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2014年7月 6日 (日)

ウィル・オー・ザ・ウィスプWill o' the wisp

●妖精の炎
明かり一つない夜、外を見つめていると、しばしば不思議な光が見えることがあります。まるで生きているかのようにゆらりゆらりと漂うと思えば、ふっと突然消えたり、あるいは突然別の場所に瞬間移動していたりします。

こうした現象は世界中で広く目撃されているもので、日本では「鬼火」「狐火」、ヨーロッパでは「ウィル・オー・ザ・ウィスプ」「イグニス・ファトゥス」などと呼ばれました。

その実態は、ご存知の方も多いように、地中から噴き出してきたメタンやリンなどの腐敗ガスに引火したもの、あるいは球電と言う稲妻の一種に過ぎないのですが、昔の人々はそれを「妖精(妖怪)が自分たちを化かそうとしているのに違いない!」と考えました。

「イグニス・ファトゥスIgnis Fatuus(愚かな火、愚者火)」や「狐火」といった名前はそんなところから来るものですが、墓場などでもよく目撃されることから、死者の魂が拠りどころを求めて彷徨っているとする考え方も結構根強く残っています。


●戒めの火
この不思議な火はしばしば戒めを持って私たちの前に表れます。
その戒めとは、目の前に出てきても、それを「絶対に」追いかけてはならないということ。追いかけたら最後、底なし沼か崖まで誘い込まれ、二度と戻ることはできません。

実際、夜に突然見える灯は危険のシグナルであることが多いのです。異邦人や盗賊たちが入り込んで暮らしていたり、底なし沼のメタンガスに引火していたり、山火事の発生の前兆であったり……。

死者の霊が冥府の口を開けている場合もあるので、いずれにしても迂闊に近づくと大変な目に遭います。


●鍛冶屋のウィルの伝説
それにしても、ウィル・オー・ザ・ウィスプWill o' the wispとはなかなかけったいな名前ではありますが、これは「種火のウィル」を意味します。なぜ不思議な火がウィルの種火なのか、それについては次のような話が残っています。

むかしむかし、あるところに鍛冶屋のウィルという男がいました。
彼は口は上手いが素行が非常に悪く、トラブルを起こして恥じ入るところがありません。そして、ある時それが原因で人と喧嘩をして、ついに殺されてしまいます。

死んだウィルは一旦「死者の門」まで辿り着き、聖ペトロの前に引き出されました。
この人物は死者の言い分を聞いて、天国に相応しいかそれとも地獄へ行くべきかを裁定する役割を持っています。
ウィルはここで持ち前の調子良さを発揮して、まんまとこの聖者を言いくるめ、何と生き返ることに成功してしまいます。

しかし、せっかく生き返ったのに、その性格は全く治らなかったので、二度目の死を迎えたとき、聖ペトロはやれやれと言った感じで言い放ちます。

「お前はせっかく生き返らせたのに、ちっとも良い行いをしなかったではないか。お前のような奴は地獄に入れるのすらもったいない。天国でも地獄でもない世界にとどまり続けるが良い!」

かくて、死者の門は目の前で閉ざされます。ウィルは後悔しましたが後のまつり。天国でも地獄でもない「煉獄(れんごく)」を彷徨うことを運命づけられます。

悄然として、とぼとぼと歩くウィルの姿を見て、さしもの悪魔も同情し、地獄の劫火の中で燃えさかる石炭をひとつ取り出し、ウィルに明かりとして与えました。

ウィルはそれを持って、今も現世と冥府の間を彷徨い続けています。
現世にも現れることがありますが、死んでいるので身体は見えず、種火の光がぼんやりと見えるのみです。そして、懐かしそうにうろうろと彷徨った後、再び煉獄へと戻っていきます。

こうした話から、夜中に不思議な光が見えるのを、哀れなウィルの姿になぞらえて「種火のウィル」、すなわち「ウィル・オー・ザ・ウィスプWill o' the wisp」と呼ぶようになったと言います。


●ウィル・オー・ザ・ウィスプのバリエーション
この不思議な光は、異名が他の怪物に較べ非常に多いことでも知られます。

さきに挙げた「ウィル・オー・ザ・ウィスプ」「イグニス・ファトゥスIgnis Fatuus」の他に、ウィル・ウィズ・ザ・ウィスプWill with the Wisp(種火を持ったウィル)、ジャック・オー・ランタンJack o' lantern(ジャックの角燈)、ヒンキー・パンクHinky-Punk(妖精の付け火)、ピンケットPinket(妖精のようなもの)、エルフ・ファイアーElf fire(妖精火)、ジル・バーント・テイルGyl burned tail(火付き尻尾のジル)など。
日本でも「人魂(ひとだま)」の他に「鬼火」「狐火」「不知火(しらぬい)」などの呼び名があります。

これは、この不思議な火が、いかに人々の間で「一般的な」存在として認知されてきたかというものを示しており、いかに多くの人々の中で語り継がれてきたかを表わすものでもあります。



●亜種・別名など
人魂(ひとだま)/鬼火/狐火/狐火/不知火(しらぬい)/セントエルモス・ファイアー(セントエルモの火)/イグニス・ファトゥス(愚かな火)/ウィル・オー・ウィスプ(種火のウィル)/ウィル・ウィズ・ザ・ウィスプ(同)/ウィリー・アンド・ザ・ウィスプ(同)/ウィル・オー・ザ・ワイクス(同)/ウィリー・ウィスプ(種火のウィリー)/ジャック・オー・ザ・ランタン(ジャックの角燈)/ジャッキー・ランタン(同)/ジャック・ア・ランタン(同)/エサスダン(エルフ)/ヒンキー・パンク(妖精の付け火)/ジル・バーント・テール(火付き尻尾のジル)/キット・ウィズ・ザ・キャンドルスティック(蝋燭立てのキット)/ペグ・ザ・ランタン(ペギーの角燈)

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