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2014年7月 3日 (木)

デュラハンDullahan

●首なしの妖精
デュラハン(ドュラハン、ドゥラハンとも言う)は、中世の伝承に出てくる妖精の名前で、スコットランドをはじめとするヨーロッパ北西部一帯で信じられた存在です。

女性、もしくは全身を鎧に包んだ騎士の姿で表れ、首から上がすっぱりなく、あるいはその首を小脇に抱えた、いずれにしてもこの上ない不気味な姿をしています。

同じく首のない馬コシュタ・バワーCoite-Bodherを従え、彼らの牽く戦車(チャリオット)に乗り、夜の街を不気味に駆け抜けます。
そのビジュアル的な恐ろしさから、しばしば都市伝説や一般的なホラー作品の題材としても使われます。


●人頭崇拝とデュラハン
「首無し騎士」というのもそれだけでかなり怖い話ですが、スコットランドに限らず、北欧にはこうした「首無し○○」に関するお話がけっこう多く残っています。
そう言えば彼らの操る馬も首無しです。その背景には、頭にこそ生命は宿るとする「人頭崇拝」の考え方があります。

デュラハンは死をつかさどる存在なので、その生命の象徴たる頭を持たない、ということでしょうか。葬式の際に死者の首を斬り落とす古代ノルウェーの風習が関係している、とする人もいます。

女性や甲冑騎士の姿をしていることが多いのは、北欧にはモリガンやワルキューレ(戦乙女)などのような、戦場を駆けめぐり、死者を天国(ヴァルハラ)に導く女妖精の伝承が多いので、その辺りが強く影響しているものと考えられます。


●死の配達人
彼らは単に恐ろしい外見をしているだけでなく、積極的に「死」を振りまくという厄介な性質を持っています。
しかも、「泣き女妖精」バンシーのように、対象が死ぬのをじっと待つのではなく、自分から「死」の匂いを嗅ぎつけ、積極的に魂を刈りとって回ります。

彼らの標的になったら最後、逃れることは至難のわざです。
なぜなら、彼らは標的がどんな場所に逃れようと、必ず先回りするからです。山の上に逃げれば山の上に現れますし、遠方に去ればその遠方に、地下に行けば地下に出現します。
家の中に閉じこもったとしてもムダです。扉を閉ざし、釘を打ち付け、さあ一安心と思った途端、その後ろに……というドリフみたいな展開になるのがオチです。

一説には、彼らは「死」そのものの象徴であり、やたらしつこく追いかけてくるのも、死は時と場所を選ばないということを表しているのだと言われています。
ですから、彼らの追撃から見事逃げおおせることができれば、その人間は死すべき運命から逃れることができます。


●デュラハンの起源
デュラハンという名前がいつから使われ、どのような言葉に由来するのかは、あまりよく分かっていません。ただ、聖ディオニシウス(聖ドニ)に響きが似ているので、それとの関連性を指摘する声があります。

聖ドニは3世紀後半に活躍した聖者で、フランスの守護聖人としても有名です。原初キリスト教の伝道に尽力し、パリ司教を務めましたが、政治当局の怒りを買って処刑されました。

この人物には聖人らしくさまざまな逸話が残されているのですが、その中に、「自分の首を持って歩く」というものがあります。

ローマ帝国の圧力にも負けず布教に邁進していた彼は、ついに異教徒の讒訴(ざんそ)を受けてパリ郊外の丘、現在モンマルトルMontmartre(殉教者の丘)と呼ばれる場所で首を斬られて処刑されます。

しかし、突然身体だけが起きあがると、さっき落とされたばかりの首を抱えて、何と歩き始めたのです。
そのまま進むこと実に十数キロ。その行進はいつ終わるかと思われましたが、ついにある場所までたどり着いたところで力尽き、ばったりと倒れます。

倒れた場所はその後サンドニSaint-Denis、つまり聖ドニという地名へと変わり、フランスで最も有名な寺院、その名もサンドニ大聖堂が建てられ、人々の信仰を広く集めました。歴代フランス国王の墓所が設置されているのもここです。

この聖者のエピソードが真実であるとは到底言い難いのですけれども、ただ、伝承という形で残っているからには、当然「ネタ元」となったものが存在するわけで、それがデュラハンや、あるいはその原型となった話であることは大いに考えられるところです。


●アーサー王伝説のデュラハン
こちらは完全なフィクションではありますが、有名な「アーサー王伝説」の中にも、「縮んだ腕のカラドック」が「首無し騎士」と対決するくだりが出てきます。

カラドックは「円卓の騎士」のひとりで、アーサー王の姪イセンヌの子に当たります。父は誰だか分かりませんが、彼はその境遇を特に嘆くこともなくまっすぐに育ち、長じて立派な騎士となります。

その彼が、叙任式の日に突如見知らぬ騎士の挑戦を受けました。騎士は自分の首を指し示し、とんでもない提案をします。

「私の首を斬ってみよ。それでまだ生きているようだったら、今度は貴殿の首を斬らせていただく」

相当ムチャな申し出ではあるのですが、カラドックはこともあろうにそれを承諾します。剣を抜き、くだんの騎士の首筋へと狙いを定めます。そして一気に振り下ろしました。
騎士の首が宙を飛びます。「やった!」と誰もが思ったその瞬間、頭部を失った身体がムクリと起きあがり、さっき落とされたばかりの首を抱えて、悠然と去っていきました。

1年後、アーサー王や同僚たちが止めるのも聞かず、かの騎士の居城を訪れます。かつて騎士と結んだ約定を果たすためです。
当の騎士が現れると、カラドックは静かに首を前へ差し出しました。

「さあ、約束通り私の首を斬るが良い」

固唾を飲んで周囲が見守る中、騎士はおもむろに剣を取りました。そして……剣の腹で優しくカラドックの身体を叩きました。彼はカラドックを立たせると、自分が彼の父であり、魔法使いのエレオーレスであると打ち明けるのです。



●亜種・別名など
ドゥラハン/ドュラハン/ヘッドレス/コシュタ・バワー(彼らの乗る戦車をひく首なし馬)/緑の騎士/エレオーレス

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