北欧神話の怪物

2014年7月 6日 (日)

スレイプニルSleipnir

●オーディンの愛馬
スレイプニルは、北欧神話の主神オーディンの愛馬です。脚が8本あるとされ、その名前(「滑る者」)の通り、あらゆる場所、たとえ海の上でも空の上でも、滑るように走り抜け、どんな馬にも競走で負けることはありません。

この馬は、北欧神話の悪神ロキと、魔法の牡馬スヴァディルファリが交わることで生まれました。その経緯は次のようになっています。


●牡馬とロキの子
巨人族の攻撃によって弱っていたアスガルドの壁は、ヴァン神族とアース神族との戦いで、ついに壊れてしまいます。
そんなとき、ある石工が馬を連れて「この壁を直しましょう」と言いました。その代わり、女神フレイアを妻にすること、太陽と月を彼のものとすること、などを条件として出してきます。

この申し出はあまりにも受け入れがたいものだったので、神々が悩んでいると、悪神ロキが「6ヶ月以内に直せたら、その条件を呑もう」と言い出したのです。
石工は頷き、その代わり、彼の馬スヴァディルファリの手伝いを求めました。神々はこれを了承します。

果たして、石工の仕事は早いものでした。神々は彼の要求を呑まなければならないとの不安に駆られ、ロキを責め立てます。
そこで、ロキは牝馬に変身し、彼の強力な助けとなっているスヴァディルファリを巧みに茂みへ誘い、翌日までそこにとどまらせます。

結局、スヴァディルファリが主人のもとへ帰るのが遅すぎたため、壁は期日までに直りませんでした。
怒った石工は、岩の巨人としての正体を表し、神々に襲いかかりました。それに対し、雷神トールは、ミョルニルと呼ばれるハンマーで応戦します。結果は岩の巨人の負けでした。

一方、馬の姿でスヴァディルファリと交わったロキは、子供を孕み、8本脚の牡馬を生み落とします。彼は、これにスレイプニルと名付け、オーディンに与えました。

2014年7月 4日 (金)

ヨルムンガンドJormungand

●巨大な大蛇
ヨルムンガンドは北欧神話に登場する大蛇(もしくはドラゴン)です。別名をミドガルズオルム(ミドガルドの蛇)とも言います。
北欧神話の悪神ロキと霜の女王アングルボダの間に生まれ、大狼フェンリルとは兄弟の間柄にあります。

ヨルムンガンドも、フェンリルと同じくオーディンによってアースガルドに連れてこられ、氷の海洋に投げ込まれました。
最初こそ小さな蛇だったものの、海の深淵に身を潜めているうちに段々と大きくなり、しまいには世界(ミドガルド)をぐるりと取り囲むほどに大きくなりました。ヨルムンガンドのとぐろが空に描き出したアーチは虹になりました。

そして、ノルン(運命の女神たち)が予言した通り、彼は北欧世界を脅かすほどの邪悪な存在となるのです。


●ラグナロク(神々の黄昏)のヨルムンガンド
世界の終末ラグナロク(神々の黄昏)では、ヨルムンガンドは海中から這い出して、地上に洪水をもたらし、世界を破壊してその毒息であらゆるものを毒に染めるのだとされました。

そこで、雷神トールは釣りの要領で、牛の頭を餌にヨルムンガンドを釣り上げ、一騎打ちを行うのですが、トールはヨルムンガンドを倒すことに成功するものの、自分もヨルムンガンドの毒息にやられ、息絶えました。



●亜種・別名など
ミドガルズオルム/ミドガルド蛇

2014年7月 3日 (木)

グレンデルGrendel

●沼地のドラゴン
グレンデルは北欧の英雄叙事詩「ベーオウルフ」に登場する怪物です。その姿はドラゴンであるとも、巨人であるとも、半人半獣の姿であるとも言われています。

彼はデンマークにあるフローズガール王の館・ヘオロット(雄鹿館)の近くの沼地に棲み、いつも館で繰り広げられる饗宴のうるささに我慢がなりませんでした。
そこで、人びとが眠りについた夜の間に、館に押し入って戦士を30人殺し、その死体を沼地まで引っ張っていってむさぼり食いました。

同じ被害が何度も続いたので、フローズガール王は安全な場所に居所を移しますが、そこにイェーアト族の英雄ベーオウルフが現れ、グレンデル退治を申し入れます。

彼は戦士たちとヘオロットの館に腰を落ち着けますが、グレンデルが現れて戦士のひとりをむさぼり食います。ベーオウルフはその隙を逃さず、この怪物と戦って致命傷を与え、その片腕を締め上げ、引きちぎりました。

フローズガール王が到着してみると、果たして怪物は大量の血を流し、ねぐらの中で事切れていました。


●母親との対決
しかし、グレンデルが倒されても安心はできませんでした。母親が復讐のためにヘオロットの館を襲ったからです。
グレンデルを倒した喜びに沸く館に、新たな敵が近づいてきていることなど知らない王たちは、盛大な饗宴を開きました。そして皆が疲れて寝静まったころ、母親が襲いかかり、屋根の垂木にぶら下がっていた息子の腕を取り返し、戦士のひとりをむさぼり食いました。

夜が明けるとベーオウルフは単身、グレンデルの棲む沼地に飛び込み、母親と死闘を繰り広げました。時折浮かぶ赤い泡に、人びとはベーオウルフの死を覚悟しましたが、しかし、彼は見事母親を討ち果たし、生還します。

フェンリルFenrir

●巨大な狼
フェンリルはフェンリル狼、フェンリス、フローズルスヴィトニルの名でも呼ばれる、巨大で邪悪な狼です。
悪神ロキと海の女王アングルボダの間に生まれた最初の子で、あらゆるものをむさぼり食います。

最初は神々に囲まれて暮らしていましたが、やがて巨大になっていきます。その大きさは、上あごが天に届き、下あごが大地に届くと言われるほどでした。
そして、運命の女神ノルンの予言を受けて、ロキの子たちが自分たちにとって脅威になることを知った神々は、大蛇ヨルムンガンド、そしてフェンリルを追放ないし幽閉しようとします。

ヨルムンガンドはアースガルドの海の深淵に投げ込まれましたが、フェンリルはまだアース神族の庇護のもとにいました。


●フェンリルの捕縛
フェンリルがより巨大に、より強大に、より邪悪になっていくに従って、神々の危惧は膨らんでいきました。
あまりに獰猛なため、餌を与えることができるのは、天空の神チュールだけでした。

そこで、神々はフェンリルの捕縛および幽閉を決します。
しかし、どんな鎖、どんなひもを使っても、食い破って逃げてしまい、そのたびに獰猛になっていくので、暗きエルフ(ダークエルフ)たちが、グレイプニルという足枷(鎖とも言われる)を作ります。この足枷は熊の腱、猫の足音、女のあごひげ、魚の息、山の根、鳥の唾からできており、どんな強い力にも耐えうるものでした。

フェンリルはそのもくろみを見破り、この足枷をつけたければ、神のひとりが腕を自分の口の中に入れることだと要求しました。神々はためらいますすが、チュールがその申し出に名乗りを上げました。

果たして、足枷に繋がれると、どんな力をもってしても食い破れないことを知ったフェンリルは、口に入れたチュールの腕を咬み破ります。
しかし、こうしてフェンリルは岩に繋がれ、もはや噛みつくことができないように口へ剣を差し入れられました。


●ラグナロク(神々の黄昏)
しかし、彼がついにその足枷から解放される日がやって来ます。ラグナロク(神々の黄昏)の日です。

彼は自由の身となり、口を大きく開き、スレイプニルに乗ったオーディンごと呑み込んでしまいます。しかし、最後には、オーディンと霜の巨人グリードの息子ヴィーダルがフェンリルを殺し、この恐ろしい狼を退治しました。



●亜種・別名など
フェンリス/フェンリル狼/フローズルスヴィトニル

ファーヴニルFafnir

●北欧神話のドラゴン
ファーヴニルは北欧神話およびゲルマン神話に登場するドラゴンの名前です。魔法使いのフレイズマルの3人息子のひとりで、他のふたりはオッテルとレギンでした。

オーディン、ヘッテル、ロキの3人で旅をしている時、カワウソに変身して鮭を食べようとしているオッテルを、荒神ロキが石を投げて殺してしまったので、その日の宿の亭主だったフレイズマルは、神々を縛り上げ、賠償としてカワウソの皮が完全に隠れるまでの黄金を用意するよう命じました。

ロキは代表者として送り出され、そこでアンドヴァリと呼ばれる小人を捕まえ、黄金を要求します。
アンドヴァリは渋々それに従うものの、黄金の腕輪だけは渡すのを拒みました。なぜなら、それは富を増す力を持つものの、持ち主に破滅をもたらすからでした。しかし、ロキはそれをも奪います。

ロキが黄金を持ち帰ってきたのを見て、オーディンは腕輪がどうしても欲しくなりました。しかし、カワウソの皮にかぶせるために使うしかありませんでした。

こうして、この腕輪はフレイズマルの元に残されたのでした。


●腕輪の呪い
アンドヴァリの腕輪の呪いが効果を発するには、そう時間はかかりませんでした。ファーヴニルとレギンが共謀し、その財宝を奪おうとして父親フレイズマルを殺してしまったからです。

ファーヴニルは、さらに宝を独り占めにしようと、グリタヘイドに逃げ、そこで世にも恐ろしいドラゴンに変身し、宝を隠しました。

レギンはシグルドという若者に相談し、そのドラゴンを殺すように説得します。シグルドは了承し、鍛冶屋であったレギンは、シグルドの父の剣を鍛え直し、グラムという剣を与えます。
そして、ファーヴニルの通り道に穴を掘り、その中に潜みます。そして、ファーヴニルが通りがかると、その心臓をひと突きにしたのです。

シグルドはレギンの言葉に従い、ドラゴンの心臓を取り出して食べようと、リジル(リジン)という剣に突き刺し、それを火であぶりました。すると、指に火傷を負ったので、思わず指を口に入れたところ、ファーヴニルの血の力か、あらゆる言葉を理解する力を手に入れました。

そこで、レギンがシグルドを殺して財宝を奪おうとしていることを知ったのです。そこで、シグルドはレギンの頭を斬り落とし、そのまま腕輪もろとも財宝を奪いつつ、逃亡します。


●「ニーベルングの指輪」
この物語は、のちにリヒャルト・ワーグナーによって「ニーベルングの指輪」に作り替えられ、シグルドはジークフリードに、アンドヴァリの腕輪はニーベルングの指輪にそれぞれ変えられました。
そして、オッテルとレギンの二人は、それぞれアルベリヒとミーメという名前に変えられ、現在に伝わるジークフリード伝説の原形になりました。



●亜種・別名など
ファフニル/ファーフニル/ファーフニール/ファフナー/ファーフナー