« ベレトBeleth | トップページ | ベリアルBerial »

2014年7月 3日 (木)

ベルフェゴールBelphegor

●地獄の女博士
ベルフェゴールは地獄の大幹部で、ルシファーの副官のひとりです。
悪魔では数少ない女性のひとりであり、人間に化けるときにも若い女の姿を取ります。

頭に二本の大きな角が生えており、後ろからは牛の尻尾が生えています。
発明と創意工夫の概念をつかさどり、悪魔たちの使うありとあらゆる武器を開発しました。言わば地獄の博士(ドク)、企業で言えば開発部長に当たります。

同じ頭脳派のアスモデウスと違うのは、理論だけでなく実務にもたけているという点です。ルシファーが天界に弓引いたときには、彼女はその傍らに馳せ参じて作戦立案の一切を取り仕切りました。

もともとは権天使(プリンシパリティーズPrincipalities、下級第一位の天使)の地位にあった存在で、要するに現場担当の下っ端に過ぎなかったのですが、堕天後、その能力を悪魔王ルシファーに買われて地獄の実務を取り仕切るに至りました。
要するに事務から一気に専務に駆け上がった悪魔の出世頭と言うわけで、彼女がいなければ地獄は一日たりともやってはいけないのではないかと思われます。


●ベオル山の女神
もともと彼女はモアブ人(ヨルダン人)たちの崇める存在であったと言われています。理知的な姿の女神で、放埒な性を司っておりました。
ベルフェゴールという名も「バアル・ペオル(ペオル山の王、裂け目の王)」に由来するもので、カナン人(パレスチナ人)の神バアルの尊称であったと考える人もいます。

彼女も他の魔神の例に漏れず、しばしば生け贄を求めたことから、ユダヤ系のラビによってデーモンの地位に貶められます。
旧約聖書「民数記」によれば、かつてヨルダン川東部にて、ベルフェゴールが疫病を起こしたことがあり、実に2万4000人が亡くなったとされています。
また、ギリシアの古神プリアポス(生殖の神)と同一視され、そのために彼女は大きな生殖器を持つ男性神の姿を与えられます。

また、排泄物をつかさどることからクレピュリス(屁の神)なんて称されたこともありました。ちなみに、排泄物は本来の意味や悪口の他に、財産そのものを表すこともあります。

こうしたイメージが影響しているのかは分かりませんが、中世のベルフェゴールはおおむね移動式便所、もしくは変な小箱に座る醜悪な悪魔として描かれる傾向にありました。
コラン・ド・プランシーの「悪魔の辞典」でも、やはり「彼女」は便器に座る、角を持った大男の姿で描かれています。


●人間嫌いの悪魔
ベルフェゴールはひどい人間嫌いという面を持っています。悪魔ならば誰しも人間不信ではあるのですが、彼女の場合それが極端なのです。それゆえか、「ベルフェゴールBelphegor」という名前そのものにも「人間嫌い」という意味が与えられました。

彼女が人間嫌いなのは、とある論争によるものだと言われています。天界から地獄へ堕ちてしばらく経ったころ、同僚たちとあることで言い争いになりました。

「人間たちは幸福な結婚をしているのか?地上に幸福な結婚というものは本当に存在するのか?」

同僚たちは「そりゃあ、存在するんじゃないか」と言いました。彼らの「食い扶持」である「不倫」や「変心」は、幸福な結婚があればこそ存在するわけですから。

しかし、ベルフェゴールは「そんなもの、存在しないわ!」と言い張りました。天使時代に何かあったのかどうかは分かりませんが、彼女は当時から、女性に対し極端な不信感を抱いていたのです。

最初は単なる暇潰しのような話だったのかも知れません。しかし、次第にヒートアップして、上司まで巻き込む大論争へと発展し、ついには地獄の意見が二分されるに至って、とうとうトップも無視できなくなり、彼らはベルフェゴールに対し次のような命令を下しました。

「お前が地上に行って実際に『幸福な結婚』とやらがあるのかどうかを確かめてこい」

ベルフェゴールは直ちに地上へ赴き、人間の生活をつぶさに観察したのですが、あいにく幸福な結婚生活を送っている家を発見することはできませんでした。
結局、この報告に基づいて「人間界に幸福な結婚はない」ということになり、彼女は地獄での地位をさらに高めた、と言うことです。

もっとも、これには「あえて幸福でない家庭だけ回ったのではないか?」という疑惑も取り沙汰されています。何せ、ベルフェゴールは論争の中心にいて、客観的とはとうてい言い難い位置にいたわけですから。
それが影響しているのかどうかは分かりませんが、「ベルフェゴールの探究」と言えば「不可能な企て」と同じ意味を持つようになりました。

« ベレトBeleth | トップページ | ベリアルBerial »

悪魔」カテゴリの記事