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2014年7月 2日 (水)

アザゼルAzazel

●地獄の第一旗手
アザゼルは悪魔のひとりです。ただし、ルシファーやアスモデウスのような影響力も実力もありません。位で言えば中堅どころ。
かつては天界戦争で叛乱軍の第一旗手を担うという栄誉を担いましたが、功績らしい功績はそれだけで、今は「贖罪の日」に使われる山羊の番などをしながら細々と暮らしています。

このような地位にあるせいか、絵画などに描かれるアザゼルの姿はやや貧相です。コラン・ド・プランシーの「悪魔の辞典」でも、彼は力強いがそれ以外に特徴のない、凡庸とした大男の姿で描かれています。

その一方で有力な堕天使と見る向きもあって、「アブラハムの黙示録」という本の中では「7つの蛇の頭、14の顔、12の翼を持つ」などと書かれており、かなり威圧感のある姿です。


●墜ちたエリート
そんな彼も、かつては高い地位の天使であり、グリゴリGrigori(人間界監視団)の総司令を務める超エリートでありました。アザゼルという名前も、「神の強者」を意味するヘブライ語に由来します。
彼が父なる神に叛旗を翻し、天界を追放されたときには、グリゴリの全員、人数にして200人もの天使たちが付き従ったといいますから、かなりのやり手であったことは確かです。

彼らが天界に反抗した理由について、旧約聖書の「エノク書」は「人間の女性に恋したため」と記しています。グリゴリの200人は人間を監視するため、そして場合によっては彼らを滅ぼすため、しばしば地上を訪れていたのですが、こともあろうに、メンバーの全員が人間女性の色香に惑わされ、ひとり残らず彼女たちを妻に迎えてしまうのです。
その罪を問われてアザゼルはグリゴリの総司令を解任、メンバーもすべて罷免され、地獄へ堕とされました。

また別の説では、アザゼルたちの高慢さにその原因を求めています。人類の始祖と言えば、ご存知アダムとイブですが、アダムは神が手ずから作ったこともあって、高い神性を持っていたため、天使たちをその下に組み入れようとしたのです。

それに反対したのが、アザゼルら一部の天使たちでした。

「我々は天使です。天使と言えばすなわちエリートであります。そのエリートが、何でチリから生まれた人形(アダム)に従わなきゃいかんのですか!」

彼らはこう言って天使任務の放棄、いわゆるストライキに入ります。ところが、神はそれを許さず、サボタージュに入った天使を全員天界から追放してしまいました。


●知恵をもたらす悪魔
さて、追放されたアザゼルらグリゴリは、こともあろうに、人間に知恵を与えることで父なる神への復讐を行います。

アザゼルは剣や小刀、楯、胸当てなどの武器防具、指輪、腕輪などの装飾品に関する知識、そして化粧法などを伝授します。他のグリゴリたちは天文学や占星術、薬学、魔術などを教えました。
その結果として、男は戦いばかりするようになり、女は外面を飾って男に媚(こび)を売るようになりました。そして、嫉妬や強欲、淫乱という感情に囚われて、堕落への道を転がり落ちていったのです。

さらに、グリゴリたちの子供は身長が3000キュピト(およそ1350メートル)という途方もないサイズに達したので、地上の食べ物があっという間に底を突き、子供たち同士の争いが慢性化します。
さすがの神もこれを看過することができず、大量の雨を降らせて、グリゴリの子供たちを含むあらゆるものを洗い流してしまいました。

ちなみにこの時、啓示を受けて難を逃れたのが、「方舟(はこぶね)」で有名なノアとその家族です。


●アザゼルのルーツ
アザゼルの起源はセム人(シリア人)の間で信じられてきた神であり、旧約聖書にもその名前は登場します。

「レヴィ記」には、ユダヤの習慣として二頭の牡山羊を神とアザゼルに捧げるという風習が紹介されていて、当時の人々がこの神に生け贄を捧げていたことが分かります。
神に捧げられた方はそのまま殺され、血は贖罪に使用されます。
残った方は司祭が両手を置いて自らの罪、民衆の罪をすべて告白し、山羊にそれを背負わせた後、沙漠にその山羊を放逐します。つまり、罪を全部この小動物に押しつけて昇華させたのです。この山羊を人々は「アザゼルの山羊」と呼びました。

このような背景を持つからか、中世に入ってこの神はルシファーやアスモデウスらと同じ悪魔のひとりと見なされ、教会の憎悪を集めます。

その一方で、知識人たちはこの悪魔をしばしば擁護しました。なぜなら、彼こそが神によって独占されていた「知識」を人間に分け与えた功労者だからです。
彼の「狼藉」がなければ、今も人間は文化的な生活を送ることができていなかったわけで、同じ理由で、錬金術師や異端者などもこの悪魔をしばしば崇めています。

もしかすると、アザゼルがその「罪」のわりに、地獄での地位があまり高くないのも、こうした「人間寄り」の行動が影響しているのかも知れません。



●亜種・別名など
アザエル/アジエル/ハザゼル/アゼル

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