« セーレSeere | トップページ | セラフィムSeraphim »

2014年7月 6日 (日)

セイレンSeiren

●歌う怪物
セイレン(セイレーン)は旧約聖書外典「エノク書」、およびギリシア・ローマ神話に登場する、半人半獣のかたちをした怪物です。
けたたましい音を立てる「サイレン」の語源としても知られます。

セイレンという名前は、「ひもで縛る」あるいは「干上がる」を意味する言葉seirazeinに由来すると言われています。綴りは通常知られるSeirenのほか、Sireen、Sirene、Syreneなどがあります。

一説にはバビロニア神話に起源を持つと言われ、旧約聖書外典「エノク書」では、堕天使に仕え、特に男たちを快楽に引きずり込む魔性の存在として描かれます。

彼女たちはその美しい歌声で船乗りを惑わし、生きた人間を殺して食う存在として知られました。周りには彼女たちに食われた人間の遺体や骨が山積みになっていたとも言います。

一説には、セイレンは天国と地獄の間をさまよう罪深い死者の魂であり、生者の国からも死者の国からも隔てられていると考えられたため、絶海の孤島に棲んでいるのだとされています。


●ギリシア・ローマ神話のセイレン
セイレンはホメロスの「オデュッセイア」およびオウィディウスの「変身物語」に登場し、エノク書と同じく、船乗りを歌で惑わし、その肉を食らう存在として描かれます。

ホメロスの「オデュッセイア」によれば、オデュッセウスたちがポリュペモスの島を離れ、魔女キルケーの島に立ち寄って、彼女に歓待され、しばらく後に島を離れようとした時のこと。キルケーは「この先に3種類の怪物あるいは魔女がいる」とオデュッセウスに教えます。「スキュラ」「カリュブディス」、そして「セイレン」です。

特にセイレンは、歌で船乗りたちを惑わして座礁させるため、絶対に近づいてはならない、そして彼女らの歌を聴いてはならない、とキルケーは彼に伝えます。そのためには、耳にロウを詰めるといい、と対処法を教えるのです。

セイレンの島に近づいた時、船乗りたちは温めた蜜蜂ロウを耳に入れてふさぎ、彼女の歌を聴かないようにします。オデュッセウスはと言えば、彼女の歌がどのようなものなのか聴いてみたいため、自分を帆柱に縛り付けさせます。

自分の歌を聴いているはずなのに、一向に近づいてこない船を怪訝に思い、セイレンたちはオデュッセウスに話しかけます。オデュッセウスはたちまち魅惑され、縄を解いてひとり近づこうと試みます。

ところが、彼の部下であるペリメデスとエイリュロコスがしっかりと縄を縛り直したため、船は無事にセイレンの島を通過してしまいました。それをセイレンたちは悔しがり、海に身を投げてしまいます。


●アルゴ探検隊とセイレン
ホメロスはまた、オデュッセウスよりも先にこの海域を通過した一行のことについて触れています。その一行とは、有名なアルゴ探検隊のことです。

彼らは耳をふさぐ代わりに、ケンタウロス族の長老ケイローンの予言に従って乗船させたトラキアの詩人、オルフェウスに琴をかき鳴らさせ、セイレンたちの歌を圧倒します。
ひとり、アテナイの養蜂家プーテスを除いて全員が正気に返り、プーテスも美と愛の女神アプロディテに助けられたため、一行は誰も欠けることなく、その海を無事に過ぎたということです。

この時も、セイレンたちは誇りを打ち砕かれて、海に身を投げてしまいます。


●中世のセイレン
ギリシア彫刻におけるセイレンは、一般にとがった乳房に水かきのある足、羽のある尾を持った姿で描かれます。また、古代ギリシアの人びとは、彼女たちを単なる怪物ではなく、熱病の権化として認識していました。

紀元前2世紀のギリシアの学者アポロドーロスは、セイレンを3人の乙女と位置づけ、ひとりは竪琴を鳴らし、ひとりは歌い、ひとりは笛を吹いたとしています。

中世のベストセラーとして名高い「フィシオロゴス(動物寓意譚)」にもセイレンは登場しています。
そこではセイレンは「鳥女」と表現され、ケンタウロスと並んで「異教」を象徴する存在として描かれました。「人間と動物のどちらにも属する者は、キリスト教と異教の双方を信じている者に似ている」という理由からです。

ロマネスク美術の時代(11~12世紀頃)に入ると、彼女たちは「美女」から「醜悪な怪物」として描かれるようになり、しばしば「死」のメタファー(隠喩)として描かれました。墓標にセイレンの似姿が彫られることもあったということです。


●人魚としてのセイレン
私たちがいま知る「鳥の羽が生えた人魚」みたいなセイレンの姿が定着するのは、13世紀ごろと言われています。
一説には、ギリシア語で「羽」を意味する言葉pennisと、「ひれ」を意味する言葉pinnisが似ていたため、羽の生えた人魚という姿が生まれたのではないかとも言われています。

中世の旅行家たちは「海でセイレンに出会った」という話をこぞって書き残しました。

二叉の尾ひれを持つセイレンも頻繁に描かれました。
その姿はしばしば建築物や家具、チーズのモチーフとして使われ、現在でも、コーヒーチェーン店(スターバックス)のマークに、二叉の尾を持つ人魚の姿が用いられています。



●亜種・別名など
セイレーン/セイレーネス(セイレーンたち)/アルクオペメ/テルクシーペイ/パルテノペ/ピノシエ/リギア/レウコシア

« セーレSeere | トップページ | セラフィムSeraphim »

怪物一般」カテゴリの記事