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2014年7月 3日 (木)

ドラゴンDragon

●ドラゴンという怪物
世界に怪物は数多くあれど、ドラゴンほどその名を知られているものもないでしょう。単なるキャラクターのひとつとしてだけでなく、中世風世界のフレーバー(雰囲気づけ)の一つとして、あるいは最大最強の敵役として、そして伝承における重要な登場人物として、今も多くの作品に登場し続けています。
また、小説や漫画の題名になったり、絵画や音楽のモチーフになったり、また勇躍著しいアジアの国家・文化を象徴する概念としても使われるなど、その活躍は恐ろしく多岐に渡ります。


●ドラゴンの起源
ドラゴンの起源はきわめて古く、6000年以上の歴史を誇ります。
一口に6000年と言ってもピンと来ませんが、ピラミッドが作られたのが同じ6000年前と考えられておりますので、それに匹敵する歴史を持つわけです。

体系化された伝承に登場するのは、バビロニア神話が最初と言われており、その歴史はやはり5000年を超えます。

ドラゴンという呼称がどこから来ているのかはあまりよく分かっていません。
サンスクリット語(梵語)の「蛇」を意味する「ドリグヴェシャ」から来ているという説、ギリシア語の「鋭く見る者」「蛇」を意味するドラコーン、もしくはラテン語の「素早く見回す者」を意味する「デルケスタイ」などが語源として考えられていますが、いずれも決定打に欠けるというのが実情です。
あるいは他に語源みたいなものがあるのかも知れません。


●水とドラゴン
ドラゴンには常に大河のイメージがついて回ります。
巨大な身体を地に横たえ、しばしば縦横無尽にその形を変える。動きは常としてやまず、ときに人や生き物をその口に呑み込む脅威となる。このような姿に、昔の人々が生き物のような印象を抱いたのは、至極当然のことと言えましょう。

実際、古代のドラゴンには「水」にまつわる話が多く、またそれを退治する者にも「治水」に関するイメージが強くついて回ります。例えば、「相柳」というドラゴンを退治したと言われる古代中国の聖王・禹(う)は、一方で「治水名人」としての面を持っています。

日本の有名なドラゴンである「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」も、かつて「出雲の暴れ川」として知られた斐伊(ひい)川の持つイメージを色濃く受け継いでいますし、尻尾を斬ったら三種の神器のひとつ「草薙(くさなぎ)の剣」が出現したというのも、斐伊川を修繕することで、名剣の材料となるような良質な砂鉄が得られるようになったことを示しています。

日本各地にその伝承が残る「龍神様」も、川のイメージからはやや離れますが、やっぱり水と密接なつながりを持っています。
池や湖などの水場に棲み、それを荒らす者に厳しい罰を与えます。また、雨が少ない時などにはよくこの神に供物や生け贄を捧げるということが行われてきました。

日本にはこうした「水神」の住処が、分かっているだけでも何十カ所もあるそうで、その中には秋田県の田沢湖や箱根の芦ノ湖のようなメジャーどころも含まれています。
龍の住処を意味する「竜宮」まで含めると、いったいどれくらいの数になるのか見当も付きません。

こうした事情と関係あるのか、今も湖や大河などでは恐竜に似た生物の目撃例がしばしば報告されています。
ネス湖のネッシーをはじめとして、北海道・屈斜路湖の「クッシー」、鹿児島・池田湖の「イッシー」などがそうです。目撃例こそないものの、同様の話は日光の中禅寺湖や箱根の芦ノ湖にも残っています。


●ドラゴンの象徴するもの
ドラゴンは川の象徴であると同時に、かつては自然の荒々しさを表すものでもありました。
ドラゴン退治で有名な人物と言えば、「竜退治」で有名な聖ゲオルギウスや、ヒュドラ竜を退治したヘラクレスなどの名前が挙げられますが、彼らには同時に「自然と対抗する人間自身」のイメージを内包しています。
ゲオルギウスという名前もラテン語の「地面で働く人」「農夫」という意味を持ちます。

ヘラクレスもギリシア語で「ヘラの栄光」であり、ヘラは自然の女神ですので、彼女の命令で12の苦行をこなす英雄の姿は、やはり自然と格闘する人間の姿をイメージさせます。

中世に入ると、次第に「自然」のイメージは薄れ、権力や腕力、あるいは敵意といった「力」そのものの象徴と考えられるようになります。
一部の貴族や騎士たちは、この人智を越えた力にあやかろうと、こぞってこの怪物を崇めました。ロンドン市の紋章にもこの怪物をかたどった紋様が使用されています。

17世紀から18世紀にかけて世界最強を誇った部隊は「竜騎兵(ドラグーン)」の名前で呼ばれましたし、また、ハンガリーとトルコという、当時の強国に挟まれたとある小国の領主は、その苛烈な政治と勇猛果敢な戦い方から、侮蔑と賞賛を込めて「小龍公」――「ドラキュラ」という呼称を与えられました。

キリスト教などでは、この怪物は「蛇」のイメージに通ずることから、しばしば悪魔と同列に語られるようになります。蛇は人類の始祖であるアダムとイブをそそのかし、堕落させた存在だからです。

現在伝わるドラゴン像が、例外なく悪魔のような角と羽を持ち、毒息を吐くようになっているのは、悪魔のイメージがドラゴンに付加された結果だと言われています。


●神話のドラゴン
ドラゴンほど多くの伝承を持つものは、他にありません。特に北欧神話やギリシア神話は「ドラゴン神話」だと言っていいほど、実に多くのドラゴンたちにあふれています。

北欧神話で言えば、大地を支える大蛇ミドガルズオルム、英雄ジークフリードに退治された悪竜ファーブニル、その他ベーオウルフのドラゴンなど。
ギリシア神話ならばヘラクレスに退治されたヒュドラ、上半身が美しい女で下半身が大蛇のラミアー、黄金のリンゴを守った大蛇ラードーンなどの名前が挙げられます。

聖書にも、さきのアダムとイブを堕落させた「蛇」をはじめとして、レヴィアタン(リヴァイアサン)や「黙示録」のドラゴンなど、けっこう多くのドラゴンが出てきて、神話に限らずドラゴンにまつわる話が豊富です。

東洋に目を向ければ、中国やインドにもやはりドラゴンの伝承が残っており、特に中国は「ドラゴンの国」を自称するだけあって、実に多彩なイメージを今に伝えています。
人類の始祖とされた伏羲(ふつき)や女禍(じょか)も下半身が蛇でしたし、「共工」や「蚩尤(しゆう)」なども竜の姿で人々を苦しめたと言います。日本にもさきに述べたように、各地でいくつかの龍神伝説が残っています。

ヨーロッパの竜はトカゲや蛇型が多いのに対し、東洋の竜はいかつい顔にさまざまな動物の要素を持ったキマイラ型が一般的です。
これは中国・漢代の「「九似説」という考え方から生まれたもので、竜は以下の九つの要素を持っているとするものです。

1.ラクダの頭
2.鹿の角
3.ウサギの目
4.ヘビの首
5.蜃(しん:ハマグリの意だがこの場合は亜竜を差す)の腹
6.魚のウロコ
7.鷹のツメ
8.虎のてのひら
9.牛の耳

また、頭の中央には「博山」もしくは「尺水」と呼ばれる肉の盛り上がりがあり、これを持つ竜は空を飛ぶことができます。

また、背中には81枚のウロコ、喉もとには大きな1枚のウロコと、それを取り囲むように逆向きに生えた49枚のウロコが、それぞれ生えています。

この、逆向きのウロコが「逆鱗(げきりん)」で、竜の急所に当たります。この場所に触れられると竜はひどく怒り狂うと言い、そこから他人の触ってはならない場所に触れることを「逆鱗に触れる」と言うようになりました。


●ドラゴンにまつわる言葉
海で千年、山で千年生きた蛇はしばしば竜に変化することができると言われており、そこから竜のようにしぶとく、悪知恵の働く人間のことを「海千山千」と呼ぶようになりました。
ちなみに「海千河千」と言う場合もあります。

また、鯉が滝を登り切ることができれば竜に変化することができることから、立派な人間になるための試練を「竜門に登る」、すなわち「登竜門」と呼ぶようになりました。
竜門は中国・山西省と陝西(せんせい)省の間にある急流の名で、「この場所を登れるのならどんな魚でも竜になれる」と言われた場所です。

「登竜門」の言葉自体は、中国の歴史書である「後漢書」の「李膺(りよう)伝」に見ることができます。
李膺(字:元礼)は当時の清流(正義派官僚)を代表し、「天下の手本は李元礼」とまで言われた実力者です。
当時、彼の知遇を得ることが、若手にとって何よりの栄誉であったことから、その推薦を「竜門」を登る魚になぞらえて「登竜門」と呼ぶようになったのだそうです。



●亜種・別名など
ワーム/ワイバーン(翼と一対の足を持つもの)/ワイアーム(翼を持つが足のないもの)/ストーアウォーム(翼も足もないが蛇と違いトサカなどを持つ)/ファイアードレイク(炎のドラゴン)/フェアリードラゴン(草食もしくは超小型のドラゴン)/パピードラゴン(幼生ドラゴン)/ブルードラゴン(青龍)/ホワイトドラゴン(白龍)/レッドドラゴン(赤龍)/グリーンドラゴン(翠龍)/ブラックドラゴン(黒龍)/ゴールドドラゴン(金竜)/シルバードラゴン(銀竜)/カイザードラゴン(竜王)/竜/龍(神獣としての竜)/辰(概念としての竜)/蛟(みずち)/蜃(しん)/虹/九頭竜/恐竜/翼竜/大海蛇/大蜥蜴(おおとかげ)

その他に個別の伝承の龍として、レヴィアタン(リバイアサン)/ムシュフシュ/ティアマト竜/マカラ竜/ミズガルズ蛇/エキドナ/ヒュドラ/ラミア/テュポン/バジリスク/ファファニール/ナーガ/ウロボロス/ミドガルスオルム/野槌/ヤマタノオロチ/ザーハック/クラーケン/ケツァルコルトル/メリュジーヌなどがあります。

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