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2014年7月 3日 (木)

ヘパイストスHephaestus

●火と鍛冶の神
ヘパイストス(ヘーパイストス)はギリシア神話の火と鍛冶の神です。ローマ神話のウルカヌス(ヴァルカン)に当たり、ギリシア12神のひとりに数えられる有力な神です。

その語源は「炉」「燃やす」を意味するギリシア語に由来するとも、ヴェーダ(古代バラモン教)の火の神ヤヴィシュタのギリシア語系に由来するとも言われていますが、はっきりしていることは、古くから小アジアおよびレムノス島、シチリア島における火山帯でその存在が崇拝されたということです。

彼はゼウスとヘラの間に生まれた子供とも、ゼウスがアテナをひとりで生んだのに対し、ヘラが嫉妬心からひとりで生んだ神であるとも言われていますが、いずれにしろ、彼はひどく醜く、また片脚がねじれて不自由でした。

ゆえに、ゼウスとヘラには疎まれ、生まれた早々、海に投げ込まれています。一説によれば、片脚が不自由になったのはその時落とされたためとも言われています。
その時、彼を助けたのは、オケアノスの娘エウリュノメと、ネレウスの娘ティティスでした。彼はそのお礼として、宝石を作って贈っています。

しかし、ヘパイストスはヘラの仕打ちを恨みに思うことなく(あるいはそれを隠して)、ゼウスおよびヘラにまめまめしく仕え、数々の便利な道具を作っては、彼らに与えています。


●ヘパイストスの片脚
ヘパイストスは、元来雷の神であり、彼の片脚の不自由な姿は、稲妻がジグザグに移動する姿を表しているとも言われています。
ただ、ギリシア神話に登場する彼は、もっぱら地上あるいは海中で、黙々と金属を鍛造しています。彼は創意工夫の神であり、金属加工の神でもありました。

オリュンポス山上に神々の館を建てたのも彼と言われ、自分には「ぎらぎらして錆びない青銅の、輝く住まい」を建てて、その中でもっぱら仕事をしました。
神々が訪ねてくると、彼はふらつく足取りで立ち上がり、生きた娘にそっくりな黄金の娘像に肩を支えられながら王座についたのです。

彼の片脚について、海に投げ込まれた時そうなった、ということは先ほど述べた通りですが、これには別の説もあって、ある時ゼウスとヘラが喧嘩になった時、その仲裁に入ろうとして、ゼウスに足首をつかまれ、宇宙に放り出され、丸一日すっ飛んだ後、レムノス島に落下した時に足をくじいた、とも言われています。


●ヘパイストスの椅子
彼はいっけん素直に見えながら、その奥底に、巧妙な復讐心を隠しています。

ある日、ヘラはヘパイストスから椅子の贈り物を受けました。それはきらびやかな黄金の椅子でした。
彼女は喜んで座ったのですが、いざ立ち上がろうとすると、見えない帯がヘラを縛ったように、自分の身体を動かすことができません。実はこれは、ヘパイストスが彼女に課した罠だったのです。
最初、戦神アレスがヘパイストスを説得に行ったものの、けんもほろろに追い返され、次いで酒神ディオニュソスが彼を酔っ払わせて天上界に連れて行き、ようやくヘラを解放させた……ということです。

この話には別伝があり、この時彼はヘラを解放する条件として、神々の中で最も美しいアプロディテとの結婚を要求したと言われています。
果たして、二人は正式に結婚し、オリュンポス12神中、最も美しい女神と、最も醜い神の奇妙なカップルができあがったのでした。

余談ですが、ヘパイストスと酒神ディオニュソスは妙にウマの合ったところがあり、その後も何かとお互いに行き来を繰り返したとも言われています。


●ヘパイストスの作ったもの
ヘパイストスはその醜さにもかかわらず、常に他の神々に頼りにされていました。神々の道具はすべて彼が作ったと言っても過言ではなく、ゼウスの黄金の王座、王笏、雷電、アイギスの盾、太陽の神ヘリオスの翼のついた戦車、アポロンやアルテミスの矢、デメテルの鎌形刀(ハルペー)、ヘラクレスの胸当て、アキレウスの鎧兜、ディオニュソスが妻となるべき女性アリアドネに与えた壺、など、その種類は枚挙にいとまがありません。
クレタの木を守る青銅人間タロスも彼の作品だと言われています。一説には、アテナがゼウスの頭から飛び出したのは、彼が斧で頭をかち割ったお陰だとされています(かち割ったのはプロメテウスという説もあり)。

自分の妻とアレスが密通した時には、見えない網を作って罠にかけ、とっつかまったふたりを嘲笑したとも伝えられています。


●ヘパイストスの仲間たち
彼はひとりで仕事をしたわけではなく、常に仲間とともにありました。有名なのは、ウラノスとガイアの息子たち、3人のキュクロプス兄弟でしょう。

アルゲス、ステロペス、プロンテスと名のついているこの兄弟は、ヘパイストスに劣らない名工で、ゼウスに雷霆(らいてい)と電光、ポセイドンに三つ叉の槍を作ったのは彼らだと言われています(詳しくはキュクロプスの項目を参照)。

彼らの仕事場はエトナ火山の底にあり、火山がマグマを噴出するのは、彼らが仕事をしているからだという説もあります。



●亜種・別名など
ヘーパイストス/ウルカヌス/ヴァルカン

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