その中には、口から香気を出して魚を誘い出すことや、その香気に釣られた者が永遠に鯨の口内に閉じ込められることなどが書かれており、その記述はアスピドケロンの伝承にそのまま符合します。



●亜種・別名など
アスピドケローネ/ファスティド・カロン/ザラタン

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