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2014年7月 6日 (日)

天狗Tengu

●天狗とは
天狗とは、日本各地に散在する妖怪です。
主に高山に棲み、神通力を使ってさまざまな怪異をもたらすと信じられていました。

一般に赤顔鼻高、山伏(やまぶし)の格好で、あらゆるものを吹き飛ばす団扇(うちわ)を持ち、一本足の高下駄をはく格好で知られますが、この格好が定着したのは江戸時代以降と言われ、それまではさまざまな格好を取るとされていました。


●天狗のルーツ
天狗のルーツは古く、蘇我馬子と聖徳太子が編んだとされる「旧事記」には、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の体内から猛気が吐物として発され、それが変化して人身獣首の天狗神(あまのざこがみ)という女神になったとされています。
ただ、「旧事記」自体は平安時代の偽書と言われており、信憑性はあまり高くありません。

信憑性の高い「天狗」の初見は「日本書紀」であり、舒明天皇九年(西暦637年)の項目に「天狗」の記述があります。
それによれば、この年の7月21日に、流星が雷のような音を立てて落ち、人びとが「流れ星が鳴った」と騒いでいたところ、唐から来ていた閔僧(びんのほうし)が、「これは流星ではない、天狗(あまのきつね)というものだ」と言ったとされています。

「史記」「漢書」によると、中国の占星術において、音を立てて落下する流れ星を「天狗星(てんこうせい)」と呼び、凶兆としました。
「天の狗(いぬ)」と書くのは、「天狗星」の落ちた場所には必ず狗(いぬ)のたぐいがいるからだそうです。

天狗は平安時代になると、山中に棲む目に見えない存在とされるようになり、「源氏物語」や「宇津保物語」に引用されるようになります。
「今昔物語集」によれば、天狗は仏法の障りをする魔として、トンビやオオワシの姿で描かれ、しばしば人間に幻術や憑依能力を使って悪をなすということです。


●善天狗と悪天狗
仏教僧は悟りを開き、徳を積むために厳しい修行を行いますが、自信過剰だったり、邪心、愛欲、この世への執着があったりすると、死後極楽浄土に行けず、「天狗道」と言われる魔道に墜ちます。

魔道に墜ちた僧侶は、そのまま天狗の姿に転生しますが、心優しかった僧侶は「善天狗」となり、他の修行僧を影ながら支え、けわしい霊山へお参りに来る人を、事故や魔性の災いから守ろうとし、心がけの悪い者にイタズラを仕掛けて恐れさせました。

一方、生前おごり高ぶり、悪心をもって死んだ者は「悪天狗」として転生し、他の修行僧の邪魔をして、自分と同じ「天狗道」に墜とそうと企みます。


●修験道と天狗
天狗のイメージと言えば山伏の格好が一般的ですが、これは従来の山の霊としての天狗と、日本古来の山岳信仰が結びついて生まれたもので、もともとは己の修業に慢心した修験者のことを、他宗派の僧侶が「天狗道に墜ちた」と非難したことから始まったとされています。

修験道は修行によって己の呪力を高めるところにその真髄があるので、山伏の姿を与えられた天狗はますますその呪力を高め、単に仏教僧に敵対・調伏される存在から、俗世間を離れた仙人・超人としての性格を持つに至りました。
鞍馬天狗をはじめとする山の名前を与えられた天狗、あるいは「○○坊」などと呼ばれる天狗は、みな修験道系の天狗だと言われています。

こうした天狗は善悪双方の面を持っているので、修験者を守護する一方で、山中に暴風雨を起こしたり、神隠しをしたりするような怖い面を持っています。

カラス天狗や鼻高天狗のイメージは、修験道寺院の法会(ほうえ)の際に、先払いとして登場する迦楼羅(かるら)面や治道(ちどう)面が影響していると言われています。


●天狗のイメージの変遷
鎌倉時代に山伏の姿を与えられた天狗は、南北朝時代に入るとますますそのパワーを強くし、怨霊が転じて天狗になる、という説がまことしやかにささやかれました。
日本最強の怨霊として名高い崇徳上皇も、怨霊を経て天狗になったひとりです。上田秋成の「雨月物語」にも、崇徳院が「天狗」の眷属三百を率いて西行法師に出会うという下りが書かれています。

かの南北朝の大動乱も、「太平記」によれば、崇徳天皇や後鳥羽天皇、後醍醐天皇などの不遇の天皇、あるいは玄隈、真済、慈恵、尊雲など不遇の高僧が大魔王となって起こしたものとされています。

「太平記」には他にも、くちばしと羽を持ち、さまざまな神通力に通じた天狗が登場しており、このころにはカラス天狗のイメージが一般化していたことが分かります。

江戸時代に入ると、神田祭や山王祭の先導役として天狗が出てくるようになり、鼻高天狗の人気が一躍高まります。天狗の特徴である赤ら顔は、天孫降臨の時に先導を務めた猿田彦(サルタヒコ)のイメージが合わさったものだと言われています。
やがて、鼻高天狗が高位の天狗(大天狗)であり、カラス天狗はその子分(小天狗)というヒエラルキーが確立され、絵物語などにも描かれるようになりました。

江戸時代中期の作と言われる「天狗経」によれば、全国に天狗は48種、12万5500人いると言われ、その筆頭は愛宕山(京都市)の太郎坊だと言われています。


●天狗にまつわる怪異
その一方で、姿を見せない天狗のイメージも、綿々と受けつがれてきました。
「天狗礫(てんぐつぶて)」や「天狗笑い」「天狗倒し」といった山中の怪異は、みな天狗が悪さをしているのだと人びとは噂し合いました。
「神隠し」も天狗が行っているという説がまことしやかにささやかれ、近年に至ってもこうした「天狗の神隠し」の噂は絶えません。


●天狗の超能力
天狗は主に次のような超能力を持っていると言われています。

幻術……姿を突如消したり、老人、女、子供、鳥、オオカミなどに化け、あたかも仏や菩薩がそこにいるかのように見せることができます。馬糞をおまんじゅうと偽って食べさせたり、「天狗倒し」などの木の倒れる轟音を立てたりします。

移動能力……ひと一人を抱え、一瞬で何百キロメートルも移動することができます。空中で静止することもできるようです。

念力や予知能力……「天狗礫(てんぐつぶて)」と呼ばれる小石を空から降らせたり、団扇(うちわ)で大風を起こし、家を倒壊させたりします。人の心を読むことにもたけ、その運命を予言したりもします。

武器製造……手裏剣や鉄砲を作り、忍者などに伝えたりしたと言われています。
恐らくは、ヨーロッパ人や大陸人などのイメージが何かの形で伝わったものでしょう。また、「遮那王」源義経に武技を授けたとも言われています。



●亜種・別名など
アマノキツネ/鞍馬天狗/鼻高天狗/大天狗/カラス天狗/小天狗/木の葉天狗/狗賓(ぐひん)/飯綱(いづな)天狗/ガラン坊/愛宕山太郎坊/比叡山次郎坊/日光山東光坊

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