ギリシア神話の神々

2014年7月 6日 (日)

ゼウスZeus

●ギリシア神話の最高神
ゼウスはギリシア神話の天空神にして最高神です。
その名前は「天」「昼」「光」を意味する印欧古語に由来します。

ローマ神話のユピテルJupiterに当たり、英語ではジュピターと呼ばれます。その名はまた木星に与えられています。

同じ天空神でも、天のみを支配するウラノスとは違い、種々の気象的現象(雨、風、雷など)を生ずる空の神であり、同時に地上の神でもありました。同時に、人間社会の秩序を守る、全ギリシアの守護神でした。

彼の聖獣は鷲であり、聖木はオーク(ナラ、カシ類)の木です。
生け贄には山羊、牡牛、牝牛が捧げられました。武器は雷霆(らいてい)であり、彼の像は片手に雷霆、もしくは王笏を持った姿で表されます。


●ゼウスの生い立ち
ゼウスはクロノスとレアの息子の末子であり、父クロノスの乱心を避けて、クレタ島のアンガイオン(異説あり)の洞窟で生み落とされました。

妖精(ニンフ)もしくは牝山羊のアマルテイアの乳を与えられて育てられ、成長した彼は、クロノスの腹の中から兄弟姉妹を取り返して、クロノスらをはじめとするティタン神族に戦い(ティタノマキア)を挑みます。

結果は、10年かかったものの、ヘカトンケイル族やキュクロプス族を味方につけたゼウス側が勝利します。

その後、兄(弟という説もあり)のポセイドン、ハーデスとともに、どちらがどこを支配するか、くじ引きを行ったところ、天界を支配することが決まったので、ウラノス、クロノスに続くゼウスの世界支配がなりました。


●ゼウスと怪物との戦い
しかし、世界支配がなっても、安心はできませんでした。
ガイアが我が子を倒した孫(ゼウス)を恨んで、ギガース(巨人族)をけしかけてきたからです。

ギガースは父クロノスが祖父ウラノスの一物を切り落とした時、その血が地面(ガイア)にしたたって生まれた子供です。いわば、彼は叔父らに戦い(ギガントマキア)を挑まれたのです。
この時も、彼は我が子ヘラクレスの協力を得て、何とか巨人族を撃退します。

それでもなお、憤懣(ふんまん)やるかたない祖母(ガイア)は、最後にガイアとポルキュスの子供であるテュポンをけしかけます。
その余りの恐ろしさに、他の神々はみな逃げ出してしまいましたが、ゼウスは単身戦いを挑みます。この戦いに名前はついていません。結果は、雷霆(らいてい)で圧倒したゼウスの勝利でした。

こうして、三度の戦いに勝利したゼウスは、神々の長としての地位を不動のものにします。


●浮気性の神
ゼウスは浮気性の神としても知られます。

あちこちの女神や妖精(ニンフ)、人間の女性に手を出しては、正妻ヘラの嫉妬を受けて女性が受難を受ける、というパターンがほとんどです。

これは、かつてのギリシア名家・王家が、ゼウスに祖先を求めたり、異民族の神話体系がギリシア神話に取り込まれたりした結果だと言われています。
名家・王家はゼウスに連なる家系であることを主張することで、支配権の確立を狙い、異民族はギリシア神話の最高神と繋がることで、ギリシア人への同化を行ったのです。

ですから、彼は厖大な数の子供を残したことになっています。主な子供をざっと挙げただけでも次の通りです。

(対アイギナ)=アイアコス
(対アルクメネ)=ヘラクレス
(対アンティオペ)=アムピニオン、ゼトス
(対イオ)=エパポス
(対エイリュメ)=カリテス
(対エウロペ)=ミノス、ラダマンテュス、サルペドン
(対エレクトラ)=ダルダノス、イアシオン、ハルモニエ
(対カリスト)=アルカス
(対セメエ)=ディオニュソス
(対ダナエ)=ペルセウス
(対タユゲテ)=ラケダイモン
(対テミス)=ホライ、モイライ
(対デメテル)=ペルセポネ
(対ニオペ)=アルゴス、ペラスゴス
(対プルート)=タンタロス
(対ヘラ)=ヘベ、エイレイテュイア、アレス、ヘパイストス(*異説あり)
(対マイア)=ヘルメス
(対メティス)=アテナ
(対レダ)=ヘレネ、ディオスクロイ
(対レト)=アポロン、アルテミス


●ゼウス信仰
ゼウス信仰は古代ギリシアの先住民族、ペラスゴイ人の時代にまでさかのぼると言われています。ゼウスの神域にはオリンピア、そしてドドナが挙げられますが、ドドナはペラスゴイ人の神域でもありました。

彼は当初から諸王における大王の如く、全部族の神の長としての役割を与えられており、ギリシアで王制がすたれた後も、大はポリス、小は個人の権利と自由を守る存在として信仰を集め、紀元前5世紀ごろには、ほぼ全知全能の存在として崇められるに至りました。

予言も彼の重要な職掌のひとつとされ、ドドナで行われる予言、あるいはアポロンの神託で有名なデルフォイで行われる予言は、ゼウスがオークの木のささやき、またはアポロン神の口を借りて行うものだとされました。

ゼウスはまた、最初に述べたように、天候と気象をつかさどる存在として崇敬されたので、霧や雲が発生しやすい場所、たとえば高山の中腹や頂上に、彼に捧げる神殿がいくつも造られたと言います。神々が棲むと言われるオリュンポス山もそのひとつです。



●亜種・別名など
ユピテル/ジュピター

トリトンTriton

●半人半魚の神
トリトンは、ギリシア神話に登場する神の名前です。古くは単独の神でしたが、後年マーマン(マーメイドの男性版)のような種族と考えられました。

彼は海神ポセイドンとその妻アムピトリテの間に生まれた子供で、半人半魚の姿をしていると考えられています。

海のニンフであるネレイスの護衛と、海の神々に侍して先導をつかさどる従者としての役割を持ち、常に法螺貝(ほらがい)の笛を持っているとされました。
この笛は不思議な力を持っており、海流の流れを変えたり、大波を起こしたり、また荒れた海を鎮めたりします。
ギリシア中を襲った大洪水のあと、デウカリオンの夫婦のみが助かったとされていますが、それはトリトンが法螺貝を吹いて水を引かせたからだと言います。

のちに法螺貝はトリトンのシンボルと考えられるようになりました。


●博物誌のトリトン
古代ローマの著述家プリニウスは、「博物誌」の中でトリトンに言及しています。

それによれば、とある使節団が、ローマの第二代皇帝ティベリウスに、とある洞窟でトリトンを目撃したという報告を行ったというのです。
その姿は、神話にある姿とそっくりで、法螺貝を吹いていて、その音を聴いたとも証言しています。



●亜種・別名など
トリートーン

ティタン神族Titan

●ティタン神族
ティタン神族は、ゼウスらが出現する前にこの世界を支配していた巨人族です。さまざまな男神、女神によって構成されており、男神をティタン、女神をティタニスと呼ぶこともありました。

ティタンという名前は「太陽神」を意味するギリシア語から来ており、元はヘリオスなどの存在を指していたとされています。金属のチタンや土星の衛星タイタンは彼らの名前から来ています。

一般にはウラノスとガイアの息子12人が知られており、オケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペストス、クロノスの男神、テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイペ、テテュスの女神が有名です。
この他にもプロメテウス、エピメテウス、アトラスなどがティタン神族の一族に入ります。


●ウラノスからの政権奪取
父ウラノスは暴君でした。キュクロプスとヘカトンケイルが生まれて間もなく、彼らをただ「気持ち悪い」という理由だけで、タルタロス(冥界)に封印したのです。
それにショックを受けたガイアは、ウラノスに断罪を与えるべく、息子、娘たちに陰謀を持ちかけます。それに乗ったのは末弟のクロノスでした。

彼は父ウラノスが寝ている間に、その男根を切り取り、海に投げ捨てます。そして、ティタン神族による支配を確立するのですが、ただひとり、オケアノス(大洋)だけはこの陰謀に加わりませんでした。

ウラノスはその力を急速に失いますが、「お前もその子供によってその支配権を奪われるであろう」という神託を残します。
この言葉によって、クロノスが生まれた子供を呑み込むようになった……というのは有名な話です。


●ティタノマキア
クロノスは神託によって自分の政権が侵されるのを防ぐため、生まれて来る子供をことごとく呑み込みました。
それを悲しんだ妻のレアは、最期の子供、ゼウスをこっそり大岩と取り替えて呑み込ませ、ゼウスはニンフ(妖精)たちによって育てられます。

成長したゼウスは、オケアノスの娘メティスの協力によって兄弟たちを吐かせ、クロノスらティタン神族に戦い(ティタノマキア)を挑みます。

この戦いは10年間続きましたが、キュクロプスとヘカトンケイルを味方につけたゼウスらオリュンポス陣営の勝利に終わり、クロノスらはタルタロス(冥界)に封じられ、今も彼らはヘカトンケイルたちによって見張られているということです。



●亜種・別名など
ティタニス(ティタン神族の女性たち)

シレノスSilenos

●半人半馬の種族
シレノス(セイレノス)は、ギリシア神話に登場する、サテュロスに似た河と泉の神です。
ヘルメスの子ともパン神の子とも言われ、その姿は上半身が人間で、耳と下半身および尾が馬、鼻は獅子のように低いと言われます。

シレノスという名前は、「ワインで慢心となった」を意味するギリシア語から来ており、いつも酩酊した姿で現れます。
酒神ディオニュソスとは強い関わりがあり、その放浪に付き従いました。彼の養育係だったという説もあります。


●知恵の持ち主
性格は良く言えば奔放、悪く言えばスケベで、常にどこかのニンフの尻を追いかけています。ヘラやイリスのような女神に迫ったこともありました。

ただ、その外見、その性格に似合わず、素晴らしい知恵の持ち主とされ、彼を捕らえて強く迫った者にそれを教えると言います。
ミダス王は彼を酔わせて縛り上げ、また詩人のウェルギリウスは二人の羊飼いに彼を捕らえさせています。

のちにシレノスは、シレノイ(シレノス族)という部族にまで発展しました。
その指導者はパッポシレノス(シレノス爺さん)と呼ばれ、ルネサンス期にはこぞってこの「シレノス爺さん」を描くことが流行しました。
ローマ神話では、シレノイはサテュロスと同じものとされています。



●亜種・別名など
セイレノス/シーレーノス/セイレーノス

ポセイドンPoseidon

●オリュンポス12神のひとり
ポセイドン(ポセイドーン)はギリシア神話の神で、オリュンポス12神のひとりにも数えられる有力な存在です。クロノスとレアの息子で、ゼウスにとっては兄に当たります。

海神であると同時に、地震、および馬をつかさどり、彼の子供には、何頭もの神馬が生まれています。

ローマ神話ではネプトゥヌス(英語のネプチューン)に当てられました。また、彼と彼の子トリトンは、海王星(ネプチューン)とその衛星にその名前が残っています。


●ポセイドン信仰
彼への信仰は、特にペロポネソス半島(ギリシア南部)のイオニア人の間で顕著でした。
彼の使いの動物は牡牛および馬であり、祭では黒牛が海に投げ込まれたと言います。また、馬の神らしく、競馬が奉納されました。

もとはギリシアの先住民族ペラスゴイ人の神だったと言われ、妃のメデューサ(支配する女)とともに、海に限らず広い領域をつかさどっていました。
彼の名も「主人となる」を意味する言葉から来ていると言われます。

それを証明するかのように、ロードス島やコリントスでは氏神としての扱いを受け、スパルタではゲネトリオス、すなわち「創造者」と呼ばれていました。
彼の象徴である三つ叉の矛も、本来は雷を指していたと考えられています。


●ポセイドンの伝承
ポセイドンは、他の兄弟たちと同じく、生まれた時に父クロノスによって呑み込まれました。吐き出された後はゼウスに味方し、父の一族(ティタン神族)と互角の勝負を繰り広げています。

勝利の凱歌をあげた後は、くじ引きによって支配する領域を決め、ゼウスは天地、ハーデスは冥界、そしてポセイドンは広い海を支配することになりました。

しかし、彼はこれには少々不満だったらしく、しばしば地上支配をもくろんで陰謀を繰り広げています。
一時はアテナやヘラと共謀してゼウスを王座から引きずり落とす寸前まで行きました。しかし、このもくろみは失敗に終わり、彼は罰として、傲慢な王ラオメドンに一年間仕えさせられ、彼のためにトロイアの城壁を築いています。

領有地争いも激しく、アテナと現在のアテネの領有を争って負けています。また、彼はヘラ、ゼウス、ディオニュソスとも領有地争いを起こしました。

ただ、海が彼の領地だということに異論を差し挟む者はなく、彼はエーゲ海の底に黄金の宮殿を建て、すべての海域を支配していました。


●ポセイドンの子供たち
ポセイドンはゼウスほどではありませんが浮気性の神で、正妻アムピトリテ以外にも、たくさんの女神、ニンフ(妖精)、人間と情を通じ、無数の子孫を残しています。

中でも有名なのは、正妻アムピトリテとの間に生まれた半人半魚の神トリトンでしょう。また、その妹ロデは、観光地として有名なロードス島にその名を残しています。

ゴルゴン三姉妹の末娘メデューサと情を通じた時は、その場所がアテナの神殿だったため彼女の怒りを買い、メデューサの髪を蛇に変えられています。



●亜種・別名など
マルパス

ペルセポネPersephone

●デメテルの娘
ペルセポネ(ペルセポネー)はデメテルの娘で、ハーデスの妃となった女神です。
ペルセポネイア、パルセパッタ、ペルセパッタとも呼ばれ、地上に住んでいたころは「コレー(娘)」と呼ばれていました。ローマ神話のプロセルピナに当たります。

彼女はある悲劇によって一躍有名になりました。
野原で花を摘んでいたところ、突然現れる黒い影。伯父のハーデスです。彼は、ペルセポネを捕らえると、そのまま戦車に乗せ、冥界へと連れ去ってしまいます。

やがて、母デメテルが異変に気づき、冥界へとやって来て「娘を返せ」と嘆願します。
しかし、ペルセポネは喉の渇きに耐えかねて、冥界のザクロの実をほんの少し、食べてしまったのです。冥界のものを一口でも口に入れれば、地上に帰ることはできません。

そこで、ゼウスが裁定に乗り出して、一年の3分の1は冥界にいる代わりに、3分の2は地上へ戻るようはからったということです。


●ペルセポネ信仰
ペルセポネはいわゆる「植物の種」の化身であり、その意味において、デメテル信仰と深く結びついています。
と言うより、二人はもともと同一の存在でした。

そこから、地下神(ハーデス)による植物神(デメテル)の支配という部分が分離され、ペルセポネというひとつの「地下神に支配される植物神」の人格が生まれていったのではないか、とされています。
実際、ペルセポネに上述以外のエピソードはありません。

ハーデスの浮気を責めたというのも、ハーデス伝承に乗っかった、いわばオマケのようなもので、ペルセポネという明確なキャラクターの性格付けにしてはいささか弱いとも言えます。

彼女はアルカディアの地やシチリア島で崇拝されましたが、その儀式はデメテルのものとほとんど一緒でした。
例外的に、古代ギリシアの秘教オルフェウス教において、ディオニュソスとともに主神の地位に置かれましたが、正統なギリシア神話から見ればほとんど異端のようなもので、現在に残るギリシア神話にはその設定は入っていません。

ちなみに、彼女の冥界妃としての持ち物はコウモリ、水仙、ザクロです。



●亜種・別名など
プロセルピナ/ペルセポネイア/ペルセパッサ/パルセパッタ/ペルセパッタ

パンPan

●有角の神
パン(パーン)はギリシア神話に登場する異形の神です。ローマ神話のファウヌスに当たります。

長い馬の尾を持ち、額に二本の山羊の角が生え、両脚は山羊の脚、尖ったあごの先に山羊髭を生やした姿で描かれます。このため、同じギリシア神話に登場するサテュルスと混同される場合もあります。

一般にヘルメスとドリュオプス王の娘との間の子と言われていますが、相手はペネロペという説もあります。

いずれにしても、母親はその奇怪な姿を見て逃げ出して怖がったと言います。
しかし、ヘルメスはこの子を野ウサギの皮へ大切に包んでオリュンポス山に連れて行き、彼を神々の仲間に迎え入れました。
特にその姿を、酒神ディオニュソスが面白がったので、「すべて、宇宙」を意味するパンPanという名前を与えたのだそうです。


●アルカディアの神
この神は主にアルカディア(現在のペロポネソス半島山岳地帯)で信仰されていた牧畜と牧人の神でした。
その名前もラテン語の「草を食む、放牧をする」を意味するパースケレpascereに由来すると言われます。

彼はアルカディアの山中に棲み、森の中をうろつき、しばしばひょいと現れてはニンフ(妖精)や人間たちを脅かし、面白がっていました。その故事から、ひどく驚くことを彼の名にちなんでパニックpanicと呼んだそうです。

彼の持ち物は法螺貝(ほらがい)、またはシュリンクスの笛です。後者については悲恋のエピソードがあり、ある時彼はシュリンクスというニンフに求愛をしたのですが、彼女はそれを拒み叫んだため、父神ラドンによって葦の姿に変えられ、パンはそれをしのんで彼女の葦で笛をつくり、いつまでもその笛を吹いたとも言われています。

法螺貝については、ゼウスたちがティタン神族と戦った時に吹き鳴らし、相手を文字通りパニックに陥れた、という逸話が残っています。


●パン崇拝
アルカディアからアテナイ近辺にはパン崇拝というものがあり、紀元前480年にマラトンの戦いでギリシアがペルシア軍を撃退できたのは、パンが法螺貝を吹いたから、という伝説があるそうです。その功績で、彼はギリシア全土で崇拝されるに至りました。

中世に入ると、彼は自然の象徴と考えられるようになりますが、その有角の姿から悪魔と同一視されることもありました。


●たくさんいる神のひとり
実は、パンはたくさんいる神族のひとりであり、ここで述べるパンはそのひとりに過ぎない、という話もあるようです。

その親についても諸説あり、ヘルメスの息子ではなくゼウスとヒュブリスの子だとする説、ゼウスとアエクスを両親とする説、同じくカリストーを母親とする説、クロノスとレアの息子だとする説、ガイアとウラノスの息子だとする説、あるいは牧者クラティスと牝山羊の子とする説、などがあるようです。

これは、パンがひとつの伝承から生まれたものではなく、たくさんある伝承の中から生まれ出でたことを示しています。
恐らく、ギリシア各地で素朴な牧畜の神として信仰され、そこからさまざまな伝承が生まれ、その一部がギリシア神話に組み込まれていったのではないでしょうか。



●亜種・別名など
パーン/アリスタイオス/プリアポス

原初の神々Original first pantheon

●はじめに混沌(カオス)ありき
ギリシア神話の始まりは、はっきりしていません。
別に「混沌(カオス)」がいたから、というわけではなく、語る者によってさまざまな原初の神々が提唱されており、その内容は微妙に違ってきているからです。

詩人のヘシオドスによれば、まず世界に「混沌(カオス)」ありき、でした。漠として暗かった、と言います。


●神々の誕生
そこに、大地母神「ガイア(大地)」が現れます。同時に、「タルタロス(冥界)」「ニュクス(夜)」「エレボス(暗黒)」「エロス(心を和らげる愛:アフロディテの息子のエロスとは別人)」が生まれました。

ニュクスからは「モロス(運命)」「モイラ(悪霊)」「死」が誕生し、「大洋」の向こうの黄金のリンゴを守るヘスペリスを生み落とします。
さらに「モーモス(歓喜)」と「オイズス(悲惨)」、運命を紡ぐ三姉妹モイライ(ラケシス、クロト、アトロポス)を生じ、この三姉妹は人間が生まれると、彼らの運命をつかさどるようになりました。
次いで、夜とともに活動する「ヒュプノス(眠り)」や「オネイロス(夢)」が生まれます。

ニュクスはまた、復讐の女神ネメシスと、争いの女神エリス、ほか「欺瞞」「不節制」「老年」を生み、エリスは「悲しみ」「忘却」「飢え」「闘争」「殺人」「戦闘」「虐殺」「喧嘩」「嘘」「ごまかし」「不正」「呪い」などを生みました。
さらに、エロスの仲介で、ニュクスとエレボスが結びつき、「アイテール(光)」と「ヘメラ(昼間)」が生まれます。


●ガイアとその子供たち
大地母神ガイアも活動を始めます。
まず最初に「ウラノス(天空)」を生み、自分の身体をそれで覆わせます。次に、高い山々と、「ポントス(海洋)」を生みます。

そして、自分の息子ウラノスを夫として、次々と神々を生んでいきます。
まず、オケアノス(大海)、コイオス、クレイオス、ヒュペリオン、イアペトス、クロノスの男性神、テイア、レア、テミス、ムネモシュネ、ポイベ、テテュス、ディオーネの女性神を生み出しました。

さらに、コットス(怒り)、プリアレオス(活力)、ギュエス(大きな手足を持つ者)のヘカトンケイル族、プロンテス(雷鳴)、ステロペス(電光)、アルゲス(閃光)のキュクロプス族などを生みます。

また、同時に、息子ポントスと交じり、誠実なネレウス、怪物タウマス、剛勇なポルキュス、愛らしい頬をしたケト、鋼の心臓を持つエウリュビアを生みます。
これらの兄弟姉妹は、併せて「ティタン神族」と呼ばれました。「ティタン」とはクレタ島の言葉で「王」を意味する言葉です。

ギリシアでは、ティタン神族は人間の先祖として讃えられました。技術や魔法の発明はこれらの神々の手によるものだとされています。


●ガイアの復讐
しかし、ヘカトンケイルやキュクロプス族は、巨人だった上に、ヘカトンケイルが100の腕と50箇の頭を持っており、キュクロプスは一つ眼だったため、ウラノスに恐れられました。
そして彼は、大地の奥深くのタルタロスに、巨大な息子たちを閉じ込めてしまったのです。

それにショックを受けたガイアは、初め嘆き、次に腹を立て、夫に対して復讐を企てます。
彼女は胸からきらめく綱を取り出し、鋭い鎌形刀(ハルペー)を作ります。そして、恐るべき計画を口にしました。

誰もが尻込みする中、手を挙げたのは末弟のクロノスでした。
夜になって、ウラノスが妻と過ごすため、ニュクス(夜)を従えてガイアの館にやってくると、潜んでいたクロノスは突然飛び出し、その性器を切り取ってしまいました。
そして、血まみれのものを海に投げ捨てます。

ウラノスの傷口からは黒い血がしたたり落ち、大地に染みこんで、「怒りの女神たち(エリニュス)」「巨人たち(ギガース)」「トネリコの妖精(ニンフ)メリアス」たちを生みます。
また、海に投げ込まれた性器は、崩れて白く泡立ち、やがて美と愛の女神アプロティテを生み出します。

ウラノスは去勢されたことにより、その力を失い、神々の王の座から引きずり下ろされます。代わって登極したのは、ガイアに唯一味方したクロノスでした。


●ティタン神族たち
ティタン神族たちによる「天地創造」は、クロノスが天下を取った後も続きました。

オケアノスとテテュスの間には3000の息子たち、すなわち「河川」と、3000の娘たち、すなわち「水の妖精(ニンフ)」が生まれ、次いでメティス(知恵)、テュケ(幸運)、ステュクス(地獄の河)が生まれました。

娘の一部は叔父たちに嫁ぎ、たとえばドリスとネレウスの間には50人の娘たち、すなわちネレイスたちが生まれ、エレクトラとタウマスの間にはイリス(虹)と美しい巻き毛のハルピュイアが誕生します。

女神ケトは兄弟神ポルキュスを夫とし、生まれた時から白髪のグライアイ(老婆)を生み、さらには大洋の彼方ヘスペリス族の国に棲んだゴルゴン三姉妹を生みます。

ヒュペリオンとテイアの間には「ヘリオス(太陽)」「セレネ(月)」「エオス(曙)」が生まれ、コイオスとポイペの間には、のちにアポロンとアルテミスの親となるレトと、その生む場所となったアステリアが生じます。

クレイオスとエウリュビアの間にはアストライオス、パラス、ペルセスが生まれ、イアペトスはオケアノスの娘クリュメネ(一説にはアシア)を妻として、プロメテウス、エピメテウス、アトラス、メノイティオスをもうけ、最後にクロノスとレアは、ヘスティア、デメテル、ヘラと、ハーデス、ポセイドン、ゼウスを子供として授かりました。


●クロノスの乱心
クロノスは、神託によって、「その子供に自分の地位を奪われるだろう」と言われていました。
そのため、生まれたばかりのヘスティアをはじめ、デメテル、ヘラ、ハーデス、ポセイドンをどんどん呑み込んでしまいました。

クロノスの妻レアは、悲しみ打ちひしがれ、祖父母であるウラノスとガイアに「何とかして欲しい」と懇願しました。

二人は、それを聞くと、「クレタ島のアンガイオンの洞窟で最後の子供を産むが良い。そして、クロノスには大きな石を産着に包んで呑み込ませるといい」と助言しました。
レアはそれに従って、アンガイオンの洞窟でゼウスを生み落とすと、ガイアにそれを預けました。そしてレアは、言われた通り、大きな石を産着でくるみ、クロノスにそれを差し出します。クロノスは嬉々としてそれを呑み込んでしまいました。

一方、ゼウスはと言うと、ガイアの手でイデ山(またはデクテ山)に連れてゆかれ、二人の妖精(ニンフ)、アドラステイアとクレタ王メリッセウスの娘イデに預けられます。
二人はかいがいしく彼を育て、黄金のゆりかごやまりを作ったり、あるいは赤ん坊の泣き声がクロノスの耳に入らないよう、剣で青銅の盾を打ち鳴らし、ゆりかごの周りで戦の舞を踊りました。


●ティタノマキア
こうして生み落とされた幼いゼウスは、その後山羊(妖精=ニンフという説もあり)のアマルテイアの手により育てられます。アマルテイアはその後功績をたたえられて山羊座になりました。

やがてゼウスは成人すると、父クロノスに復讐する計画を立て始めます。
そして、タルタロスに閉じ込められていたヘカトンケイル族とキュクロプス族を解放すると、次にオケアノスの娘メティスの作った薬を使って、クロノスから兄姉神たちをはき出させます。

こうして、クロノスらティタン神族と、のちにオリュンポス神族と呼ばれるゼウスたちの戦いが始まります。

この戦いは「ティタノマキア」と呼ばれました。
キュクロプス族はゼウスに雷霆(らいてい)と電光を贈り、ヘカトンケイル族はその豪腕をふるって、オリュンポス神族側に味方しました。この戦いは10年も続きましたが、威力に勝るゼウス側が最終的に勝利をものにし、ここに戦争は終結します。

そして、クロノスに代わってゼウスが天空および地上を支配することになり、ウラノス、クロノスに続く三代目の神々の王の座に就くことになります。


●ギガントマキア
ところが、ティタン族との戦いを終えたところで、ゼウスはまた戦いを挑まれました。
今度の敵はギガース、つまりウラノスの血が大地、すなわちガイアにしたたって生まれた巨人族です。この戦いを「ギガントマキア」と呼びます。

彼らは際立って巨大というだけでなく、脛(すね)は蛇に似て、足はとかげの頭からなっていました。彼らは大地から現れた時、きらめく甲冑を着け、巨大な槍を握っていました。

彼らは山々を持ち上げてはぶん投げるなど、大変な怪力を発揮してオリュンポス神族を苦しめます。しかし、「人間の協力によって勝てるであろう」という神託の通り、人間の勇者、つまりヘラクレスの協力によって、趨勢はオリュンポス神族の方に動きます。

ヘラクレスはまず、大地と接している間は不死身と言われたアルキュオネウスを、地面から持ち上げることで打ち倒します。
そして、アルキュオネウスの兄弟であるポルピュリオンは、ゼウスによってヘラへの情欲を吹き込まれ、彼女を追いかけているところへ、ヘラクレスによって矢を射かけられて討ち果たされました。

パラスやエンケラドスはアテナに挑戦しようとしましたが果たせず、次々と討ち果たされ、パラスは皮を剥ぎ取られて彼女の盾(アイギス)を飾り、エンケラドスはシチリア島の下に埋められてしまいました。
そして、今でも、この巨人が寝返りをうつ時、シチリア島は大きく揺れるのだそうです。


●最後の戦い
ガイアはそれでも、自分の子供たちの敗北が受け入れられず、今度はタルタロスと交わって生んだ怪物テュポン(テュポーエウス)をけしかけます。

その怪物は、「休みなく働く手と、止まることを知らない足」を持つ恐るべき怪獣でした。肩からは100の恐ろしい竜の頭が生え、それぞれに黒い下が突きだし、目は焔(ほのお)を吹いていました。
腿(もも)からは無数の毒蛇が這い出し、身体は羽毛で覆われ、厚い剛毛が頭や頬に生えていました。背丈はあらゆる山よりも高かったと言います。

神々はその姿を見て恐れおののき、エジプトまで逃げてしまいました。ただひとり、ゼウスだけがこの怪物の前に立ちはだかりますが、彼は蛇にがんじがらめに締め付けられ、足の腱を切られて、キリキア(小アジアの一地方)にある怪物の巣の中に閉じ込められます。

しかし、ゼウスの子で伝令の神であるヘルメスの活躍によって助け出され、戦いは再開されます。
結局、雷霆(らいてい)を持っていたゼウスがテュポンを圧倒し、怪物はシチリア島に逃れますが、ゼウスはその隙を逃さずエトナ火山で押しつぶしてしまいました。

こうして、三度の戦いに勝ったゼウスは、神々の長としての地位を不動のものにします。

2014年7月 4日 (金)

ヘスティアHestia

●炉の女神
ヘスティア(ヘスティアー)はギリシア神話における炉の女神です。ローマ神話のウェスタに当たり、その意味するところはどちらも「炉」そのものです。ギリシア12神のひとりでもあります。

現在でこそ、あまりメジャーな印象を持つ女神ではありませんが、古代ギリシアにおいては、炉は家族の集う場所であると同時に、大切な火を守るところであり、また犠牲を捧げる部分であったため、どの家々、都市にも彼女の祭壇が設けられました。
新市が建設された時には、その祭壇から新たな火を移す作業が行われたと言います。


●呑気な女神
彼女はきわめて古い歴史を持つ女神のため、そして、あまりに普遍的な存在なため、特定の伝承はほとんど残っていません。
辛うじてクロノスとレアの長女であり、ゼウスにとっては姉に当たり、家格で言えば最上位に属する……という設定だけが残されています。

犠牲を捧げる時には、必ず一口めは彼女に与えられましたし、また、神酒を注がれる時も、最初と最後は必ずヘスティアのものでした。
哲学者プラトンの語るところによれば、常にかつかつしていた他の神に較べ、「彼女ひとりだけがのんびりしていた」そうです。

やることと言えば、天上の館の炉をじっと見守っているだけ。他の神のように、子孫を残したり、あるいは信者を求めて行動したりということはほとんどなかったようです。人びとが勝手に崇めてくれるので、その必要もなかったのでしょう。

そんな彼女に、ある日ロマンスが訪れます。アポロンとポセイドンから、それぞれ求婚されたのです。
しかし、彼女はにべもなくその願いをはねつけます。そして、永遠に処女でいることをゼウスに願ったのです。果たして、その願いは聞き届けられ、彼女は結婚の幸せと引き替えに、天上の住処の中心を占め、何でも最上位に位置することを許されたのです。

ちなみに、家格には頓着せず、甥のディオニュソスが12神の中に入れなかったことを嘆くと、その座をあっさり明け渡したとも言われています。



●亜種・別名など
ヘスティアー/ウェスタ

ヘルメスHermes

●ギリシア神話の伝令神
ヘルメス(ヘルメース)はギリシア神話の神で、オリュンポス12神のひとりにも数えられる有力な神です。
神々の伝令役、使者を務めるほか、牧畜、商業、泥棒、旅人、賭博などを守護します。ローマ神話では「メルクリウス(英語のマーキュリー)」に当たり、水星にその名前がつけられています。
彼はゼウスと巨人神アトラスの娘マイアの間の子供であり、アルカディア(ギリシア中央部)のキュレネ山の洞穴で生まれました。


●ペラスゴイ人の神
彼はギリシアの先住民族ペラスゴイ人の神であり、ドーリア人の侵入に従ってギリシア全土に広まったと言われています。
家々には彼の男根をモチーフにした像(ヘルマイ)を置くことがはやり、また、この像は危険な道中を守護する存在として、分かれ道や町の十字路に多く立てられました。ヘルメスが死者の霊を冥界へ導く役割を担ったのも、こうした信仰が元になっていると言われています。

彼はまた、神々の使者として飛び回る難しい役割を果たしました。ゼウスの御心を人間が知ることができるのも、ヘルメスの存在あってこそです。
同時に、その疲れを知らぬ姿は、多くの競技者の信仰を集めました。オリンピアの競技場には彼の像が立っており、拳闘と競走は彼の考案だと言われています。

ヘルメスの姿は、しばしば丸い翼のついた旅行帽ペタソスをかぶり、同じく翼の生えたサンダルを履き、手には蛇の巻き付いた翼のある杖(カドゥケウス、もしくはケリュケイオン)を持った若者の姿で表されます。


●早熟な神
彼はオリュンポス12神の中で最も早熟な神として知られます。
早朝にマイアから生み落とされた彼は、昼にはもう揺りかごから這いだし、ピエリアで飼われているアポロンの牝牛の大群へと近づきます。

そして何を思ったか、その中から50頭を選び出し、盗んだのです。
牝牛たちには足跡でばれないように後ずさりさせて、自分は巨大なサンダルを履いて、ピュロスの地まで移動させ、しかるのちに二頭を選び出して焼き、残りは洞穴の中に隠しました。
そして、何食わぬ顔でキュレネの洞穴に帰り、再び揺りかごの中に戻ったのです。

アポロンは戻ってみると牝牛の数の足りないのに気づき、占いでヘルメスのしわざと断定しました。
もちろんヘルメスは何知らぬ顔です。アポロンは赤ん坊の彼をオリュンポスの法廷に連れて行き、神々はヘルメスのずる賢いことに笑いました。笑いつつ、ゼウスは牛を返すようにと裁定したのです。

ただ、彼らの和解は意外なところからなりました。
ヘルメスは、帰る前に洞穴の中で草をはんでいた亀を捕まえ、その甲羅を剥ぎ、犠牲にした牛の腸を使って竪琴を作っていたのです。
アポロンはそれを見るとどうしても欲しくなり、結局、カドゥケウスの杖およびすべての牛と引き替えに、それを手に入れました。

かくして、両者はこの上ない親友となり、アポロンは音楽の神、ヘルメスは畜産の神として崇められることになったということです。


●創意工夫の神
彼は創意工夫が大好きで、進んで他人の役に立とうとしたので、誰からも好かれました。私生児にもかかわらず、ヘラにも好かれたと言いますから、その人気の度合いが分かります。

特にゼウスたちの行動の陰には、必ずと言っていいほどヘルメスの存在があり、時に敵(テュポン)から助け出し、時に浮気相手を案内し、時に従兄弟たちを牢獄から解放しました。

ヘルメスが冥界へ死者の霊を連れてゆく役割も担っていることはさきに述べましたが、死者の霊を逆に地上へ戻す役割も担っていたことはあまり知られていません。

ギリシア神話最大の詩人オルフェウスが、妻エウリュディケを冥界から連れ戻しに行った時、彼はその旅に随行しています。


●ヘルメスの恋愛
ヘルメスは他の神々と同様に、さまざまな恋愛沙汰を起こしています。主要な女神だけでも、ペルセポネ、ヘカテ、アプロディテと関係を持っていたと言いますし、ニンフ(妖精)の数も含めたらどれくらいの数になるか想像もつきません。
人間の娘とも関係を持ち、一説によれば、「パニック」の語源ともなった農耕神パンの父は、このヘルメスだと言われています。



●亜種・別名など
ヘルメース/メルクリウス/マーキュリー