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2014年7月 3日 (木)

キマイラ(キメラ)Chimaira/Chimera

●複合怪物
キマイラ(キメラ)はギリシア神話に登場する怪物です。
その名前はギリシア語で「牡山羊」を意味する言葉から来ていますが、一般にはライオンの頭、山羊の身体、蛇の尻尾を持つ姿で知られますが、それぞれの部分から原型となった動物の頭が生えているとするものあり、人間の顔を持つものあり、けっこうその外見はバラエティに富んでいます。

13世紀の「ウェストミンスター動物寓意譚」では人間の顔を持つ怪物に描かれておりました。いずれにしても、並はずれた巨体と腕力の持ち主で、口からは炎を吐くことができます。


●ギリシアのキマイラ
もともと、この怪物はヒッタイト地方(トルコ南部)の聖獣で、活火山として有名だった西トルコのリュキア火山(キマエラ火山)を動物化したものです。
その独特の風貌も、山中に棲んでいた代表的な動物3種……つまり、頂上付近のライオン、中腹の山羊、ふもとの蛇を、そのまま組み合わせたものであると言われています。あるいは、春・夏・冬の三季を表すという説もあります。

古代ギリシアの詩人ホメロスは、著書「イーリアス」の中でこの「奇妙な動物」について触れており、「人間ではなく神族に属し」「体躯の前がライオン、後ろが蛇、中間は山羊」の形をしていると述べています。
紀元前700年ごろの詩人ヘシオドスも、この怪物は水蛇ヒュドラの子供であり、雌山羊・獅子・大蛇(もしくはドラゴン)の頭を持つと著書「神統記」に書いています。

ギリシア神話では、リュキア地方(トルコ西部)を荒らし回る傍若無人な怪物として登場しています。しばしば大暴れしてはリュキアの人々を困らせたので、英雄ベレロフォンによって退治されました。

彼は、マトモに正面からぶつかってもかなわないことをよく分かっていたので、一計を案じ、槍の先に鉛の塊を取り付けました。
ペガサスに乗り、空中から怪物の顔めがけて急降下。そして、まさに火を吐かんとしている怪物の口の奥深くに、その鉛を差し込みました。
キマイラは突然現れたこの厄介者に、炎を吐こうとして対抗しますが、噴射したその瞬間、鉛の塊が口の中で溶けて喉を塞いたので、怪物は窒息して死んでしまいました。


●キマイラの象徴するもの
この怪物は、見た目の恐ろしさやギリシア神話にも語られる獰猛さから、「肉欲」もしくは「売淫」を象徴するものとして、しばしばキリスト教の説話にも登場するようになりました。
「女性は欲深い」という考え方から、しばしばこの怪物と女性を結びつける者もおり、中世には売春婦や女性そのものを「キマイラ」と呼ぶこともあったようです。12世紀の詩人マルボートは次のような詩を残しています。

「キマイラよ、ひとは汝にきわめて適切にも三つの形態を与えた。
すなわち、前方には獅子、後方にはドラゴン、そして中央には熱く燃えたぎる火を。
これが娼婦の本性を隠す幻のイメージなのだ。
なぜかといえば、彼女はその餌食をさらってゆくために、いかにも上品な外見を装いながら、獅子の口を突き出すからだ。この見かけの上品さによって、彼女は犠牲者を手中に収めるや、その愛欲の炎で彼らを貪り喰うのだ」

「恋愛」の象徴と考えられることがあるのは、衝動(ライオン)と成就(山羊)と悔恨(蛇)という組み合わせのゆえでしょうか。あり得ない組み合わせというところから「不可解な夢」「不調和な幻影」を表すこともあります。

キマイラChimeraを形容詞化したキメリカルChimericalという言葉は「想像上の」「奇想天外な」という意味です。


●現代のキマイラたち
キマイラという名前は、異質な二面性を持つものの比喩としても使われます。
例えば戦前・戦時中に独立国家としての体面を持ちながら、一方で日本の傀儡としても機能した「満州国」は、しばしば「キメラ国家」と呼ばれました。

そもそも、キマイラという呼び名そのものに「二つ以上の動物を融合させたもの」というイメージがあって、異なった動植物を掛け合わせたものを「○○と××のキマイラ」と表現することがあります。

生物学的手法で種類の異なった胚を融合させたものも「キメラ(キマイラ)」と呼ばれ、しばしばニュースなどでもこの言葉が使われます。

この系統で有名な例と言えば、やはり「ジャガイモ」と「トマト」を掛け合わせた「ポマト」を挙げずにはいられません。
地上にトマト、地下にジャガイモがなるという植物で、「科学技術の進歩」を語る時には必ずと言っていいほど引用されます。通常の「雑種」と違うのは、異なった性質・属性の生物を掛け合わせることで、両親の性質を併せ持った、あるいはどちらの性質も受け継がない、まったく新しい生物を生み出すということです。

このほか、有名なキマイラとしては、山羊と羊を掛け合わせた「ギープ」、ライオンとヒョウを掛け合わせた「レオポン」などの例がありますが、ポマトも含めて、これらの生物は例外なく繁殖能力が著しく落ちるという特徴があります。

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