妖精一般

2014年1月30日 (木)

レプラコーン(レプラホーン)Lepracaun/Leprachaun

●妖精の靴屋
レプラコーン(レプラホーン)はアイルランドの民話・伝承に登場する妖精の名前です。身体は小さくせいぜい1フィート半(約45センチ)程度。赤い帽子と服を着た老人の姿で現れます。

彼らは「妖精の靴屋」と呼ばれることがあるように、しばしば仲間のための靴を作ります。家の中、真夜中に、誰もいないところで何かを叩く音がすれば、それはレプラコーンがカナヅチを振るい、靴を作っている音だとされました。

この妖精はアイルランドではかなり一般的な存在で、彼らの名は妖精そのものを差す言葉としても使われます。
ノーベル賞を受賞した北欧を代表する詩人W・B・イェイツは、レプラコーンを「妖精のいくつかある側面の一つ」と述べています。地方によって違った名前を持つのもこの妖精の特徴で、「ラバーキン」「ラヴロガーン」「ラクリマン」「ルーラコーン」などと呼ばれる場合もあるようです。


●彼らが靴を作る理由
彼らはなぜか靴を片足分しか作りません。レプラコーンという名前も「片足の粗い革靴」を意味する古語レ・ブローグLeith brogから来ています。

なぜ片足分なのかについては、身体が小さいいのでどんなに頑張っても一晩に靴を片方しか作れないから。あるいは、時間をかけて作っているだけで、数日かければきちんと両方揃う……などなど、いろんな理由付けがなされています。
作るものが家具でもなく食器でもなく、靴であるのは、妖精は踊り好きなのですぐに靴底をすり減らしてしまうからであり、レプラコーンはそんな仲間のために、毎日せっせと靴を作り続けているというわけです。

実際のところは、妖精のような小さな者たちが、人間に見つからずに作れそうなものを考えたとき、構造が比較的簡単で材料も得やすく、しかも組み立てる際に大きな音を立てない靴が選ばれたのではないでしょうか。


●レプラコーンの財宝
レプラコーンは妖精の中でもとびきりの働き者です。長年かかって貯め込んだ財産は厖大な量になると言われており、ゆえにレプラコーンからその隠し場所を聞き出すことができれば、そのすべてを手中にすることができます。

しかし、彼らは隠れ上手なので、レプラコーンを捕まえても決して彼らから目を離してはいけません。もし、少しでも顔をそむけようものなら、彼らは「水滴のように」手をすり抜けて、永遠に姿を消してしまいます。



●亜種・別名など
レラバーキン/ロハルマン/ラホルマン/ルーラコーン/ルーラガドーン/ラヴロガーン/レフロガーン/ラクリマン/クルーラーホーン/クルーラーコーン/ファージャルグ/ガンコナー

ホブゴブリンHobgoblin

●人間に近しい妖精
ホブゴブリンは中世ヨーロッパの伝承に登場する妖精の名前です。単に「ホブ」「ホッブ」、もしくは「ホブメン」などと呼ばれることがあります。

「ゴブリン」に何かがついた、というイメージから、しばしば「ゴブリンより悪くて強そう」などと思われることもあり、そのような位置づけで出てくる作品もいくつか存在します。

しかし、ここで言う「ホブ」とは、「放浪者」「浮浪者」を意味する古語「ホボ」、もしくは人間の名前によく使われる「ロブ」がなまったもので、つまり、ホブゴブリンとは、人間のすぐ側にいる妖精、あるいは人間により近いメンタリティ(知性)を持った「善意のある妖精」のことを差すのです。

有名な例で言えば、イギリスの民話に出てくるロビン・グッドフェローや、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」に出てくる小妖精パックなどが、このホブゴブリンに当たります。
シャーウッドの森の義賊ロビン・フッドも「ロブ」系の名前なので、妖精でホブゴブリンの仲間に当たると考えられたことがありました。
妖精学的には、家付き妖精のブラウニーやシルキーを含む概念として使われることもあります。


●ホブゴブリンの性格
彼らは非常にイタズラが大好きです。酒やバターをダメにしたり、家畜を急に暴れさせたり、肌をギュウとつねってアザにしたり、椅子に化けては急に変身を解いて、座った人間をすっ転ばせたり……。

ただ、無辜(むこ)の人間を襲ったり、必要以上に傷つけることはしません。彼らはあくまでも、人間の驚くさまを見たいだけなのです。

だから、困った人がいれば積極的に手を差し伸べます。その辺は人間とあまり変わりません。
また、彼らは非常に律儀です。悪意には悪意で返しますが、その代わり善意にも善意で返します。彼らに親切にしたら一生幸福に暮らせるような贈り物を貰った……という話が、中世の民話にはいくつも残っています。


●ホブゴブリンのイメージ
ホブゴブリンの外見についてはいくつかのパターンが示されています。幽霊のようなタイプ、ギリシア神話のサテュロスのような半人半獣。悪魔そっくりの姿。妖精のような姿。そして人間とまったく変わりないとするもの。
これは、ホブゴブリンという存在が一つの起源から生まれたものではなく、いろんな伝承のいろんなエッセンスを取り入れて形成されたものであることを示しています。

後の時代になると、次第に彼らはゴブリンの上位種、もしくは悪魔そのもののような呼ばれ方をされるようになります。これは、キリスト教の「フォークロア(民話)追放運動」が大きく影響していると言われます。

一神教を標榜する教会にとって、多神教の雰囲気を色濃く残すホブゴブリンの姿は疎ましく映ったに違いありません。それゆえ、教会関係者の手によって、ありとあらゆる妖精が悪魔もしくはそれに類する悪鬼、小悪魔のたぐいに堕とされました。

特に、人々の広い支持を集めていたトロールやホブゴブリンは、中でもとりわけひどい扱いを受けました。
エルフやドワーフなど、近年のファンタジーブームで「復権」した存在もいくつか存在しますが、そんな中でも、ホブゴブリンに対するイメージは依然として悪いままで、彼らの名誉が完全に「回復」したとは言い切れない状態です。


●手伝いをする妖精
一口にホブゴブリンと言っても、そのイメージはさまざまですが、その中にはブラウニーやシルキーなどのように家に憑くタイプもいます。

彼らはわずかな報酬と引き替えに家事を行います。ミルク1杯、パン1枚などを台所の隅に置いておくと、次の日にはなくなっておりますが、その代わり薪割りや掃除などの家事がすっかり片付いているのです。
この報酬は一度たりとも欠かしてはならないもので、もし1回でも忘れると、ホブゴブリンは怒って永遠に姿を消してしまいます。

なお、パンやミルクの代わりに服などでも結構ですが、素材は上等すぎても粗末すぎてもいけませんので、注意が必要です。とあるホブゴブリンは、家の婦人から良いフードとマントを贈られたところ、
「はっ、フードとマントだ!ホブはいいことなんかもうしない!」
と歌って飛び出し、そのまま二度と戻りませんでした。

ホブゴブリンの名前に病魔を祓う力がある、と言うのもよく聞く話です。例えば、百日咳に苦しむ子供がいたら、ホブゴブリンのいる(とされる)洞窟まで連れてゆき、こう唱えるのです。

ホッブの穴のホッブさん
ホッブの穴のホッブさん
うちの子のかかった百日咳
持っていっておくれ
持っていっておくれ

すると、あれだけしつこかった百日咳がたちどころに快癒すると言います。


●ホブゴブリンと被征服民
ホブゴブリンの伝承。その根底にあるものは、ブリトン人やケルト人などに代表される被征服民、あるいはロマ人(ジプシー)などに代表される放浪民族などのイメージです。少なくとも、民俗学的にはそう読み取ることができます。
彼らの独特な風習が征服民の中に取り込まれ、同化し、昇華してゆく過程で、妖精という形に変わってゆくのだそうです。

人間の手伝いをしながら、最小限の報酬しか受け取らないというのは、ブリトン人やケルト人といった被征服民が、ローマ人やゲルマン人などの征服民の世話を受けながら、その水準を最低限にとどめようとしているあかし。
上等な服を贈られると出て行ってしまうのは、彼らが自分たちの文化を大切にしているということの証左でもあります。



●亜種・別名など
ロブ/ロビン/ロビン・グッドフェロー/ブラウニー/ホブ/ホブス/ホッブゴブリン/ホブスラスト/ホブゴブリン・ロード(貴族ホブゴブリン)/ホブゴブリン・シャーマン(魔法ホブゴブリン)

ホビットHobbit

●新しい妖精
映画「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」の世界的大ヒットによって、ホビットの名前は一躍有名になりました。
ずんぐりした身体に愛嬌のある顔。勇敢な心。旺盛な好奇心。そして、緻密な歴史と背景。さぞかし欧米では古くから語り継がれた、名のある妖精に違いない……そう思った人も少なくないのではないでしょうか。

ところが意外にも、この種族は20世紀以前の伝承にはまったく登場しません。なぜなら、これはトールキンというひとりの作家のまったくオリジナルな部分から生み出された、まったく新しい種族だからです。

ホビットという名前もトールキンが考えました。
語源については、作者本人がとうとう明かさないまま世を去ったので分かりませんが、恐らくは「人間(Human)」と「野ウサギ(Rabbit)」、もしくは「妖精(Hobgoblin)」と「野ウサギ(Rabbit)」を併せた言葉であろうと考えられています。


●我慢強い小人たち
彼らは人間よりもかなり背が低く、およそ2フィート(およそ60センチ)から4フィート(およそ120センチ)ほどの大きさしかありません。ゆえに人間たちからは「小さき人」を意味する「ハーフリングHalfling」の名で呼ばれます。
ホビット一番の「巨漢」と言われるバンドブラス・トゥック(牛うなりのトゥック)でさえ4フィート5インチ(およそ135センチ)の大きさにとどまります。

丸っこくて陽気そうな顔つきをしているので、いっけん辛抱などと無縁のように思えますが、実際は恐ろしくタフな種族です。知恵と勇気があり、危難が迫れば一致団結して好きな食事さえガマンします。だからこそ、フロドやサムのような大冒険が可能であったわけです。

髪についてはおおむね茶色で巻毛。指は長く、身長に比して大きな足の裏にはびっしりと毛が生えており、音を立てずに歩くことが可能です。それゆえに、靴はあまり使いたがりません。
派手な色の服を好み、1日に6回、相当な量の食事を摂り、煙草代わりの「パイプ草」をたしなみます。そんな彼らの家は「ホビット穴」と呼ばれる場所です。気持ちのいい窪地を見つけては、そこに家を作って住み着きます。


●小人型種族のルーツ
彼らは歴史的な背景をほとんど持たない種族でありながら、さまざまなバリエーションを今に至るまで生み出し続けています。それだけ、真に迫ったキャラクター作りをトールキンという作家が行ったということなのでしょう。
単なるおとぎ話の小人ではない、確固たる歴史と背景を持った「小さき人」―――。

「ホビット型」の種族としては、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」の「ハーフリング」が有名ですが、小説「ドラゴンランス」シリーズには「ケンダー」(子供の意?)、ゲーム「ソードワールド」シリーズには「グラスランナー」(草原走り)という名前の、同じようなタイプの種族が登場しています。

不思議なのは、おおむね「身体が小さくて陽気」というイメージは共通しているのに、名前が作品によってバラバラだということです。
これについて、著作権との絡みを指摘する人もいますが、作品によっては「ホビット」のままで登場するものもあることを考えると、単に「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」のイメージが強すぎるので、そのままでは使いにくい、というところが関係しているように思えます。



●亜種・別名など
ハーフリング/ケンダー/グラスランナー/ピグミー

ブラウニーBrownie

●ケルトの家付き妖精
ブラウニーは中世のケルト(ヨーロッパ北西部)、特にスコットランドやコーンウォール地方(イギリス中西部)にて信じられた妖精の名前です。
各家庭に必ずひとりはいるとされ、性格はきわめて温厚かつ忠実。部屋の中を散らかすようなイタズラもするのですが、ゴブリンやホブゴブリンほどの狼藉は働かず、もっぱら人間の手伝いをして過ごします。

「手伝い」と言ってもまったくのボランティアではなく、ミルクをカップに1杯とか、クリームをお椀に一盛りくらいの報酬を用意する必要があります。
しかも毎日用意しなければならず、もしうっかり忘れると家族の身体をアザになるほど強くつねられるか、またはボガート(悪い妖魔)に変身して家の中を徹底的に荒らし回ります。

彼らの名前にはしばしば虫を払う力があり、特に蜂の被害に遭ったときは「ブラウニー!ブラウニー!」と叫ぶと、目には見えませんがどこからともなくこの妖精が現れて、虫をどこかへ追いやってもらえると言います。


●シャイな小妖精
彼らは手伝い好きなわりに、かなりシャイな性格をしていて、自分の仕事へ口出しされたり手出しされることをひどく嫌います。
あまりに構い過ぎると家を飛び出し、永遠に戻ってきません。さらに、姿を見られるのもあまり好まず、彼らを見ることが許されるのは子供か正直者だけだと言います。それ以外の者が姿を覗こうとしても、巧みに物陰へ隠れてしまいます。

ちなみに、ブラウニーを「実際に見た」という人の話では、この妖精は非常に小さくてくるぶしほどの大きさしかなく、裸かボロボロの古着に身を包んでいると言います、
なぜか頭のてっぺんから足の先まで茶色でコーディネートされており、そこから「ブラウニーBrownie(茶色さん)」という名前がつけられました。

茶色の服を好む理由は分かりませんが、単にその色が好きだという説と、全身が茶色の巻毛で覆われているから、という説の二つがあります。
個人的にはそれに「ドブネズミや野ウサギを妖精と見間違えたと言う説を加えたいところです。


●人に憑くブラウニー、家に憑くブラウニー
彼らは原則としてその土地、その家に憑く存在ですが、気に入れば人間にも憑きます。その人間が引っ越せば、荷物に紛れて転居先にまでついてゆくこともしばしばです。

とあるところに、ブラウニーのイタズラに悩まされていた住民がおりました。彼はある日とうとう引越を決意します。すぐさま引っ越し先を決め、荷造りをし始めます。挨拶も済んで、さあ後は荷物を運ぶだけだ……という段階まで来ました。
その時ふと「アイツ」はどこにいるのだろう、という不安がよぎりました。「アイツ」とは、むろん住民を悩ませていたブラウニーのことです。もしや、という気持ちに襲われて、住民は彼の名をそっと呼んでみました。
すると、荷物の中から「ハーイ」という返事が。
「ああ、やっぱり」
住民は途端に馬鹿らしくなって、急遽引越を取りやめたという次第。こういう話が成り立つのも、ブラウニーが人間に取り憑くことがあってこそです。

ちなみに、気に入った人間が亡くなると、多くの場合家からいなくなりますが、まれに身を持ち崩してボギーやボガート(どちらも怖い妖魔)に変ずる場合があるようです。


●ブラウニーのタブー
ブラウニーへのタブーは、贈り物を手渡しすること、そして服を贈ることです。特に後者はなるべくならば避けた方が無難です。なぜなら、材質が上等すぎると自慢しに妖精界へ帰ってしまいますし、かと言って粗末すぎても、やはりヘソを曲げて姿を消します。

別の説では、ブラウニーは人間から贈り物をされるまで働き続けることを宿命づけられているので、プレゼントを貰った瞬間にあらゆるくびきから解放され、妖精界に帰って行くのだそうです。


●ブラウニーと先住民族
ブラウニーを含む妖精の話は民俗学的に見ると、征服民と被征服民の関係を読み取ることができると言います。
征服前の原住民の文化や習俗、考え方や外見が、そのまま新たな部族の中に取り込まれ、妖精という形に昇華されてゆくのだそうです。このように、移住者によって妖精化された部族の例として、ケルトの先住民族フォモール族やダナーン族、アイヌのコロポックルの名が挙げられます。
ブラウニーもその「妖精化された先住民族」のイメージをやや含んでいます。

名前の由来となった茶色い服は彼らの伝統衣装であり、いくばくかの報酬と引き替えに簡単な仕事を手伝うというのは、部族の中でわりあい穏健・従順な連中が積極的に征服民のアルバイトに精を出したということを示しています。

服を贈ると怒って出て行ってしまうというのは、彼らが自分たちの服装(=文化)を何よりも大切にしているという証左であり、束縛や口出しを拒むというのは、交流レベルを最小限に止め、征服民と同化することを拒絶する、という意味合いがあります。



●亜種・別名など
プーカ/プカ/ワグ・アット・ザ・ワ/ブバホッド/ボダッハ/ボダーハ/フォノゼリー/ラバード・フィーンド/ウリシュク/メグ・ムラッハ/コウイ/シルキー/ピクシー/ホブゴブリン

フェアリーFairy

●概念としてのフェアリー
フェアリーという呼称ほど、広い概念を差すものもありません。エルフやホブゴブリンなどの人間に近い妖精はもとより、ピクシーやスプライトなどの有翼種、ブラウニーやホビットなどの小人、ゴブリンやコボルドなどの妖魔、ニンフやドライアドなどの精霊、果ては小型の神々、幽霊、想念体……ありとあらゆる存在をその中に含んでいると言っても過言ではありません。
それをすべて網羅しようとすれば分厚い本が何冊もできてしまうことでしょう。


●妖精を差す言葉
一般に「妖精」というくくりで語られることの多い彼らではありますが、地域別に見るとそれぞれ特色があります。

北欧のフェアリーは「トロール」や「エルフ」などの名前で呼ばれます。さまざまな姿や属性を持ちますが、多くの連中は人間と深く関わり合って暮らしており、良くも悪くも「人間界ずれ」しているのが特徴です。ブラウニーやシルキーなどもこの北欧系に入ります。

ケルト系(ヨーロッパ北西部)のフェアリーは「シーSidh/Shee」もしくは「シーオークSheoques」などの呼び名が使われます。

シーとは本来「土の塚」「丘」を差す言葉でしたが、次第にその下に棲む不思議な連中を差す名前として使われるようになりました。この「シー」を使った妖精と言えば、まずはじめに泣き女妖精「バンシー」の名前が挙げられます。
「バン」はケルトの言葉で「女性」、そしてシーが妖精を意味するので、直訳すると「女妖精」になります。同様に芸術家に取り憑くリャノン・シー(ラナン・シー/妖精の恋人)、ダーナ神族の末裔であるディーナ・シー(ダーナの妖精)といった連中の名前にも「シー」という言葉が使われます。

ギリシア神話系は棲む場所や風習によって個々に独自の名前を持っているのが普通です。
例えば木の精であればドライアド、水の妖精であればネレイデス、といったように。まとめて呼ぶのであれば「ニンフNymph」(ギリシア語で「ニュムペー」)という呼称を使います。
このニンフは「精霊」とも訳されます。なお、特定の属性を持たないニンフの中でも、物語上重要な役割を果たす者については、「スキュラ」や「エコー」「キルケー」などのように個人名を与えられることもあります。


●フェアリーという言葉
フェアリーという言葉そのものについては中世から使われるようになりました。もともとはギリシア語のペリperi、もしくはラテン語の「神託」「運命」を著すファトゥムPatum/Fatumから来ていると考えられています。
それが、動詞形の「魔法をかける」という意味のファタエfatae/ファタレfatareとなり、それがさらに英語圏へ入って「フェイ」「フェ」と変わりました。この「フェイ(フェ)」という言葉にも「妖精」という意味があって、アーサー王の義姉モルガン・ル・フェイの名前もその「フェイ」に由来しています。

さらに、そのフェイによって魔法をかけられる状態を「フェイの魔法にかかった状態」――すなわち「フェイ・エリーFay-erie」と呼ぶようになりました。

「フェアリー」という呼称は、この「フェイ・エリー」がなまったものです。本来は文字通り、魔法にかかった状態を差していたのですが、次第に、魔法を使う不思議な存在そのものを差すようになりました。


●妖精のルーツ
妖精がいつから存在し、どのように形づくられてきたのかについては、今も大きな謎と言われておりまして、気鋭の学者の間で研究が進められています。
おおむね原始宗教や偶像崇拝、神話、民間伝承、英雄伝説、その他もろもろ……のいろんな伝承神話が複雑に絡み合って生まれたものであることは確かなようです。ウィル・オー・ザ・ウィスプなどのように、自然現象から誕生したと考えられる「妖精」の例もいくつかあります。

また、地域によっては妖精のようなものが存在しない場所もかつてはありました。妖精学者トマス・キートリー(カイトリー)によれば、ケルト地方(北西ヨーロッパ)にはもともと妖精は存在せず、ゲルマン(ドイツ~北欧)にあったものが、キリスト教の伝播とともにこの地方へ伝えられたのだと言います。

妖精の発祥については、キリスト教では次のように説明されています。

もともと彼らは天界に棲んでいる天使だったのですが、悪事を行ったかどで追放されたか、もしくは次なる楽園を求めて自分から出て行きました。その中の一部は、天に背いたことをひどく後悔し、いつか昔のすみかへ戻りたいと思ってはいるものの、戻るには邪悪すぎ、かといって地獄へ堕ちるには善良すぎるので、仕方なく妖精界や人間界で暮らし、最後の帰還チャンスである「最後の審判」の日を待っていると言います。
彼らが時折人間の前に姿を現すのは、自分たちが本当に天へ帰る資格があるか、それとなく人間たちへ尋ねるためなのだそうです


●妖精の身体と性格
性格的には、イタズラ好きの面ばかりがクローズアップされがちですが、義理や人情を大切にする、けっこう古風な面もそなえていて、特に特に、自分たちへ善行を施し、助力を与えてくれる者にはプレゼントをくれることさえあります。
そのプレゼントは、金銭や宝物の場合もあれば、「動物と話のできる頭巾」といった不思議なアイテムの場合もあり、時に「幸運」そのものを与えてくれる場合もあります。

そんな性格の彼らですから、もちろん自分たちへ害を与える者には容赦しません。大事なものを盗んだり、住処を荒らしたりすると、文字通り末代まで祟るような恐ろしい罰を与えてくることがあります。


●妖精の生活
彼らの生活は人間と大きく違っています。食べ物はほとんど取らず、おおむね草花や食物のエッセンスだけを吸って生きています。
エッセンスとは万物に含まれる「オーラ」みたいなものです。このエッセンスを吸い取られたものは、栄養価はそのままですが、急速に色つやを失ったり、味が悪くなったりします。

彼らが忌み嫌うものは鉄、腐った水、人間の汚水、塩水、そして聖書、聖水、ニワトリ、蹄鉄などです。
特に蹄鉄は聖なる金属である「鉄」と、やはり聖なる形である「三日月型」の組み合わせであるので、妖精に対し特に強い効果を発揮します。扉などに打ち付けておけば、彼らはそれ以上入ってくることができません。ちなみに、彼らの姿を見たいときは「四つ葉のクローバー」を頭に載せると良いと良いそうです。


●妖精の外見
妖精の外見は伝承によってそれぞれ違います。
北欧系は人間大の大きさが多く、逆にケルト地域(北西ヨーロッパ)はウスバカゲロウのような羽を持ったピクシータイプが主流です。大きさも北欧のトロールのように「アリのような大きさしかない」ものもあれば、ケルト民話に出てくる「スプリガン」のように巨人として描かれることもあります。
変身と解除を繰り返すごとに、少しずつ霊質が削られてどんどん小さくなる、という説もあります。いずれにしても、標準より大きな身体を持つ者は、たいてい妖精の中でも王のような地位にあると思っていいでしょう。

妖精学者によれば、彼らの身体は「凝縮した雲のよう」だと言います。
自由自在に大きさ、幅、体格などを変えることができ、やろうと思えば巨大な怪物の姿を取ることも可能です。しかし、あくまでも重さは元のままなので、それで実際に人間を踏み潰したり……といったようなことはできません。せいぜい魔法でそのように「錯覚」させるのが関の山です。

服装については、裸の場合もあれば、その国々の民族衣装で現れる場合もあり、あまり一定していません。民間伝承では「緑の服に三角帽子」という姿を取ることが多く、童話などもその流れに沿っています。


●妖精の住処(すみか)
妖精の住処は「妖精界(アルフヘイム)」と呼ばれる閉じられた世界です。人間界とは「ラースRath」というもので隔絶されていて、そう簡単に訪れることのできない場所なのですが、ときおり間抜けな人間がその「ラース」から妖精界へと入り込むことがあります。

とある女性が、ラースへ足を踏み入れたところ、妖精たちがダンスを踊っている場面にでくわしました。ムリヤリ輪の中へ引きずり込まれ、何日も踊りを踊らされるハメになり、気がつくと足の爪はすり減ってなくなってしまっていたそうです。

アイルランドでは「妖精界」と言えば「地面の下」が相場です。
この地方では畑を耕すと、やじり型の石が発見されることがあります。先住民の使った武器であるとも言われておりますが、昔の人々はこれを「妖精の矢」と考え、限りない薬効があるものとして大切に保管しました。

妖精界と人間界の時間の経ち方が違うというのもよく聞く話で、妖精界でたった数日過ごしただけなのに、人間界では数百年が経過していたということもありました。
逆に、妖精界で何年も過ごしていたのに、人間界へ戻ってみると数分しか経っていなかった……なんて話もあります。

彼らの世界にとらわれぬようにするには、向こうで食べ物を出されても決してそれを口にしないことです。ちょっとでも呑み込んでしまうと、元の状態で戻ることはきわめて難しくなります。
妖精界に迷い込んだとある人物は、その世界から逃れたい一心で、どんなに食べ物を出されてもガマンし続けました。そのお陰で、彼は見事元の世界に元のままで戻ることができたのだそうです。


●妖精の分類
最後に、妖精の分類方法について紹介いたしましょう。この辺りは学者によってかなり恣意的な区分けがされています。

1.生活単位によるもの(ノーベル賞作家W・B・イェイツによる分類)
◎ひとりで暮らす「ソリタリー」
◎集団で暮らす「トルーピング」

2.生息場所によるもの・その1(キャサリン・ブリッグズによる分類)
◎妖精界に棲む「妖精界の住人」
◎人間の家に棲む「守護妖精」
◎人間界の野外に棲む「自然の妖精」
◎特定の場所に棲む「怪物」

3.生息場所によるもの・その2
◎陸の妖精
◎海の妖精

4.生息場所と容姿によるもの(北欧神話による分類)
◎妖精界に棲む美しい「ライトエルフ(光のエルフ)」
◎地下に棲む醜い「ダークエルフ(闇のエルフ)」

5.性格によるもの
◎温厚な「ホブゴブリン」
◎イタズラ好きな「ゴブリン」
◎人間に敵対する「ボギー」

6.性格によるもの・その2
◎友好的な「シーリーコート」
◎非友好的な「アンシーリーコート」

7.大きさや神々しさによるもの
◎小型の妖精
◎人間と同じくらいの大きさの妖精
◎神々しいオーラをまとう妖精、もしくは英雄的な妖精

8.ゲーム・小説的な分類によるもの
◎人間と敵対しない「エルフ」
◎人間と敵対する「ダークエルフ」(モンスター)



●亜種・別名など
フェイ/フェ/エルフ/ニンフ/シー/シーオーク/妖精/小妖精/パック/レプラコーン/レプラホーン/クルーラーホーン/ファージャルグ/ガンコナー/オベロン/ティタニア

バンシーBanshee/Bean-Sidhe

●ケルトの女妖精
バンシーはアイルランドやスコットランドなどにいる妖精です。
なぜか女性ばかりで構成され、男性はひとりもいません。それもそのはず、バンシーという名前自体がゲール語(アイルランド語)で「女(バン)の妖精(シー)」を意味する言葉から来ています。
いやいや、それは違う、バンは「塚」「丘」を意味するもので「女」にあらず……なんて説もあるようですが、いずれにしても、古い時代には妖精の女性を差す一般名詞として使われました。
男性を差す時にはバンシーの代わりに「ファーシーFear Sidle」という名称を使います。ファーFearはやはりゲール語で「男性」を意味する言葉です。


●泣き虫妖精
バンシーは女妖精という面の他に、死に臨んですすり泣く「泣き虫妖精」としての面があります。

地位の高い人間、名声のある人間が死にかけようとしているところに、どこからともなく顔色の悪い女性が集まります。彼女は家の周りをそぞろに歩き、そして大変大きな声で泣き喚きます。
その声はこの世のものとは思えず、身の毛がよだつほど。空を飛んで空中から金切り声を出す者もいます。このようにひとしきり大騒ぎした後、対象が死ぬと彼女らは忽然と姿を消してしまいます。

このような姿から、しばしば彼女らは「死神(デス・ゴッド)」と同一視されました。
しかし、積極的に生命を奪うわけではなく、死者の大切な何かを奪うわけではありませんので、その意味ではむしろ「死神」と言うよりは「死を告げる存在(デス・テラー)」に近いのではないかと思います。


●バンシーと名誉
イギリスでもアイルランドでも、バンシーが登場することは大変な名誉です。「バンシーが出た!」という噂が流れるだけでその家屋の価値は一気に跳ね上がります。

「バンシーが登場する」→「その家は名家と証明されたようなもの」という意味合いもあるのでしょうが、それ以上に幽霊やお化け好きな国民性が影響しているように思えます。「ミステリー・サークル」や「ネッシー」「心霊写真」と言ったものは、すべてこの国々が発祥です。

こうした面が影響しているのか、彼女らはしばしば「幸運の女神」としての役割も持ちます。
だらしなく垂らした乳房に吸い付くことができれば、その人間はあらゆる望みを叶えることができます。また、バンシーだけでなく全ての妖精に言えることですが、人間と(いろんな意味で)交わることでその相手に霊感や才能を与えることもあります。


●バンシーの外見
バンシーの外見は伝承によって違い、一定していません。
若い女性の姿で出ることもあれば、まるっきり老女という場合もあります。顔を器用に隠しながら出るものもあれば、姿はなく声だけが周辺から聞こえてくるなんてパターンもあります。まあ、いろんなタイプがあるということなのでしょう。いずれにしても、目の周りは泣きはらしたように真っ赤で、ほほえみを見せることはほとんどありません。

ハイランド地方(スコットランド高地地方)のバンシーである「ベンニーア(ベンニー)」は人間に似た姿の持ち主ですが、よくよく見れば身体のどこかに「人間ではない」部分を持っています。
例えば、鼻の穴が一つしかないとか、前歯がリスのように飛び出しているとか、指の間に水かきがあるとか……。このベンニーアは、一説によれば産褥(さんじょく)で死んだ女性の霊であると言われています。産褥とは産後に続く体調不良のことです。


●「泣き女」とバンシー
泣くだけで危害を加えないなんて、まるで人間のようだ……と思った人もいるかも知れません。実は、その指摘は核心を衝いています。そもそも「死に臨んで泣く」という行動そのものが、人間の風習から来るものなのです。

ヨーロッパにロマ族という部族がいます。少し前まで「ジプシー」などと呼ばれていたので、ご存知の方も多いでしょう。
独特の風習や文化を持つことで知られ、確たる定住地を持たず、古くは馬車、今はキャンピングカーに乗って各地を放浪しています。スペインの名物として有名なフラメンコも、実はイベリア半島に移住した彼らが伝えたものです。

このロマ族に、「泣き女」という風習がありました(今もあるかも知れません)。葬式の際に個人への悲しみの情を盛り上げるために、報酬を貰って家の前で泣くというものです。
言わば「泣きのプロ」。その様子は実際に見た人の話では「凄まじい」の一言だそうで、泣くわ喚くわ転がるわ、見ている方が心配になるほどだと言います。しかし、ことが終わればさっきまでの騒ぎようはどこへやら、笑顔さえ浮かべて悠然と去ってゆきます。

この風習自体は、決して珍しいものではなく、かつては日本でも行われていたことがあり、朝鮮半島や中国などでは今も「泣き女」で生計を立てている人がいると言います。

巷間に伝わるバンシーのイメージの多くは、こうした「泣き女」のイメージが元となっています。
死に臨んで現れると言うのは、「泣き女」たちが死にそうな人間の情報をつかんで集まる姿。バンシーの数が故人の徳に比例すると言うのは、有名人や金持ちには報酬目当て、あるいは顔つなぎのために多くの泣き女たちが集まることを示しています。



●亜種・別名など
バーバン・シー/泣き女/バン・ニーア/グラッハ・ア・フリビン/カヒライス/クーニアック/クンチアッハ

ニンフNymph

●ニンフ
ニンフは正確にはニュムペーと発音する、ギリシア・ローマ神話の妖精たちです。美しい乙女の姿をしており、さまざまな場所、すなわち川や海、山、木、一定の場所、地方、町、国に棲んでいます。透き通った優美な衣装をつけているのが常で、美しい髪をギリシア風に束ね、頭に金の輪をはめた姿に描かれます。

彼女たちは多くの場合、神々に仕え、その周りで楽器や歌を披露しました。神の言葉を人間たちに伝えたり、神々を育てたりすることもあり、かのギリシア神話の最高神ゼウスなどもニンフに育てられました。神々と結婚して神を生むこともあり、ヘルメスはギリシア十二神の中でただひとり、ニンフを母親に持つ神です。

彼女たちは長い寿命を持っていますが、時に悲劇のヒロインとして、時に怪物に変えられる存在として、ギリシア・ローマ神話でははかない存在として描かれます。

個人名がついている者も多く、キュクロプスに愛されたガラティアや、木霊に変えられたエコー、ホメロスの「オデュッセイア」では魔女として登場するキルケー、月桂樹に変えられたタプネ、その他例を挙げるときりがありません。

特徴もそれぞれ違い、木々のニンフはすばしっこい足を持っており、海のニンフは人魚のように、下半身が魚のようになっています。さらに、泉のニンフは、予知能力を持っています。


●ニンフの名前
ニンフは棲む場所によって独特の名前がつけられています。

・海のニンフ→ネレイデスNereides(ネレウスの娘たち)、オケアニデスOkeanides(オケアノスの娘たち)
・池や泉のニンフ→ナイアデスNaiades
・山のニンフ→オレアデスOreades
・森のニンフ→アルセイデスAlseides
・木のニンフ→ドリュアデスDryades
・柏の木のニンフ→ハマドリュアデスHamadryades
・谷間のニンフ→ナパイアイNapaiai

この他に、アトランティデス(プレアデス)、ムーサイ(芸術の娘たち)、ヒュアデス(アトラスの7人の娘たち)などがいます。


●ニンフの寿命
彼女たちは神々や怪物と平気でつきあい、その世話を焼いたりすることから、女神と同一視する向きもありますが、神々とは決定的な差があります。それは、不死ではない、ということです。

彼女たちは対になるものを持っており、それが失われた段階で死んでしまいます。たとえば樹木のニンフだったら、その樹木が枯れたり、倒されたりしたところで死にます。
泉のニンフだったら、泉が枯れたところで死にます。町や国のニンフだったら、その町や国が滅んだところで死んでしまうわけです。他方、海のニンフは、海が不変である限りは永遠に生き続けることができます。

古代ギリシアの歴史家ヘシオドスによれば、ニンフは次のような寿命を持っているとされています。

・人間の一生×3=やかましい鳥
・やかましい鳥×9=鹿
・鹿×3=渡り鳥
・渡り鳥×9=シュロの木
・シュロの木×10=ニンフ

この計算によれば、ニンフの寿命は人間の7290倍ということになります。もちろん、あまり一般的な説ではありません。



●亜種・別名など
ニュムペー

ドワーフDwarf

●北欧の小人たち
ドワーフはドイツや北欧の伝承に登場する小人です。
同じ北欧系のエルフと対で語られることが多く、その歴史はきわめて古いとされています。いろんな物語に登場しており、グリム童話の「白雪姫」に出てくる「七人の小人」もドワーフです。

一般に「妖精」というくくりで語られることが多いですが、そのイメージは地に足をつけ、額に汗して働くガリンペイロ(鉱夫)そのものであり、妖精界に棲む浮世離れした「フェアリー」の姿とは一線を画します。

ドワーフの名前がどこから来ているのかは、あまりよく分かっていません。
チュートン語(古代ノルウェー語)の「蜘蛛(くも)」を意味するドゥヴェルグDuerg、ドイツ語の「小人」を意味するツヴェルクZwergなどが由来と考えておりますが、いずれも決定打に欠けるというのが実情です。
一部には、チュートン語の「暗いエルフ(妖精)」を意味する「デック・アールヴァー」から来ているとする説もありますけれど、これはちょっとうがちすぎの感があります。


●ドワーフのイメージ
彼らの多くは、地下や坑道を住処とし、鉱石などを掘りながらつつましく暮らしています。性格的にはおおむね頑固で気難しいのですが、根は優しく義に篤く、意気に感ずれば積極的に手助けを行います。

武骨な外見とは裏腹に手先はきわめて器用で、特に宝石や金銀の細工を得意とします。
大酒飲み・大食漢であり、歌や踊りもたしなみます。背丈は子供ほどしかありませんが、体格はがっちりしていて、「子供」と言うよりは上下に圧縮した大人のような印象を受けます。男性には立派なヒゲが生えていて、常に手入れを欠かしません。

以前は「女性にもヒゲが生えている」とする作品が多かったのですけど、さすがにジェンダー(性差)的にマズイと思われたのか、現在はヒゲの生えていないものが主流のようです。


●神話・伝承に見るドワーフ像
ドワーフの存在は北欧神話に見ることもできます。主神オーディンが巨人ユミルを倒したとき、そのウジが変身してドワーフになったと言います。

彼らはやがて鍛冶となり、神々の道具を作る栄誉を担いました。トールの武器である魔槌ミョルニル(通称トール・ハンマー)、オーディンの武器である魔槍グングニル、9晩に同じ性質の腕輪8個をしたたり落とす黄金の腕輪ドラウブニル、英雄ジークフリードを結果として死に追いやったアンドヴァリの指輪(通称ニーベルンクの指輪)などなど、彼らの手になる武器道具は多くにのぼります。

中世ヨーロッパの伝承では、彼らは「静かな人」と呼ばれ、泉や井戸、岩の割れ目などに棲むとされました。彼らの特徴は、岩から生まれ、性差を持たず、男女ともに同じ姿をしているということ。「女性にもヒゲが生えている」という発想はその辺りから来ています。

ただ、この時代までは意外にも、「善人」より「悪役」としての役割がむしろ多かったようです。つまり、この小人はゴブリンとどっこいどっこいの存在だったのです。
民話の中にも「悪いドワーフをやっつけろ!」という話がいくつも出てきます。「白雪姫」の善良な小人像は、この時代のものとしてはあくまでも例外中の例外なのです。

それが一転したのは、J・R・R・トールキンが「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」を著してから。気難しいけど義理堅いギムリおやじの姿は、その設定を受けた「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」「ソード・ワールド」などのゲームなどを通じて、人々に「ドワーフ=善人」のイメージを植え付けました。


●ドワーフと虫
ドワーフという呼称には、しばしば「地に棲む小さな者」転じて「標準より小さな動植物」のイメージがあります。
日本で「コ(小)~」「ヒメ~」などの接頭語のつくものは、英語圏では「ドワーフDwarf~」という呼称で呼ばれることが多いのです。例えば、盆栽などに使われる小型の松はドワーフ・パインDwarf Pineなどと呼ばれます。体格が一般人よりも小さくなる病気「小人症(しょうじんしょう)」も、やはり英語ではドワーフィズムDwarfismです。



●亜種・別名など
ドゥウェルガル/ドゥウェルグ/ドゥウォーフ/ノーム/ウムリ(ハーフ・ドワーフ)

トロールTroll

●北欧の妖精
トロール(トロル、トローとも言う)は、エルフやドワーフと並ぶ、北欧を代表する妖精のひとつです。
「妖精」とは言うものの、フェアリーなどと違って明確なイメージが与えられているわけではなく、地方や伝承によってさまざまな姿が言い伝えられています。巨人であるとするもの、小人であるもの、人間そっくりなもの、長い鼻を持つもの、美しい女性、半人半獣、首を小脇に抱えたデュラハンタイプ、頭が二つあるもの、この上なく美しいもの、逆にこの上なく醜いもの……など、まさに千差万別。場合によっては、隣り合った地域で、まったく別の姿が言い伝えられていることさえあります。

この不定形の存在が、なぜ妖精と見なされたのか、なぜトロールと呼ばれるようになったのかは、よく分かっていません。そもそも「トロール」という言葉の起源すら、諸説あってはっきりしていない状態なのです。一説には「魅惑する」を意味する古代スウェーデン語に由来するとも言われています。

北欧神話では、ラグナロク(神々の黄昏)に太陽を呑み込む大天狼フェンリル(スケル)に「トロル」という名前が与えられていたことがありました。


●イギリスのトロール
シェトランド諸島(イギリス北端部にある島々)のトロールである「トロー」は、人間そっくりの姿をしています。陰気で暗い印象を与え、普段は岩陰に棲み、土をこねて鳥や魚の形に変えて、味や匂いを自らつけて食糧にします。
女性のトローは存在しないため、子供が欲しいときには人間の女性をさらってきて嫁にするのですが、その女性はトローの子供を生むとすぐに死んでしまいます。

トロー自身はと言えば、基本的に子供の間は不死身ですが、大人になるとすぐに死んでしまうので、永遠に子供のままでいるトローもいます。
もっとも、そうしたずる賢い、「トローの風上にも置けない」連中は、早々に群れから追放されてしまうそうですが。


●トロールの性質
多くの場合、トロールは太陽のもとで動き回ることができません。
太陽が顔を覗かせたその瞬間、肌は一瞬で石と化します。もちろん、それで死ぬわけではありませんが、何せ石になっているので、彼らは太陽が沈むまでその場に立ち尽くすしかありません。夜になるとこの石化が解け、再び自由に動き回ることができます。

この設定はJ・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」に生かされます。これらの作品においてトロールは恐ろしい怪物としての役割を与えられ、ホビット庄のすぐそば、エリアドールの森に棲み、村人や旅人を何人もその牙にかけます。
ホビットのビルボ一行も彼らに襲われますが、一行の守護者である魔法使いガンダルフによって逆に罠にはめられ、トロールたちは石の身体に変えられてしまいます。


●エンターテイメント作品に見るトロール
ゲームや小説などでは、トールキンの作品以上に、トロールは畏怖すべき、恐ろしい怪物として描かれる傾向にあるようです。
太陽の光に当たると石になるという設定はそのままに、高い再生能力と不死の属性を持ち、武器で傷を与えても、見る間に急速に傷口がふさがっていきます。手足を斬り落としても、斬り落とした部分からまた新しい手足が生えてくるという凄まじさです。
再生を防ぐには、傷口を炎か酸で焼くか、もしくは簡単に復元しないように、ばらばらの切片に刻んで、広い範囲にまき散らすしかありません。


●ムーミントロール
こうした恐ろしい姿に描かれるトロールがいる一方で、まったく害のない、かわいらしい妖精の姿で描かれる場合もあります。
「ムーミン」などはその好例です。彼らも「ムーミントロール」と言う、れっきとしたトロールの仲間なのです。作者のトーベ・ヤンソンは、小さい頃から父親に「台所にはトロールたちがいるんだよ」と言われて過ごしました。その時の空想を絵物語にしたのが、かの有名な「ムーミン」シリーズです。

彼らの風貌は、カバが直立したような印象を与えますが、むろんカバをモチーフにしたものではなく、トロールの特徴である「長い鼻」を作者なりにアレンジしたものだと言われています。背丈も人間のくるぶしほど、5インチ(15センチ)ほどしかありません。


●トロールの起源に関する考察
トロールの伝承は北欧一帯に分布しています。そして、その範囲は、イギリスなど一部を除いて、そのほとんどが夏に太陽の沈まない地域、つまり「白夜」のある地域に集中します。

これらの場所では、しばしば薄明かりの中に、人間のような、そうではないような、不思議な存在が見られることがあります。
その正体は単なる霧であったり、もしくはほのかな光の中で不気味に浮かび上がる木々や岩のシルエットだったりするのですが、今のように充分な科学知識を持たない人々にとっては、それらが不気味な怪物に見えたであろうことは充分に想像がつきます。

もしかすると、こうした目撃例がもととなって、不定形の妖精トロールが作り上げられていったのかも知れません。地域や伝承によって姿かたちがバラバラなのも、景色がはっきり見える日中には姿を現さないのも、それで説明がつきます。



●亜種・別名など
トロル/ムーミントロール(ムーミン)/オログ・ハイ

ドライアドDryad

●ギリシア神話の乙女
ドライアドは、ギリシア・ローマ神話に登場する樹の妖精(ニンフ)です。「ドライアド」「ハマドリアド」とも言い、樹の中に住んでいます。彼女らの名前はギリシア語の「樫の木」を意味する「ドリュスdrys」に由来し、樹に害をなす者を許しません。

ギリシア神話では狩猟の女神アルテミスの侍女とされており、ドライアドを見ると不運になるという言い伝えもあります。基本的に不老で、年を取ることがありません。
有名なドライアドには、英雄オルフェウスの妻となったエウリュディケ、アポロンの求愛を逃れるべく月桂樹に変身したダフネなどがいます。


●ドライアドの伝承
ギリシア神話の中には、樹を切り倒そうとした人びとを止める男の話が出てきます。
ドライアドは助けてくれたお礼に何か欲しいかと聞きますと、男は自分の恋人になってほしいと言います。男は美男子で力もあったので、ドライアドは了承しました。
そこまでならいいのですが、ある時、男が将棋に熱中してドライアドとのデートの約束をすっぽかしてしまったので、怒ったドライアドは、蜜蜂をけしかけて彼の両眼を潰してしまいます。蜜蜂は木のうろに巣を作るので、彼女の命令を聞くのです。

また、あやまって自分の蜜蜂を全滅させた男が、ドライアドを探す話もあります。


●ドライアドの弱点
ドライアドには二つの弱点があります。ひとつは、自分の住む樹が枯れたり、倒されたりすると、彼女たちも死んでしまうこと、もうひとつは、自分の住んでいる樹からあまり離れることができないことです。

彼女たちは二枚目に弱く、自分たちの好みの男性を樹の中に取り込んで、生ある限り樹の中で一緒に暮らそうとしますが、もしそういう目に遭いそうになった時には、彼女たちの支配する樹から一目散に逃げると良いとされています。



●亜種・別名など
ドライアード/ドリュデス/ドリュアデス/ハマドリュデス/ハマドリアド

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