ギリシア神話の怪物

2014年7月 6日 (日)

テュポンTyphon

●オリュンポス神族最後の敵
テュポン(テュポーエウス)はギリシア神話に登場する怪物です。

頭から腿(もも)までが人間で、腿から下は巨大な蛇、肩部からは無数の蛇ないしドラゴンが生えており、その燃える目からは炎が噴き出し、口からは溶岩が流れ出すという、恐ろしい姿をしています。

背丈は天までも届き、両腕を広げれば世界の東と西の果てまで届き、また山脈を持ち上げるほどの力を持つとされました。
また、その口からはあらゆる種類の声が発せられ、神々に理解される声、騒々しく吼え立てる声、残忍な獅子の声、奇妙な獣の子の鳴き声に似た音などを発しました。

この怪物は、ギガンテスたちの敗北を見て、怒ったガイアがタルタロスと交わって生んだもので、オリュンポス神族にとっては最後の敵に当たります。

ゼウスを除く神々は、そのあまりの恐ろしさに、エジプトまで逃げて動物に姿を変えたとも言われています。
アテナが皆に戻るよう説得を続けましたが、実際に戻ったのはヘルメスとパンのみでした。


●ゼウス最大のピンチ
ただひとり残されたゼウスは、彼と戦うことを決意します。
テュポンはゼウスよりも強かったと言われていますが、ゼウスは遠方から雷霆(らいてい)を投げ、近くに寄っては金剛の鎌で打つなど、常に彼を圧倒しました。

しかし、取っ組み合いになったところで、彼はとぐろを巻いたテュポンに捕まり、その足の腱を切られてしまいます。
動けなくなったゼウスは、キリキア(小アジア西部)の洞窟に閉じ込められます。同じく奪った腱も熊の皮に隠してしまい込み、番人として竜女デルピュネを置きました。ゼウス最大のピンチです。

ところが、そこにヘルメスとパンが駆けつけます。ヘルメスらはどうやったのか、見事ゼウスの腱を盗み出すことに成功し、ゼウスは復活します。

彼は空から有翼の馬にひかれた戦車に乗って、雷霆(らいてい)を放ち、テュポンをシチリア島まで追い詰めます。
そして、山を持ち上げて、その下にテュポンを押しつぶしました。こうしてゼウスは戦いに勝利します。この山こそが、シチリア島最大の火山エトナ火山であり、テュポンは今もしばしば、悔しがるように火を吐くのだそうです。


●怪物たちの親
テュポンはエキドナと交わって、さまざまな怪物の親になっています。
彼の子供には、三つ首の番犬ケルベロス、双頭の犬オルトロス、レルネの大蛇ヒュドラ、リュキア(トルコ南部)地方の山岳地帯に棲むキマイラ(キメラ)、ヘスペリスの園を守るラドンなどがいます。



●亜種・別名など
テュポーエウス/テューポーン

タロスTalos

●青銅の巨人
タロスはギリシア神話に登場する、青銅の巨人です。
その生まれは姿かたち、諸説ありますが、一般的にはヘパイストスが作り上げた青銅人間(ロボット)という姿で知られ、ミノス王に与えられました。
ゼウスがエウロペをさらってクレタ島に連れて来た時、その守りを彼に任せたという伝承もあります。

彼は1日3度、クレタ島を巡回し、近づく船があると巨石を投げて撃退する機能がありました。
高熱を出して自分の身を灼熱させ、敵を抱きしめて焼き殺すこともできたようです。身体の中には首からかかとまで一本の血管が通っており、かかとにある青銅の釘がその終点となっておりました。


●アルゴ探検隊のタロス退治
金の羊毛を手に入れたアルゴ探検隊は、クレタ島に近づいた時、タロスの攻撃を受けたことがあります。

大岩を投げてくるこの敵に対処するため、アルゴ船に同行していた魔女メディアは、彼に呪文をかけ、その隙にアルゴ船の乗組員がかかとの釘を引き抜き、全身の血を抜いてしまいました。
こうしてタロスは退治され、アルゴ船は無事クレタ島沖を通過することができたという話です。

スフィンクスSphinx

●人面獅子身の怪物
スフィンクスはエジプトの怪物です。
顔が女性、身体がライオンで、背中に鷲の大きな翼を生やしています。歴史に少しでも興味のある人なら、ギザの沙漠に鎮座ましましている石像の姿を思い出すのではないでしょうか。

スフィンクスの像はギザだけでなく、各地に存在しますが、「彼女」が何ゆえにこのような姿になり、沙漠の真ん中に作られていたのかは、あまりよく分かっていません。
恐らくは当時の王や土着の神々を模したものだと思われておりますが、その建築時期、建築過程も含めて謎とされる部分は多いのです。

時期については、ピラミッドと同時期に作られたという説が有力ですが、それよりも古い時代(8000~12000年前)に作られたと言う人もいます。


●伝承の中のスフィンクス
スフィンクスという名前は「きつく縛る」「絞め殺す者」を意味するギリシア語スピンクスsphink、Sphinxに由来すると考えられています。

恐らくはギリシア神話に登場するスフィンクスのイメージによるものだと思われますが、古代エジプト語の「生ける彫像」を意味する「シェスプ・アンク」に由来するという説もあります。

エジプトではこの怪物は太陽の神ホルスの一面であると考えられ、「ホル・エン・アケト(地平のホルス、墓場のホルス)」「ホル・アクティ(地上のホルス)」などと呼ばれました。他に「ルウティ」などの呼び名もあります。

この怪物の伝承はエジプトを含む中東一帯、そしてギリシアにまで及んでいて、エジプトでは古くから王権のシンボルであり、知恵と力の象徴であり続けました。

人間とライオンと鷲というキマイラ(複合怪物)のような姿をしているのは、恐らく当時崇拝されたものを何らかの理由で一緒にしたものでありましょう。

私たちが知るような姿はメソポタミア(現在のイラク、シリア)で考えられたものです。
ちなみにメソポタミア以外では、人間の頭を持たないタイプもしばしばいて、例えばエジプト中部のカルナック神殿跡では、人間の頭の代わりにヒツジの頭を持つ像が発見されています。

バビロニア神話では光の神マルドゥークに退治される存在としての役割が与えられており、アラビアでは「アブ・ホル(恐怖の父)」などと呼ばれて大変恐れられました。


●ギリシア神話のスフィンクス
しかし、スフィンクスと言えば何と言ってもギリシア神話のスフィンクス伝説に尽きます。

テュポン(またはオルトロス)とエキドナの間に生まれた「彼女」は、自然の女神ヘラの命令でテーベ(現在のエジプト中部の都市テーバイ)にやって来ます。そして、小高い丘の上に陣取り、謎かけをして、答えられないテーベの民や旅人を懲らしめるようになりました。

その謎かけとは「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩く者とは、誰のことか?」というもの。テーベの王もこれに挑戦しますが、結局答えられずに殺されてしまいます。それゆえ、テーベの街では長らく王不在の時代が続きました。

そこに、勇敢な若者オイディプスが通りかかります。スフィンクスはその前に立ちはだかり、同じ謎かけを問いかけました。聡明なオイディプスは直ちに
「それは、人間だ」
とずばり答えます。
実はそれが正解で、スフィンクスは恥ずかしさのあまり、丘の上から身を投げ出して死んでしまいました。

なぜ人間が正解なのかと言うと、人生の朝……つまり赤ん坊の時には四つんばいで這い回るから4本足。
人生の昼……つまり若い時は2本の足でしっかり歩くから2本足。
人生の夜……つまり老人の時には杖をついて歩くようになるので3本足、というわけです。

テーベの街はこの結果に大いに沸き返り、勇敢なその若者を新たな王として迎えました。彼は後年、別の悲劇的な物語の主人公となりますが、それはまた別の話となります。


●博物誌に見るスフィンクス
この怪物は歴史書や博物誌にも登場します。

古代ギリシアの歴史家ヘロドトスは、著書「歴史」の中でアンドロスフィンクスAndrosphinx(人頭スフィンクス)と言う怪物の存在について言及しており、他に「クリオスフィンクスCriosphinx(羊頭スフィンクス)」「ヒエラコスフィンクスHieracosphinx(鷲頭スフィンクス)」など、人間以外の頭を持つスフィンクスがいると述べています。
このことから、ヘロドトスの時代(紀元前5世紀ごろ)には、スフィンクスという名前が単なる人頭獅子身の怪物ではなく、それ以外の頭を持つ怪物に使われていたことが分かります。

古代ローマの博物学者プリニウスも「博物誌」の中で、エチオピア(現在のアフリカ北東部一帯)に棲む怪物としてスフィンクスの名前を挙げています。
「毛が褐色で一対の乳房」を持つ女の怪物として描かれており、その姿は有名なドミニク・アングルの「オイディプスとスフィンクス」の絵にも描かれています。


●スフィンクスの象徴するもの
彼女は王権の象徴であり、知恵と力を表わすものだということはさきに少し触れましたが、一説には悪疫(疫病)を象徴するとも言われ、オイディプスのスフィンクス退治譚はそうした状況を物語にしたものだと考えられています。

王を含め、住民や旅人が次々と喰い殺されたのは、病気(恐らくは天然痘)が流行り、地位の区別なくばたばたと人々が死んでいったことを示すもの。
オイディプスがそれを退治したと言うのは、彼が王に就任してすぐに、的確な防疫対策を施したという部分を表わしたものです。

中世には肉体的な快楽や娼婦を象徴し、また人間と動物のキマイラという姿から知性と体力、精神と物質と言った二重の性質の統一を表します。
また、人間自身を答えとする謎かけのイメージから「人生の謎」「永遠に解けない究極の謎」を象徴することもあるようです。



●亜種・別名など
スピンクス/アンドロスフィンクス/ヒエラコスフィンクス/クリオスフィンクス/ルウティ/シェスプ・アンク/ホル・エン・アケト/ホル・アクティ/アブ・ホル

スキュラSkylla

●ギリシア神話の怪物
スキュラ(スキュレー)はギリシア神話に登場する不死の怪物です。

シチリア島とイタリア半島の間にあるメッシナ海峡の洞窟に棲むと言われ、そこを通りかかるイルカやアザラシ、ポセイドンの妻アムピトリテの飼っているペットの怪物、果ては人間の船員までをも餌食にし、おまけに同じ海峡には大渦を巻き起こす怪物カリュブディスまでも棲んでいたため、メッシナ海峡はシチリア海最大の難所として恐れられていました。

彼女はテュポンとエキドナの子供とも、ポルキュス(ガイアの子)と女神クラタイイスの子供とも言われます。
その姿は上半身が美しい女性、下半身が六箇の長い頭とあごを持つ犬の頭と十二本の足という異形な姿です。
しかも、その犬の口には、サメのように、三列にぎっしりと歯が並んでいます。この他にも、下半身は六匹の犬であるとも、六つの頭でできた帯をしているとも言われます。

彼女の名前はギリシア語で「犬の子」ないし「引き裂くもの」「すさまじいもの」を意味する言葉から来ています。


●スキュラが怪物になった理由
スキュラが怪物になった理由は以下の通りとされています。

オウィディウスの「変身物語」によれば、彼女は女神クラタイイスの娘であり、水のニンフ(妖精)でした。しかし、海神グラウコスの求愛を受け、逃げ出してしまいます。

グラウコスは諦めきれず、友人の魔女キルケーに相談して媚薬を作ってもらうよう頼みました。しかし、キルケーはグラウコスのことを愛していたので、嫉妬心から、怪物になる薬を作ったのです。そして、スキュラがよく沐浴する池に流し込みました。

何も知らないスキュラは、いつものように沐浴しようと池に入り込みました。すると、またたく間に下半身が怪物へと代わってしまったのです。

彼女は怪物が現れたと思って逃げ出しますが、その怪物が自分の下半身のことだと分かると、絶望して海に出て、岩陰に身を潜めます。
しかし、下半身は怪物となってメッシナ海峡に現れ、そこを通る者を次々と餌食にしていったということです。


●「オデュッセイア」のスキュラ
ホメロスの「オデュッセイア」では、彼女はメッシナ海峡に棲む怪物として描かれています。

トロイア戦争から帰る途中、神々の策謀によってさまざまに遍歴を重ねることになった英雄オデュッセウスは、偶然メッシナ海峡を通ることになります。

この海峡にはカリュブディスとスキュラが棲んでいることを、他の船乗りから聞いていた彼は、真ん中を通れば襲われない、ということを聞きつけ、船をその方向へと進ませますが、幅が広い船なのでどちらかに寄らねば進むことができないことを知り、愕然とします。

そこで、彼はスキュラのいる方向へと船を進めます。
カリュブディスのいる大渦に巻き込まれると船そのものが壊れますが、スキュラならば最大で6人の仲間を犠牲にすれば、船そのものには傷がつかないからです。

果たして、スキュラの前を通りかかった時、彼女の6本の首はみるみるうちに伸びて6人の仲間をさらいますが、オデュッセウスはその間に船を先に進ませました。
スキュラはそれでもなお満足せず、再び一行に襲いかかりますが、オデュッセウスは2本の首を切り落として、何とかこの難所を切り抜けます。


●その他の話
これらの話の他にも、ヘラクレスの「十二の難業」のうち、「ゲリュオンの牛」において、彼が盗んだ牛の一匹をスキュラが食べたため、彼の強弓によって退治されたという話が残っています。この時は、彼女の父ポルキュスによって蘇生されました。

また、アルゴ探検隊がこの海峡を通ったという話もありますが、どうやって通ったのかはよく分かっていません。

やがて彼女は岩に姿を変えられました。

中世に入ると、スキュラは動物寓話集に海の怪物として挙げられるようになります。それによれば、彼女の上半身は美しい女性ですが、下半身は狼の身体とイルカの尾で構成されているそうです。


●スキュラの象徴するもの
スキュラはメッシナ海峡の岩礁を象徴し、カリュブディスは同海峡の潮流を象徴していると言います。
オデュッセウスがスキュラのいる側を選んだというのは、彼の乗った船が、すなわち死を意味する潮流に巻き込まれるよりも、最悪でも船に穴が開くだけで済む岩礁地帯を選んだということなのでしょう。

ちなみに、スキュラとカリュブディスの真ん中を通れば無事であることから、しばしば両者は「中立」「中庸」を象徴することもあります。



●亜種・別名など
スキュレー

ピュトンPython

●デルフォイの番人
ピュトンはギリシア・ローマ神話に登場する大蛇です。神託で有名なデルフォイの泥から生まれたとされ、大変に大きく、神託所のある場所をすっぽりとぐろで巻いていたとされています。
アポロンがピュトンを殺し、我がものとするまでは、ピュトンが神託をつかさどり、人間にそれを与えていました。


●アポロンとピュトン
ピュトンは神託により、レトの子によって殺されるであろうという予言を得ていました。そのため、レトがゼウスによって孕まされた時、彼女を殺そうと謀っていたと言います。

しかし、ヘラがレトに対し「太陽の下で産むことあたわず」と言った時、ゼウスはポセイドンに頼んで、デロス島を海の水で完全に囲んでもらい、その中でレトは子供を産んだため、見つけることができませんでした。

果たして、産んだ子供のひとりアポロンは、予言通り、生まれて3日目でピュトンを射て、大地の裂け目に投げ込んで殺し、デルフォイの地を手に入れるに至りました。
デルフォイで巫女たちがトランス状態に陥るのは、ピュトンの死体から立ち上るガスによって起こるものだとされています。


●ピュティア祭
アポロンはピュトンを殺した後、その灰を石棺に収め、ピュトンのために葬礼競技ピュティア祭を催しました。
これは、器楽、詩、激、朗誦と運動競技、馬の競技を行うもので、古くは8年ごと、紀元前582年からは4年ごとに行われました。勝者にはメダルならぬ月桂樹の冠が与えられたと言います。



●亜種・別名など
ピュートーン

オルトロスOrthros

●エキドナの息子
オルトロスはギリシア・ローマ神話に登場します。
双頭の頭を持つ巨大な犬の怪物で、父はテュポン、母はエキドナという、由緒正しい怪物です。ケルベロスとは兄弟の間柄にあります。

母エキドナとも情を通じ、ネメアのライオンとスフィンクスを生んだともされています。

彼ははるか西にあるエリュテイア島(虹の島)で、巨人ゲリュオンおよびその牛の番犬として活躍していました。

ヘラクレスが「十二の功業」の中でゲリュオンの牛を奪いに来た時には、その臭いをまっさきにかぎつけて襲いかかりましたが、逆に返り討ちに遭い、棍棒で殺されてしまったと言います。

オルトス(まっすぐな者)と呼ばれることもあります。



●亜種・別名など
オルトス

ミノタウロスMinotaur

●牛頭(ごず)の怪物
ミノタウロスはギリシア神話に登場する怪物です。
頭が牡牛、身体が人間という姿をしておりますが、サイズも腕力も並はずれており、人間を襲ってはその肉を喰らいます。
一応、アステリオス(アステリオン)という本名を持っておりますが、一般には「ミノス王の牡牛」を意味するミノタウロスという名前で通用しています。


●ギリシア神話のミノタウロス
ギリシア神話によれば、彼はパシパエという女性の道ならぬ恋の末に生まれたとされています。

パシパエはクレタ王国の有力な王ミノスの后です。クレタ王家は代々、守護神である海神ポセイドンに牡牛を捧げていたのですが、ある時、生け贄として用意された白い牡牛にパシパエが魅せられてしまい、それを隠して別の牛を代わりに捧げました。

しかし、そんな企みに騙されるポセイドンではなく、彼は報復としてパシパエが牡牛を好きになるという呪いをかけます。
パシパエは牡牛に夢中になり、交わって牛のような頭を持った怪物を産み落とした。それがミノタウロス(アステリオス)です。

ミノス王はその義理の「息子」を、名建築家ダイダロスに命じて作らせた迷宮に閉じこめます。
この迷宮は、壁面に諸刃の斧(ラビュリス)のレリーフが彫られていることから「ラビュリントス」の名前で呼ばれました。英語で迷宮を意味する「ラビリンスLabyrinth」という言葉は、ここから来ています。

王はさらに、アテナイ(アテナ市)から毎年7人の少年少女を譲り受け、生け贄として迷宮に送り込みました。
アテナイの王子テーセウスはそれを憂慮し、この怪物を退治することを決意します。彼は7人の生け贄のひとりとなってクレタ島へと赴きました。

テーセウスに一目惚れしたミノス王の娘アリアドネーは、この英雄に「役に立てば」と一降りの剣(青銅の棍棒説もあり)と糸の束を渡します。糸の束は帰り道を確保するためのものです。

体格差をものともせず、首尾良くミノタウロスを殺したテーセウスは、あらかじめ張り巡らせておいた糸を辿って無事この迷宮から抜け出すことができました。


●牛祭
この怪物は、クレタ島で行われていた大祭をモチーフにしているという説があります。
当時、クレタ島では牡牛を崇拝しており、それにまつわる神殿がいくつも建てられました。パシパエに呪いをかけたポセイドンは海神ですが、一方で牛の神という面も持っています。

さて、その大祭ですが、牛の覆面を被った祭司が舞い踊り、何頭もの牛が辺り一帯を駆け回ると言う、相当派手なものであったようで、中でも、少年少女がその突進してきた牛の角をつかみ、空中にヒラリヒラリと舞い上がるイベントは、とりわけ人々の人気を集めていました。
クレタ島内のクノッソス神殿跡にも、その様子を描いたレリーフが残っています。

もっとも、このイベントは事故率の高い、大変危険なイベントでもあったようで、しばしば怪我人や死者が出たと言います。そこから、

「クレタ島には少年少女が参加する祭がある。死傷者がたくさんでるような危険なもので、その主催者は牛の仮面を被っている」
「クレタ島には少年少女を喰らう危険な怪物がいる。それは牛の顔をした人間だ」

となって、ミノタウロスの伝説に繋がっていったのではないかと考えられます。



●亜種・別名など
アステリオス(ミノタウロスの本名)/ミノトーア/牛魔王/牛頭大王

2014年7月 5日 (土)

メデューサ(メドゥーサ)Medusa

●蛇髪の怪物
メデューサ(メドゥーサ)はギリシア神話に登場する女の怪物です。
蛇の髪の毛と、覗き込むと石になるという瞳を持ち、肌は青銅のウロコでびっしり覆われ、背中には大きな黄金の翼が生え、口からはイノシシのような鋭い牙が覗きます。
髪が蛇である以外は美しい(?)少女の姿であるとする説もありますが、いずれにしろ、その目を見ると石になると言う点は変わらず、恐ろしい怪物であることに変わりはありません。

その知名度はきわめて高く、神話や怪物に少しでも興味がある人ならば、その名前をどこかで聞いたことがあるハズです。
しばしば女性の恐ろしい部分を揶揄する呼称としても使われ、相手を思わず石にしてしまうような、鋭い舌鋒と視線の持ち主を、ユーモアを込めて「メデューサ」と称したりもします。


●ギリシア神話のメデューサ
もともとは、長姉ステンノー、次姉エウリュアレーとともに「ゴルゴン(ゴーゴン)三姉妹」の名前で呼ばれ、ポルキュスとその妹ケトの間に生まれた娘でした。
かつては姉とともに大変美しい姿をしていたのですが、知恵の女神アテナ(もしくはポセイドンの妻アンフィトリテ)の怒りを受けて醜い姿に変えられてしまいます。

アテナ(もしくはアンフィトリテ)が怒った理由は、海洋神ポセイドンの求愛を受けたからとも、あるいはアテナの神殿で男性と淫蕩にふけったからとも言われていますが、多くの本は、その美しい髪を自慢してアテナを冒とくしたため、怖い怪物に変えられたのだと説明しています。

醜い姿になった彼女は心も醜くなり、しばしば人々を苦しめたので、ゼウスの息子である英雄ペルセウスによって退治されました。

彼はアテナから貰った青銅の盾を、あらかじめ鏡のように磨いておいて、メデューサがこちらを向いたとき、すかさずその前にかざしました。
あらゆるものを石化させる魔力は、盾に反射してメデューサ自身を石に変えてしまいます。三姉妹の中でただひとり不死ではなかった彼女は、そのまま死んでしまいました。

ペルセウスがその首を切り取ると、血だまりの中から聖馬ペガサスと、黄金の剣を持つ巨人クリュサオルが飛び出しました。ペガサスはその後ペルセウスの乗馬としてあちこちを飛び回ることになります。

英雄はのちに、自分を陰ひなたに支えてくれたアテナの神殿に、メデューサの斬り落とした首を奉納しました。アテナはその功績を称えて、自分の盾(イージスの盾)の中央にその首をはめ込みます。


●大地母神メデューサ
もともと、メデューサは怪物ではなく、ギリシアの先住民族ペラスゴイ人の崇める女神(大地母神)であったと言う説が有力です。
メデューサの名前もギリシア語で「女王」「支配する女」を意味するもので、すなわち彼女がかつて神々の中心にあったことを示しています。

しかし、その先住民族たちも、力で勝るギリシア人たちの前に滅亡を余儀なくされますが、その過程で彼らの神話体系もギリシアのそれに組み込まれていきます。

主神であったポセイドンは、海神という役割を得ることで何とか善神としての地位を確保することができましたが、その妻であり、大地母神であったメデューサは、アテナやヘラと言った他の女神とのバッティングにより、魔物の立場へと貶められていったのではないかと思われます。
実際、アテナとメデューサは、どちらも「大きな目を持つ女神」とされたことがあるなど、けっこう共通点が多いのです。

エジプトやトルコでよく見かける目玉型のお守り「ナザール・ボンジュ」も、その意味するところは「メデューサの目」で、大地母神だったころの彼女の雰囲気を伝えるものです。


●メデューサの能力
彼女の最大の武器は、その目を覗き込んだ者を石にする能力です。石になると言っても、あまりの恐ろしさに石のように固まってしまうとするもの、瞳に魔力があって、その魔力に触れたら石になるとするものなど、いくつかの解釈があるようです。
古い時代の伝承は前者を採ることが多く、逆に、新しい時代の伝承や最近の漫画・ゲームなどはもっぱら後者を採用しています。

漫画・ゲームが後者を選ぶのは、「いかに目を覗き込まずに済むか」の一点で緊迫感のあるドラマを演出することができるからでしょうか。なお、石化された者を回復させるにはメデューサ自身の流す涙が効果的です。

頭に生えている蛇は「メデュシアナ」という名前がついていて、単に恐ろしさを演出するだけでなく、噛みつくこともできますし、引き抜いて単体で動かすことも可能です。
ちょっとした遠隔ミサイルと言ったところですが、このミサイルには一つだけ欠点があり、なぜか女性に噛みつくことはできず、男性のみを執拗に狙い続けます。理由はよく分かりません。



●亜種・別名など
ゴルゴン/ゴルゴーン/ステンノー(メデューサの長姉)/エウリュアレー(メデューサの次姉)/グライアイ(メデューサたちの妹)

ラミアLamia

●ギリシア・ローマ神話の怪物
ラミア(ラミエー)はギリシア・ローマ神話に登場する女の怪物です。その起源については諸説あり、はっきりしていませんが、最も一般的なのはリュビア(現在のアフリカ北部)の女王だったとするものです。

エジプト王ペーロスとリビュエー(リビアの語源となった女性)の間に生まれ、ゼウスに愛されましたが、ゼウスの妻ヘラの嫉妬を受けたので、ゼウスは彼女をアフリカの贅を尽くした洞窟に隠しました。
さらに、ゼウスは目を取り外せるようにし、自由に飛ばして警戒できるようにしたのです。

しかし、ヘラは彼女を見つけ、半人半蛇の醜い姿に変えて、ラミアの子供たちをことごとく殺します。
以来、絶望した彼女は、他の男や子供を見つけると、良い音色の口笛を鳴らして誘惑し、喰らうようになったと言います。一説には、ヘラに眠りを奪われたので、夜にさまよっては、寝ない子を襲って殺すのだとされています。

古代ローマ時代には、後の時代に言うところのボギー(邪悪な存在)として、子供たちをしつけるのに使われたとも言われています。


●民間伝承の中のラミア
このラミアは、のちにヨーロッパの民間伝承に採り入れられ、森の中の住民となり、夜になって縄張りに入ってきた人間を襲ってはその血を吸ったり、肉を喰らったりするようになると考えられました。

中世から近世にかけては、「吸血鬼」と同等の存在と見なされるようになり、彼女を題材にした作品がいくつも作られます。好色な存在という要素が付け加えられたのも、このころです。

さらに時代が進むと、彼女は「魔女」や「妖術師」のひとりとして、人びとに恐れられるようになりました。時に、魔女や妖女を指して「ラミア」と呼ぶこともあったようです。


●ラミアの姿
ラミアの姿については、いくつか解釈が存在します。
最も有名なのは、ギリシア・ローマ神話に見られる半人半蛇の姿ですが、トプセルの「四足獣誌」には、全身がウロコに覆われ、割れたひづめと女性の乳房と男性器?を持つキメラ的な四足獣として描かれています。



●亜種・別名など
ラミアー/ラミエ

ラドンLadon

●百頭竜
ラドンはギリシア・ローマ神話に登場するドラゴンです。
巨大な身体に無数の鱗(うろこ)、100の頭に200の目がついていると言われ、その口からはあらゆる国の言葉や声が発せられると言います。

一般的にはテュポンとエキドナの子供だと言われていますが、ポルキュスとケトの子供という説、ガイアの子供という説、あるいは女神ヘラの創造物だという説など、いろいろな説があるようです。

彼はヘスペリスの園の林檎を護る存在として、ヘラによって置かれました。この木はゼウスとヘラが結婚した時、ガイアから贈られたものです。ラドンはその木に絡みつき、近づく者を攻撃してはねつけました。


●ヘラクレスの功業
しかし、そんな彼にも強敵が現れます。英雄として名高いヘラクレスです。彼はヘラによって科された「十二の功業」のうちの11番目として、ヘスペリスの林檎を取りに来たのです。
ラドンは木に絡みついて彼を威嚇しますが、ヘラクレスは得意の弓矢で彼を射て即死させます。そして、見事ヘスペリスの林檎を手に入れることに成功します。

ヘラはその死を悼んで、彼を天空に挙げます。それが現在のりゅう座だということです。ちなみに、りゅう座はヘラクレス座のすぐ近くにあります。

なお、別の説では、ヘスペリスの林檎は神にしか取れないので、彼はラドンに出会っていないと言われています。この場合は、天球を支えていたアトラスが代わりに取ってきたということになっています。



●亜種・別名など
ラードーン