キリスト教・ユダヤ教

2014年7月 6日 (日)

ウリエルUriel

●四大天使のひとり
ミカエル、ガブリエルほどではありませんが、ウリエルも結構知名度の高い存在です。
熾天使(セラフィム、上級第一位の天使)と智天使(ケルビム、上級第二位の天使)を兼任する希有な存在で、太陽の統治者、神の炎、エデンの園の門番、そしてタルタロス(冥府)の統括者など、さまざまな美名で呼ばれ、その実力は天界の中でも群を抜いています。

ミカエルやガブリエル、ラファエルらとともに四大天使のひとりとして数えられることもあるようです。


●無慈悲な天使
一般に、天使は人間に対し慈悲深い存在と考えられがちです。人間側に立ち、人間に救いを与える連中が多いゆえのことなのでしょうが、ウリエルはそうした慈悲深さとは対極にいます。

「神の炎」を意味するその名前からも分かるように、彼はかなり激しい性格をしており、悪人の存在を絶対に許しません。

閻魔大王さながらに、地獄へ堕ちた悪人たちへ厳しい罰を与えて回り、「最後の審判」の日には冥府の門のカンヌキを粉砕して投げつけることさえします。
そして、偶像崇拝者や異教徒など、救いようのない悪人を地獄へたたき落とし、永遠の苦しみへと閉じこめます。

無慈悲と言えばあまりに無慈悲に過ぎる存在ですが、ガブリエルやラファエルなど、人間にやや甘い天使もいるので、バランスを考えてこうした天使の存在が考えられたのでありましょう。
もちろん、ただ厳しいだけではなく、生前に善行を働いた人間にはこの上ない慈悲をもって接し、魂を吹き込んで生き返らせたりもします。


●人間出身の天使
天使の中には、メタトロン(預言者エノク)のように人間から天使に変容する者がいますが、ウリエルもそのひとりで、彼はアブラハムの子孫でイスラエル諸族の祖先となったヤコブが天使になったものだと考えられています。なぜなら、ウリエル自身が次のように語っているからです。

「私は人間のあいだに住みかをつくるために地上へ降りた。私は名をヤコブと言う」(『ヨセフの祈り』)

もっとも、元が人間だからと言って人間に甘いわけではないのは、さきに触れた通り。
預言者モーセは彼の子孫に当たりますが、割礼(男女の性器の皮を切り取るユダヤの儀礼)を彼の子ゲルショムに対して行わなかったことを怒り、手ひどく批判しています。


●知識の伝道師
彼の一風変わった役割として、「秘術の伝授」というものがあります。
読んで字の通り、天界などに秘蔵されていた知識を人間に伝える役割です。例えば、錬金術やカバラ(ユダヤ神秘術)などは、このウリエルが地上にもたらしたものだと言われています。

また、彼は天界を訪れたエノクに、暦法や天文に関する知識や、天界の軍制に関することなどを30夜に渡って語り続け、さらに「天の板」と呼ばれる記録板まで開陳しています。

「天の板」とは、すべて読めば「人間と地上に住む全ての肉の子の行為を、未来永劫まで読み取」ることのできるもので、言わば人間の記録帳、オカルトで言うところの「アカシック・レコード」に当たります。

一説には、ウリエルではなくヴレヴェイルという別の天使が行ったという説もありますが、このような伝承が残ること自体、ウリエルが知識と深い結びつきを持つ存在であることを示しています。

セラフィムSeraphim

●上級第一位の天使
セラフィムは、上級第一位から下級第三位まで九階級に分かれている天使の中でトップ、すなわち上級第一位に位置する天使たちです。

キリスト教の教義では「熾天使(してんし)」の名が与えられ、ミカエル、ガブリエルらの、いわゆる「大天使」と呼ばれるものはここに入ります(ただし、大天使を下級第二位に位置づける説も有力です)。

セラフィムの名前は、「輝くもの」もしくは「燃えるもの」を意味するヘブライ語から来ており、その名の通り、絵画などでは炎のような赤い姿で描かれます。
彼らは神と直接会話ができる数少ない存在であり、純粋な「光」と「思考」の存在として愛の炎と共鳴します。

彼らの指揮官は諸説あってはっきりしていませんが、ウリエル、メタトロン、堕天する前のルシファー、ケムエル、ナタニエル、ガブリエルなどの名が挙がっています。

一説には、古代バビロニア(現在のトルコ)にルーツを持つと言われ、雷の閃光の擬人化ではないかと考える向きもあるようです。


●セラフィムの姿
彼らは「イザヤ書(6.1~2)」の記述によれば、6枚の羽を持つと言われ、そのうち2枚は顔を覆い、2枚は足を隠し、残り2枚で空を飛ぶと言われています。

手にはサンクトゥス、すなわち「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな」と刻まれた歌詞を刻んだ「炎の短剣(聖扇)」もしくは旗を持っています。

しばしば、ケルビム(上級第二位の天使)と同じく車輪に乗った姿で描かれることもあり、この車輪も天使の一種、オファニム(座天使、上級第三位の天使、トロニとも言う)なのだそうです。


●美術・伝承に見るセラフィム
セラフィムは神の玉座を直接守護するものとして、教会の内陣周辺の天井へ、ケルビムとともにしばしば描かれました。
ロマネスク美術(11~12世紀)以降は、特に教会入り口の外壁面を飾る装飾群の中にその姿を見ることができます。羽の先に孔雀のような目が描かれることもありました。

彼らは聖人伝説にも頻繁に登場し、マリアたちへの受胎告知やイスラムの宗祖ムハンマドのエピソード、「聖処女」ジャンヌ・ダルクへの呼びかけや、聖フランチェスコの聖痕を授かるシーンなどにその姿を認めることができます。



●亜種・別名など
セラピム

ラジエルRasiel

●秘密の天使
ラジエルは座天使(上級第三位)の天使の長であり、アクラシエル、ガリツル、ラツィエル、レジエル、サラクエル、スリエルなどさまざまな異名を持ちます。
「アクラシエル」という別名が天使ラグエルと同じため、このふたりは同一の存在ではないかと考える向きもありますが、キャラクター的にはラジエルは記録係、ラグエルは内部監視担当と大きく違っており、別個の存在と考えるのが妥当でしょう。

ラジエルの名前の由来は「神の神秘」もしくは「神秘の天使」を意味する言葉から来ており、その名の通り、「秘密」を取り扱います。

地上と天上のあらゆる秘密を知っており、さらに、それを一冊の本にまとめました。本と言ってもサファイアの石版ですが、この書物は彼の名を取って「セファー・ラジエルSefer Rasiel(天使ラジエルの書)」と呼ばれました。

その内容は72に及ぶ神の名、670に及ぶ密教的な謎、1500項目に及ぶ秘訣となる知恵であり、世界中のありとあらゆる秘密、たとえば宇宙の秘密や魔術・奇跡の起こし方などが書いてあると言います。
ただ、秘密の文字で記されているため、人間がそのまま読んでも理解することはできません。


●天使ラジエルの書
伝説によれば、ラジエルはこの書を人間に与えたいと思い、まず最初に土から生まれた人間アダムにそれを与えたと言います。アダムは楽園追放ののち、この本を失いますが、やがてラファエルの手によってこの本は返されます。

アダムは息子セトにこの書を残し、セトはアブラハムに伝えました。アブラハムはこの書の一部をエジプトに伝えたので、エジプトは魔術や神秘に強いのだそうです。

別の伝承によれば、この書はいったん、自分たちに与えられなかったことを恨んだ天使によって盗まれ、海に捨てられます。
そこで神は「原始の海の王子」の異名を取るラハブに命じてそれを引き上げさせました。やがてこの書は「エノク書」の名で有名な預言者エノクに渡り、「エノク書」を書く時に利用されたと言います。

「ノアの方舟」のノアにもこの書が渡ったことがあり、方舟の技術はこの書によるところが大きいと考えられています。

時代が下がると、巨人ゴリアテを倒した王ダヴィデの手に渡り、次いでその息子ソロモンが所有するに至ります。
ソロモンは72の大悪魔を使役するなど、さまざまな魔術を使ったことで知られますが、その知識の源は「ラジエルの書」の知恵によるものだと言われています。


●実在する「天使ラジエルの書」
実は、「天使ラジエルの書」と称されるものは実在します。
むろん、天使が書いたものではなく、実在の人間が天使の書に擬して書いたものですが、13世紀にはグリモア(魔術書)のひとつ「モーセの剣」でその名が上げられています。

この本には不思議な効能があり、持っているだけで火災の予防になると信じられました。
19世紀には25の版を重ねるに至り、2000年には1701年にアムステルダムで書かれたヘブライ語版をもとに、英語版が発行されました。



●亜種・別名など
アクラシエル/ガリツル/ラシエル/ラツィエル/レジエル/サラクエル/スリエル

ラファエルRaphael

●治癒の天使
ミカエル、ガブリエルの名前はつとに有名ですが、ラファエルも彼らに劣らぬ高い知名度を誇ります。

もともとはカルデア(トルコ南部)の神もしくは天使であり、ラビエルLabbielと称しておりましたが、その後「神の癒したもう者」を意味するラファエルに名前を変えています。
天使の第一位「熾天使(セラフィム)」にある数少ない存在で(他の位だという説もあり)、ミカエル、ガブリエル、ウリエルらとともに「天界の四大天使」のひとりにも数えられます。

彼は人間の守護者であり、あらゆる癒しを与えてくれます。
旧約聖書で年老いたアブラハムの割礼(性器の皮を切る儀礼)に際して、その痛みを和らげ、また神と戦って腿を負傷したヤコブ(アブラハムの孫)を治療したのも、このラファエルです。
ゆえに、彼をして「医者」「外科医」「「人間の霊魂を見守る者」「癒しを行う輝ける者」と呼びます。


●聖書に見るラファエル
このラファエルが、初めて文献に登場したのは、旧約聖書外典の「トビト書」においてだと言われます。彼はアザリアという青年の姿に扮し、預言者トビトの息子トビアとともに旅をします。

その途上、彼らはサラというひとりの女性に出会います。彼女は悪魔アスモデウス(アスモダイ)に呪われた存在で、過去に七度結婚しましたが、いずれも初夜のうちに夫を失ったので、今では誰もがこの女性を避けるようになったのです。

事態を諒解したアザリア(ラファエル)は、以前にトビアに命じて捕まえさせていた魚を荷物の中から取り出します。そして、その心臓と肝臓、胆嚢を火にくべはじめました。
実は、悪魔はこれらの臓器が火に燻される臭いが大嫌いなのです。

すぐにアスモデウスはサラの身体から飛び出て、エジプトの方に逃れようとしますが、ラファエルはすぐにその後を追いかけて縛り上げました。
こうして悪魔の呪いから逃れることができたサラは、その後アザリア(ラファエル)の勧めによってトビアとめあわされ、二人は倖せな結婚生活を送ったと言うことです。


●ラファエルの役割
ラファエルはその知名度に相応しく、さまざまな役割を持っています。
太陽の補佐役を務め、中級第二位の天使である力天使(ヴァーチュズ)の長を兼任し、南方や西方をつかさどり、第2天と夜風を監督して、「エデンの園」に生えている「生命の樹」を守護します。

「生命の樹」とは、その名の通り生命の象徴となる聖樹のことで、後世にはカバラ学者(ユダヤの神秘奥義の研究者)やフリーメーソンの思想の拠りどころにもなったものです。また、科学や知識、理性などをつかさどります。

しかし、何と言っても、彼の最大の役割は、その名前(ラファエル=神の癒したもう者)からも分かるように、苦しむ人々に救いの手を差し伸べ、癒しを与えることです。とりわけ、預言者トビトの失明を治したことから、眼病の治療に強いと考えられています。

ちなみに、神々の伝令者として世界中を飛び回ることが多いのも、彼の特徴です。
ソロモンが神殿を建てるために神に祈ったところ、神はあらゆる悪魔を支配することのできる指輪を彼に与えましたが、ラファエルはそれを天国から運ぶ役割を与えられました。


●ラファエルの姿
ラファエルはミカエルやガブリエルらとともに、さまざまな絵画やレリーフのモチーフになってきました。
もっとも、そこに描かれる姿と言えば、美しく立派ではあるものの、ミカエルやガブリエルらと較べてそんなに際立った特徴のない普通の青年の姿です。
「トビト書」以外に、これといった派手な活躍を見せることがないからでしょうか。ミルトンの「失楽園」にも「愛想の良い大天使」と書かれていて、後ろの方でニコニコしているような好青年のイメージで描かれます。

彼の象徴は巡礼者の杖と魚です。魚の代わりにその内臓を入れる小箱の場合もあります。むろん、これは「トビト書」にある青年トビアとのエピソードに基づくものです。

彼が生物の前に現れるときは、3枚(6枚説もあり)の大きな羽を持つ姿を取ります。その大きな羽を全身にまとわりつかせて、神々しいまでの威風を漂わせます。

ラグエルRaguel

●天使を監視する天使
ラグエルはラグヘル、ラスイル、ルファエル、スルヤンなどさまざまな名前を持つ天使です。
その名は「神の友」を意味する言葉から来ていると言われ、旧約聖書偽典のエノク書によれば、エノクを天国に運んだのがこの天使だと言われます(別の天使という説もあり)。エノクはこの天使のことを「大地の天使」と呼びました。

彼はミカエル、ラファエル、スリエルらとともに、「この世と光明のために復讐をする」聖なる天使のひとりだと言われています。

「復讐」とはかなり物騒な表現ですが、この言葉は他の天使が堕落しないように同僚たちを「疑う」役割を与えられていると解釈することもでき、つまりは内部監視役、会社で言えばコンプライアンス(内部統制)の任に当たる天使と言うことができるでしょう。

また、ラファエルの統治する第2の天国の守護天使としても活躍します。


●追放された天使
この天使は一度、ローマ教皇によって「追放」されたことがあります。西暦745年、ローマ法王庁の教会会議において、教皇ザカリアスにより告発されたのです。

どのような理由で告発されたのかはよく分かっておりませんが、一説にはオリベルとトビエルという堕天使にそそのかされて、聖者のふりをしたからだとも言われています。
ラグエル以外にも、テュブエル、イニアス、ザバオク、シミエルといった天使が堕天使として「追放」されました。
何人かの司祭がこの天使を尊ぶよう説得しましたが、それらの司祭も「異端者」に連なる者として法王庁から破門されました。

恐らく、天使信仰が加熱する中で、特に尊敬を集めていたラグエルが、手っ取り早いスケープゴートとして利用されたのではないかと考えられています。



●亜種・別名など
ラグヘル/ラスイル/ルファエル/スルヤン/アクラシエル

ミカエルMichael

●天使の長
ミカエルはキリスト教徒、ユダヤ教徒の双方から信仰されている、有力な天使です。あらゆる天使の中でも最高の位置を占め、神の右側に座ることの許されるただひとりの存在です。「天の副王」「御前の君主」と呼ばれることもあるようです。

天使軍の総司令であると同時に、熾天使(セラフィム、上級第一位の天使)の一角を占め、そのリーダーを務めます。同じ熾天使のガブリエル、ラファエル、ウリエルらとともに「四大天使」の名で呼ばれることもあります。

あらゆる天使を統轄する大天使長の位にあり、力天使(ヴァーチュズ、中級第二位の天使)の支配者を務め、懺悔・正義・慈悲・清め・性別・炎・東方・慎重さなど、様々な属性をつかさどります。
ヨーロッパ全域の守護天使としても活躍し、かつてヨーロッパがイスラム教徒の攻撃に晒された時は、聖ミカエルの姿を染め抜いた旗が汎ヨーロッパ軍のシンボルとして、各地で翻ったそうです。


●天使の出世頭
ミカエルという名前は、ヘブライ語で「誰が神の如き?(彼ほど神に近い者はいない)」を意味します。
この名前からも分かるように、彼はあらゆる天使の中で最も神に近い実力を持ち、その尊敬を集める存在です。

彼に匹敵する存在をあえて探すとしたら、彼の双子の兄で、天使筆頭だったこともあるルシファーの名前が挙げられましょう。
ミカエルに負けぬ風格をそなえ、神でさえもその実力を認める天界随一の天使でありましたが、性格的にやや難があり、とあることが原因で彼は天界に叛旗を翻します。

双子の兄が叛逆したわけですから、弟であるミカエルも連座してしかるべきだったのですけれども、神はその罪を問うどころか、逆にルシファーの離脱によって空席となっていた天使軍総司令に、この弟を据えるという仰天人事を行います。

ミカエルはその期待によく応えました。自らも剣を取って戦うなどよく奮戦し、兄の軍を各地で撃破して、天界側を勝利に導きます。
ルシファーは敗走し、地上へと叩き落され悪魔の王となりました。ミカエルの方はと言えば、勝利の功績により、兄の持っていた地位をすべて受け継ぐことが許され、ここに大天使長としてのミカエルが誕生します。


●ミカエルの姿
彼は絵画やステンドグラスに最もよく描かれた天使のひとりです。
単体の作品としての印象は薄くとも、神のそばに侍ったり、死者や聖者を天空から見守ったりするその姿は、誰もがきっと目にしているハズです。

彼は多くの場合、黄金の剣と光り輝く鎧を装備した姿で登場します。
この黄金の剣は彼のために「神の武器庫」からわざわざ出されたもので、どんな堅い剣でも一刀のもとに斬り落とすことができます。
鞘から抜かれた剣が彼の象徴として描かれることもあります。

羽の数については、彼の場合2枚の大きな羽で描かれることが多いのですが、同格のルシファーらが6枚、もしくは12枚以上の羽を持つことから、実際には6枚以上の羽を持つと考えるのが妥当です。

武装した姿、敵を容赦なく斬り捨てるその姿は、何か威圧感めいたものを感じさせますが、伝承などを見ると意外にも優しい性格をしていて、旧約聖書外典「エノク書」でも「めったに怒らない聖ミカエル」と書かれています。
もっとも、アダムたちに楽園追放を言い渡したり、兄を一刀のもとに斬り下ろしたりするような冷酷な面もあるのも確かなわけで、その辺りから考える限り、「優しい」と言うよりはむしろ「生真面目」なだけなのかも知れません。


●ミカエル信仰
天使は今もヨーロッパ人にとってかけがえのない存在です。私たちがことあるごとに八百万の神々へ祈りを捧げることがあるように、ヨーロッパ人は天使に祈りを捧げます。
中でもとりわけ、ミカエルは多くの人々の尊敬を集めています。毎年9月29日ごろの「聖ミカエルの日」には、各地でミカエルにちなんだ大祭が行われます。

彼の威光にあやかってその名前をつける人も多く、英語のマイケルMichael、フランス語のミシェルMichelle、ドイツ語のミヒャエル(ミハエル)Michael、ロシア語のミハイルMikhailなどは、すべてこの天使の名前にちなみます。彫刻で有名なミケランジェロMichelangeloの名前も、「天使ミカエル」を意味する言葉から来ています。

ミカエルは戦争と正義をつかさどるところから、外敵や危難、飢饉、疫病、災害などに襲われたときには、彼の名を呼ぶのが効果的です。1950年には当時の法王ピウス12世によって「警察官の守護者」に認定されました。

彼に捧げられた寺院も厖大な数にのぼり、例えばイタリア南東部、アドリア海に面したモンテサンタンジェロ(聖天使の山)修道院は、5世紀ごろにミカエルが降臨したということで、中世には南イタリアにおける一大巡礼地となりました。

同じくミカエルに捧げられたものとしては、フランスのノルマンディー地方にあるモン・サン・ミシェルMont-Saint-Michel(聖ミシェルの山)やイギリスのコーンウォール地方にあるセント・マイケルズ・マウント(聖マイケルの山)などが有名です。
これらの修道院は寺院としての役割のほかに、外敵が攻め入ったときの戦略拠点としても使われました。



●亜種・別名など
ミハイール

2014年7月 5日 (土)

メタトロンMetatron

●天使たちの王
メタトロンはメトラトンMetratton、ミトロンMittronなどとも称される、ユダヤ教における天使たちの長です。

その地位は「天使たちのリーダー」であるミカエルやガブリエルらよりも高く、神そのものの役割を代行する権限を有します。企業で言えば、天使たちのリーダーであるミカエルが会社の経営者とすれば、メタトロンはオーナー(神)の意を受けて動く全権委任弁護士といったところでしょうか。

彼は「神の御前の君主」「7つの天の長官」「契約の天使」「奉仕天使の長」「神の顔」「天の書記」「不世出の偉大なる者」など、さまざまな呼び名を持ち、ユダヤ教典の「タルムード」によれば72の呼称を持っているとされています。

輝く顔と光る身体、36万5000個の目と36対の翼の持ち主で、「世界の広さに等しい」身長を持つ威丈夫です。
その威光は神自身を除けば誰よりも強く、天使の幽閉所である第五天を管轄し、胎児の性別を決めるという役割を有します。サンダルフォンという双子の弟もいるようです。

メタトロンという名前の由来は、「玉座に侍る者」を意味するメタトロニオスMetathroiusに由来という説と、あるいは「記録する人」「案内人」を意味するラテン語メタトールmetatorに由来する説があるようです。


●契約の天使
彼は人間と神の仲立ちをする存在であり、両者間の「契約」をつかさどります。
ここで言う契約とは、人間と神の関係についての取り交わしのことです。実際に契約を行うのは人間と神ですが、メタトロンはその間に立ち、契約内容の策定と契約書の作成を担当します。

例えば、シナイ山で取り交わされた、預言者モーセを仲介者とする契約では、イスラエル人が神を崇める代わりに、神もイスラエル人を守護する約束が取り交わされましたが、メタトロンはその成功に尽力しました。
神が地上に1000年間アダムを貸与するよう依頼した際にも、メタトロンはその書類作成と契約のすべてを取り仕切り、天使ミカエルとガブリエルが連署しています。この書類は今も天界のメタトロンの部屋に保管されているそうです。

こうして作られた「契約」は、人間たちの重要な行動指針になっていきました。それをまとめた書物が、私たちがふだん目にしている「新約聖書」「旧約聖書」などと呼ばれるものです。

ここで言う「新約」「旧約」の「約」とは神と人間の約束ということ、「新」「旧」はキリスト教徒から見て新しい時代につくられたか、古い時代に作られたかという意味です。
ユダヤ教は旧約聖書のみを「聖書」と位置づけているため、こうした区別はありません。


●モーセのボディガード
メタトロンは有名な預言者モーセの守護者としても活躍し、彼の活動を助けています。

モーセと言えば、エジプト王の迫害を避けて信徒とともにシナイ半島まで逃れた人物ですが、数々の奇跡を起こした(起こさせた)ことでも知られ、例えば、エジプト軍に追いつかれそうになったときに、海を二つに割って信徒を通した、映画「十戒」でも有名なあのシーン。一般には神の力を借りてモーセが起こしたと考えられておりますが、実はメタトロンがその演出に関わっていたという説があります。

この天使は、その後も執拗に追撃を続けてきたエジプト軍に「炎の柱」や「真っ黒な雲」を見せて足止めしており、モーセがシナイ山まで到着するのを助けています。

さらに、モーセたちは山の頂上で「十戒(十誡)」を授けられるわけですが、この十戒にもメタトロンは深く関わっています。
「あなたはわたしのほかに,なにものをも神としてはならない(第一誡)」などの有名な条文は、この天使の手によるものだとされています。


●預言者エノクとメタトロン
さて、このメタトロンはどのようにして生まれたのか……については、面白い話があります。実は、彼はもともと人間であり、天界に辿り着いたため天使へと変容させられた……と言うのです。

旧約聖書偽典に「エノク書」と言うものがあります。預言者エノクの言行の記録ですが、その中において、彼は旅の終わりに神の前まで引き立てられます。すると、見る間に彼の姿は天使とまったく変わらぬものとなったと言うのです。

メタトロンとなったエノクはそのままミカエルやラファエルら大天使の上司に就任し、同時に執筆魔だった人間時代の特性を生かして、あらゆる記録を統括する権限を得るようになりました。
そこから、メタトロンのことを「天の書記」あるいは「真実の記録者」と呼ぶようになったということです。


●キリスト教とメタトロン
さて、意外なことに、キリスト教はこのメタトロンの存在を天使としては認めておりません。
それどころか、先鋭的なことで知られているグノーシス派の間では、悪魔認定すらされているほどです。中世の絵画を見ると、メタトロンは悪魔のような二本の角を生やした姿で描かれます。

彼らが、ミカエル、ガブリエル以上に重要な天使であるにもかかわらず、キリスト教にほとんど無視されているのは、何かと敵対することの多かったユダヤ教の重要な天使だったという以上に、むしろ彼が異教の雰囲気を色濃く残した存在だったからという理由の方が大きかったからではないかと思われます。

例えば、メタトロンとゾロアスター教のミスラ神は、どちらも非常に背が高かったり、あるいは眠らず世界を監視し続けていたりするなど、かなり共通した部分を持っています。



●亜種・別名など
メトラトン/ミトロン/メタラオン

2014年7月 3日 (木)

ガブリエルGabriel

●熾天使(セラフィム)の一角
ガブリエルはあらゆる天使の中でも、とりわけ抜群の知名度を誇る存在です。キリスト教はあんまり知らなくても、ミカエルとガブリエルの名前だけは知っている、という人は多いのではないでしょうか。

その名前は「神は我が力」を意味するヘブライ語から来ると言われ、神の左側に座することを許された唯一の存在です。
天使の最高位である「熾天使(セラフィム)」のひとりであり、ミカエル、ラファエル、ウリエルらと併せて「四大天使」という呼ぶ場合もあります。

「エデンの園」を統括し、上級第二位の「智天使(ケルビム)」をその支配下に置いています。
水、北方、復活、慈悲、死、復讐、黙示、真理などの属性をつかさどり、「神の子」イエス・キリストが生誕する際には、聖母マリアにその妊娠を告げるという「受胎告知」を行う栄誉を担いました。

ちなみにガブリエルはその半年前にも、イエスの最も良き協力者となる使徒ヨハネの「受胎告知」も行っています。このようなエピソードから、しばしばこの天使は「伝令」と「通信」の守護者と見なされています。


●イスラムとガブリエル
イスラム社会において、ガブリエル(アラビア語で「ジブリール」もしくは「ジブリル」)はミカエル以上に人気のある天使です。
ミカエルがヨーロッパの守護をつかさどるのに対し、ガブリエルはアラブを含む東洋をつかさどるから……というのもありますが、預言者ムハンマド(モハメッド)に啓示とコーラン(聖典)を与えたのがガブリエルであったからです。

彼が預言を受けたときの様子は次のように伝えられています。

25歳で金持ちの未亡人ハディージャと結婚し、順風満帆の日々を送っていたこの商人は、40歳ごろから徐々に不安にさいなまれるようになります。やがて信仰や瞑想に対する渇望にとらわれ、彼は洞窟にこもり瞑想にふけるようになりました。

ある夜、いつものように瞑想を終えてごろりと横になっていると、突然形容しがたい圧迫感に襲われて、彼は失神します。目が覚めると、その前に「140枚の羽を持った」ガブリエルが立ち、不思議な文字の記されたショールを持って彼に「読め!」と迫りました。
何がなにやら、わけの分からない状況に、ムハンマドは激しく抵抗します。
「いや、無理です。私は無学な人間ですから……」
しかし、ガブリエルは諦めず、その後何度もムハンマドの前に現れては、アッラーの教えを優しく説き続けます。

当初は怖がるばかりだったムハンマドも、妻の励ましなどもあり、やがてこの天使の言うことを素直に聞くようになって、ガブリエルの伝えるアッラーの言葉を一冊の本にまとめ始めます。この本こそが、いま伝わる「コーラン(聖典)」の原型となったということです。


●ユダヤ教・キリスト教のガブリエル
この天使は旧約聖書と新約聖書の双方に登場する、数少ない存在です。特にユダヤでは広い信仰を集め、ソドム(男色を意味するソドミーSodomyの語源)とゴモラを含む各都市に死と破壊をもたらしています。

また、「エノク書」にその名の残る預言者エノクが天国に赴いた際にも、ガブリエルは登場し、神の座への案内を引き受けていますし、「ダニエル書」のダニエルにも彼は会っています。

ユダヤの伝承によれば、ガブリエルは一時期天界を「追放」されていたことがあったようで、その間はペルシャの守護天使ドビエルがガブリエルの代わりを務めました。
追放の理由は神の恩寵を失ったためで、それが命令違反によるものなのか、それとも別の理由があるのかは分かりません。

中世にはヨーロッパを守護するミカエルに対し、ガブリエルは東洋を守護すると考えられ、そこから日本の守護天使はガブリエルだということになっています。

百年戦争の時代(15世紀)にはフランスのドンレミ・ラ・ピュセル村に現れて、村娘ジャネットに「フランスを救え」と呼びかけています。彼女は程なくオルレアンに行って「聖処女」ジャンヌ・ダルクとなりました。


●女性?の天使
この天使は、天使にしては珍しく、女性の姿を取ることがあると言います。

ユダヤ外典「トビト書」の記述によれば、ガブリエルは常に神の左側を占めており、ユダヤの習慣では、男性は右側、女性は左側を占めることになっていました。
また、マリアに「受胎告知」を行ったことも根拠の一つになっています。当時の社会では、女性の部屋へ勝手に入り話しかけることができるのは、女性だけでありました。

「受胎告知」は中世の画家がこぞって採用したモチーフでありますが、そこに描かれるガブリエルは、しばしば美しい女性の姿で描かれます。
ガブリエルのそばに描かれる百合の花はガブリエルの象徴であると同時に、花の形が女性器に似ていることから「女性」そのものを表します。

もっとも、キリスト教をはじめ、イスラム教、ユダヤ教ともにこの「ガブリエル=女性説」を公式には認めておりません。ガブリエルは四大天使の一角を占める重要な天使なので、それが女性であるというのは信じがたいことなのでしょう。

なお、絵画などに描かれる場合は、比較的地味な服装のミカエルとは対照的に、ガブリエルは時代の世相を映した流行りの服を着ることが多いようです。



●亜種・別名など
ジブリール

ケルビムCherubim

●上級第二位の天使
ケルビムは上級第一位~下級第三位の九階級に分かれている天使の中で、上級第二位に位置する天使たちです。指揮官はヨフィエルとされています。

キリスト教教義においては「智天使」の名前が与えられ、「創世記」では楽園(エデンの園)の東門を守護し、あらゆる方向に向かう炎の剣(稲妻)を武器とし、「契約の箱」を守り、「詩編」では神の乗り物として、その台座を運びます。

その名前は「知識」もしくは「仲裁する者」を意味するヘブライ語に由来し、アッシリア(現在のシリア)では寺院や神殿の入り口を守る番人の役割を持ち、エジプトでは「夜空」「宗教の勤行」をつかさどるとされました。


●エゼキエル書の記述
ケルビムの姿は、預言者イザヤの幻視において、次のように詳しく描写されています。

「その中に何か四つの生きもののようなものが現れ、その姿はこうであった。彼らは何か人間のような姿をしていた。
彼らはおのおの四つの顔を持ち、四つの翼を持っていた。
その足はまっすぐで、足の裏は仔牛の足の裏のようであり、磨かれた青銅のように輝いていた。
その翼の下から人間の手が四方に出ていた。そして、その四つのものの顔と翼はは次のようであった。
彼らの翼は互いに連なり、彼らが進む時には向きを変えず、おのおの正面に向かってまっすぐ進んだ。
彼らの顔かたちは、人間の顔であり、四つとも、右側に獅子の顔があり、四つとも、左側に牛の顔があり、四つとも、うしろに鷲の顔があった。
(中略)
それらの生きもののようなものは、燃える炭のように見え、たいまつのように見え、それが生きものの間を行き来していた。火が輝き、その日から、いなずまが出ていた」(エゼキエル書1.5~13)。


●異形の天使
怪物に詳しい方ならば、この説明を聞いて、「まるでアスモデウス(悪魔)やか阿修羅のような姿ではないか」と思われたのではないでしょうか。実際、スフィンクスなどの怪物とケルビムを関連づける学者もいるようです。

同じエゼキエル書によれば、彼らの足には四つの車輪がついており、また、全身に目がついていて、絵画などでは二枚の翼を全面で交差させ、その翼に多くの目がついた姿で描かれます。

一般に天使は人間の姿に似ていると言われますが、ケルビムはそれに当てはまらない、まさに「異形の天使」とも言うべき存在なのです。


●紋章学におけるケルビム
ケルビムは紋章学において、「品位」や「栄誉」「高位」などを意味します。
中世末には、丸ぽちゃの小天使(プッティ)として、ミケランジェロをはじめとするルネサンス期の画家が好んで描くモチーフとなりました。

ちなみに、彼らの姿は、セラフィム(上級第一位の天使)が赤なので、天空の色、すなわち「青色」に塗られるのが普通です。