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2014年7月 6日 (日)

パンPan

●有角の神
パン(パーン)はギリシア神話に登場する異形の神です。ローマ神話のファウヌスに当たります。

長い馬の尾を持ち、額に二本の山羊の角が生え、両脚は山羊の脚、尖ったあごの先に山羊髭を生やした姿で描かれます。このため、同じギリシア神話に登場するサテュルスと混同される場合もあります。

一般にヘルメスとドリュオプス王の娘との間の子と言われていますが、相手はペネロペという説もあります。

いずれにしても、母親はその奇怪な姿を見て逃げ出して怖がったと言います。
しかし、ヘルメスはこの子を野ウサギの皮へ大切に包んでオリュンポス山に連れて行き、彼を神々の仲間に迎え入れました。
特にその姿を、酒神ディオニュソスが面白がったので、「すべて、宇宙」を意味するパンPanという名前を与えたのだそうです。


●アルカディアの神
この神は主にアルカディア(現在のペロポネソス半島山岳地帯)で信仰されていた牧畜と牧人の神でした。
その名前もラテン語の「草を食む、放牧をする」を意味するパースケレpascereに由来すると言われます。

彼はアルカディアの山中に棲み、森の中をうろつき、しばしばひょいと現れてはニンフ(妖精)や人間たちを脅かし、面白がっていました。その故事から、ひどく驚くことを彼の名にちなんでパニックpanicと呼んだそうです。

彼の持ち物は法螺貝(ほらがい)、またはシュリンクスの笛です。後者については悲恋のエピソードがあり、ある時彼はシュリンクスというニンフに求愛をしたのですが、彼女はそれを拒み叫んだため、父神ラドンによって葦の姿に変えられ、パンはそれをしのんで彼女の葦で笛をつくり、いつまでもその笛を吹いたとも言われています。

法螺貝については、ゼウスたちがティタン神族と戦った時に吹き鳴らし、相手を文字通りパニックに陥れた、という逸話が残っています。


●パン崇拝
アルカディアからアテナイ近辺にはパン崇拝というものがあり、紀元前480年にマラトンの戦いでギリシアがペルシア軍を撃退できたのは、パンが法螺貝を吹いたから、という伝説があるそうです。その功績で、彼はギリシア全土で崇拝されるに至りました。

中世に入ると、彼は自然の象徴と考えられるようになりますが、その有角の姿から悪魔と同一視されることもありました。


●たくさんいる神のひとり
実は、パンはたくさんいる神族のひとりであり、ここで述べるパンはそのひとりに過ぎない、という話もあるようです。

その親についても諸説あり、ヘルメスの息子ではなくゼウスとヒュブリスの子だとする説、ゼウスとアエクスを両親とする説、同じくカリストーを母親とする説、クロノスとレアの息子だとする説、ガイアとウラノスの息子だとする説、あるいは牧者クラティスと牝山羊の子とする説、などがあるようです。

これは、パンがひとつの伝承から生まれたものではなく、たくさんある伝承の中から生まれ出でたことを示しています。
恐らく、ギリシア各地で素朴な牧畜の神として信仰され、そこからさまざまな伝承が生まれ、その一部がギリシア神話に組み込まれていったのではないでしょうか。



●亜種・別名など
パーン/アリスタイオス/プリアポス

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