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2014年7月 3日 (木)

デヴィルDevil

●中傷する者たち
デヴィルDevilはヨーロッパにおける「悪魔」の総称です。
その名は「非難する者」「中傷する者」を意味するギリシア語ディアボロスDiabolosに由来し、その指し示すところはきわめて広く、人間を悪の道に引きずり込む者のみならず、堕天使や異教の神々をその概念に含みます。
「デーモンDemon」という呼び方もありますが、こちらは「神の如き者」を意味するギリシア語ダイモニオンDaimonionから来るもので、本来は下位神や精霊などを差す言葉です。

いずれにしても、異教の神や精霊みたいな存在を差す言葉でありましたが、キリスト教の拡大に従って、彼らは神の敵、人間を堕落させる悪い存在と見られるようになりました。

ベルゼブブやアスモデウスといった有名な悪魔も、もともとは異教の神であり、人々の信仰を広く集めていた存在だったと言います。
絵画に描かれる悪魔は角を持っていたり、動物の頭を持っていたりするなど、しばしば動物の要素を持った風貌で描かれますが、この「半人半獣」という形は、民間信仰の神々や精霊に見られるイメージでもあるのです。


●キリスト教と悪魔
もちろん、キリスト教も最初から何でもかんでも悪魔呼ばわりしていたわけではなく、初期の教会は結構彼らに寛容な態度を取っておりました。
教えを広めるのに忙しく、敵を設定して戦っている場合ではないという理由もあったのでしょう。

しかし、ヨーロッパ全土にこの教えが定着し、神の絶対性が理論の上で確立されるようになると、次第に多神教時代の雰囲気を残した神々や精霊はキリスト教にとって非常に疎ましいものになってきました。
一時期は精霊信仰はおろか、聖人信仰や大地崇拝すら「とんでもない!」と言われていて、ユダヤ系の天使ですら「悪魔」呼ばわりされたこともあったと言います。

しかし、行きすぎた締め付けが、逆に人々の素朴な信心までをも奪ってしまうケースが続出したので、悪魔に堕とされたもののうち、比較的温厚なイメージを持つものがキリスト教の信仰に再び取り入れられるようになりました。

その影響が最もよく出ているのが「天使」でしょう。
天使の最大勢力を占める「主天使(ドミニオン)」も、こうして復権を果たした神々・精霊たちが形を変えたものだと言われています。

そもそも、「ドミニオンDominion」という言葉自体がギリシア語の「神の如き者」を意味するダイモニオンDaimonionに由来するもので、悪魔を意味する「デーモンDemon」と同根の言葉です。
カトリックの「聖母マリア」信仰も、こうして復権を果たした大地母神が教義の中に取り入れられたものだと言われています。


●サタンとデヴィル
悪魔を差す言葉としては、デヴィルやデーモンの他に「サタンSatan」があります。

こちらは「敵対者」を意味するヘブライ語に由来するもので、もともとはユダヤの教えに登場する神の従属者でした。
彼らは人々を惑わせ、社会に混乱を巻き起こします。

惑わせるのに「従属者」と言うのも変な話ですが、彼らは本気で神に逆らっているのではなく、あえて倫理に反する行動を取ることで、人間の神に対する忠誠心を試しているのだと言います。
キリスト教では「サタン」と言えば悪魔王ルシファーただひとりを差します。

もっとも、聖書や教典などでは、彼らはそんな「深謀遠慮」などおくびにも出さず、もっぱら人々の間を狡猾に動き回り、信仰の邪魔をし、堕落させる存在として描かれます。
「アダムとイブ」のイブを誘惑した蛇も、大天使ミカエルによって天界を追われた竜も、イエス・キリストの瞑想を邪魔した悪霊も、すべてこうした「サタン」が形を変えたものになりました。

さて、デヴィルDevilという言葉は悪魔全般を差す一般名詞に過ぎませんが、このデヴィルに「The」がついた「ジ・デヴィルThe Devil」という形になると、これは数ある悪魔の中でもひときわ力を持った最高幹部たちを差します。
具体的には、悪魔王ルシファー、「蠅の王」ベルゼブブ、アスモデウス、ベリアル、ベヒモス、リヴァイアサンなどを差します。


●悪魔の体系化
悪魔は世界に数千億の眷属がいると言います。1000億と考えても地球上の人口の15倍以上ですから、いったいどこにそんな数の連中がいるのだという感じですが、それだけ人々が「敵」の強さを求めていたということなのでしょう。
少年漫画でもそうですが、敵が強ければ強いほど、その数が多ければ多いほど、彼らに対抗する「正義(=神)」の強さや格好良さが際立ってくるわけですから……。

悪魔の数が増えてくると、これを体系化しようとする学者が出てきます。あやふやだった外見に明確なイメージが与えられ、地位・職能・役割・経歴などの要素が付加されるようになりました。

例えばルシファーは堕天使で天使ミカエルの双子の兄で悪魔王の地位にいる。ベルフェゴールは地獄の大幹部で発明と創意工夫をつかさどる。リヴァイアサンは海軍の大提督でウソや詐欺をつかさどる……なとと言ったように。

こうした体系化の中でも、有名なのが「七つの大罪」にそれぞれ7人の悪魔が属しているという分類のしかたでしょう。
これは、悪魔学者によってそれぞれ違ったパターンが示されていて、いずれもそれなりに説得力があります。

以下にあるのは、悪魔学者ピンスフェルドによる分類法です。

ルシファー:自慢(プライドPride)
マモン:貪欲(アヴァリスAvarice)
アスモデウス:淫乱(レシェリーLechery)
サタン:憤怒(アンガーAnger)
ベルゼブブ:大食(グラトニーGluttony)
リヴァイアサン:嫉妬(エンヴィーEnvy)
ベルフェゴール:怠惰(スロースSloth)

同じく悪魔学者のアルフォンス・ド・スピナは、大罪別ではなく性格別の分類法を残しています。その内容は次のとおりです。

1.運命をつかさどるもの
2.物体を動かすもの(但し、損害は与えない)
3.淫魔(インキュバスとサッキュバス)
4.人間のように現れては、大声で飲み食いし、騒ぐもの
5.人間と飲み食いするもの
6.夢魔(夢の中で人間を怖がらせる)
7.男女の交接の際の分泌液から形成されたもの
8.人間をまどわすべく、男や女の姿で現れるもの
9.聖者を攻撃するもの
10.サバト(悪魔儀式)へ行こうと誘うもの


●悪魔の能力と弱点
悪魔はさまざまな能力を持っています。魔法を使ったり、幻覚を見せたり、空を飛んだり、呪いをかけたり……。中でも頻度、バリエーションともにとりわけ群を抜いているのが「変身能力」です。ある意味、悪魔としての「格」は、いかに上手に変身を行うかにかかると言っても過言ではありません。

人間はもちろんのこと、イヌやオオカミ、羊、牡山羊、熊、猫、サソリ、馬など、ありとあらゆるものに彼らは化け、必要とあらばドラゴンや天使の姿を取ることさえあります。
また、頭が人間で身体がイヌといったキマイラ状の化け方も、悪魔によっては可能です。

もっとも、彼らの化け方は不自然さと言うか、「違和感」みたいなものが残るのが普通です。
外見は完璧に人間であっても、顔色が異常に悪かったり、凄まじい異臭がしたり、視線が到底人間のものではなかったり……。
もっと単純に尻尾の有無や影の形で悪魔とバレるパターンもあります。
また、何にでも化けると言っても、子羊と鳩にだけは変身することができません。理由はよく分かりませんが、神に禁じられているからとも言われています。

悪魔が最も苦手としているのは、太陽の光です。ゆえに、どんな高位の悪魔であっても、昼間は野獣の中に隠れてやり過ごします。
他にも、聖水や十字架などのホリーシンボル(聖印)、ヒヨス、ヨモギ、ルリハコベなどの薬草も苦手としています。硫黄の粉を燃やしていぶすというのも効果的です。旧約聖書では魚の内臓をいぶしたものを使っていました。


●悪魔祓い(エクソシスム/エクソシズム)
万が一、悪魔に取り憑かれたらどうしたら良いでしょうか。いろんな方法が考えられますが、まずは聖職者のところへ行って「悪魔祓い」をしてもらうのが一番だと思います。

キリスト教の場合、聖水や十字架、蝋燭、塩などの道具を用いて、賛美歌を歌い、神の名を唱えて、十字を切り、悪魔にこの身体から出て行ってもらうよう説得します。
本当に効くのかなあ?といった感じですが、弱い悪魔ならこの程度で充分なのだそうです。

厄介なのはベルゼブブやアスモデウスと言った高位の悪魔が取り憑いた場合。この時は並みの聖職者では祓えませんので、総力戦になります。

何人もの悪魔祓い師(エクソシスト)が集結し、それでもダメなら司祭や司教といった高位の聖職者の力も借ります。
むろん、賛美歌や聖印で何とかなるようなレベルではなく、説得する方も命がけです。昔は暴力や拘束などの手段を取る場合もあったそうで、そのために多くの人々が生命を落としました。

この「悪魔祓い」は決して過去の話ではなく、今もどこかで行われ続けているのだそうです。ローマには何人もの「公認悪魔祓い師」が存在し、実際に儀式を行っていると言います。

なお、現代の悪魔祓いはいきなり儀式から入るのではなく、まずカウンセリング……つまり「被害者」の言い分を聞くことから始まるそうです。
単なる情緒不安定ならば病院を勧め、それでも治らない(あるいは真正な悪魔のしわざと判明した)場合について、初めて儀式という手段に訴えます。



●亜種・別名など
デーモン/サタン/ルシファー/ベルゼブブ/アスモデウス/アモン/ベルフェゴール/ベリアル/ベヒモス(ベヘモト)/リヴァイアサン(レヴィアタン)/フィエント/バアル

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