創作物の怪物

2014年7月 6日 (日)

スライムSlime

●柔らかいモンスター
スライムを一口に言えば「柔らかいモンスター」です。ぬらぬら光る汚泥、もしくは粘菌のような姿をしていて、どんな形にもなることができます。

粘性がきわめて高く、洞窟の壁や天井にへばりついて、人間や動物が通りかかるとすぐさま覆い被さって窒息させたり、あるいはその細胞ひとつひとつから消化液を出して溶かしてしまいます。
後に残るのは骨か、金銀など腐食に強い一部の金属ぐらい。頭のいい?連中はそれをさらに「エサ」として、次の強欲な「犠牲者」を待ち構えます。

●スライムの起源
スライムという名前は「汚泥」「汚らしい粘液」を意味する英語スライムSlimeが由来で、一般にはヘドロみたいな物質を差す言葉として使われます。

その汚らしい粘液が、どのような過程を経て「怪物」へと変わっていったのかについては諸説ありますが、アメーバや粘菌などのイメージが影響していることは間違いないでしょう。

このような柔らかい原形質タイプの「怪物」を最初に考えたのは、クトゥルフ神話の元祖H・P・ラヴクラフトであると言われています。

彼は1930年代に、「狂気山脈にて」という作品においてショゴスShogothという粘液状の怪物を考え出し、読者を恐怖に陥れました。
ショゴスは全長が4~5メートルにもなる気味の悪い生物で、水陸どちらにも棲むことができ、「どんな地下鉄よりも速く」移動することができます。
全身から燐光と吐き気をもよおすような臭気を放ち、身体から自在に触手やエラを出しては、身を守ったりするために使います。

「スライム」という名前が初めて怪物に使われたのは、ジョセフ・ペイン・ブレナンの作品「スライム」(1953年)においてだと言われています。
以降、同じような怪物は、徐々にスライムの名前で呼ばれるようになります。

1968年には映画「人食いアメーバの恐怖(ザ・ブロッブThe Blob」も発表されて人気を博し、粘液状怪物はその地位を不動のものにします。
ちなみに、「人食いアメーバの恐怖」は、50センチぐらいだった原型生物ブロッブが、人間を呑み込みつつ巨大化する話で、のちに続編も作られました。

●小説・ゲームのスライム
こうした流れが影響しているのかは分かりませんが、ファンタジー作家ロバート・E・ハワードは「コナン」シリーズにスライム状の怪物を登場させ、これがファンタジー作品に登場した初めてのスライムだと言われています。
その設定は「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」などにも生かされ、「ウィザードリィ」や「ドルアーガの塔」などのリスペクト作品を経て、日本でも人気を博すようになりました。

なお、私見ですが、日本でのスライム人気は、おもちゃの「スライム」も影響しているように思えます。
80年代に子供だった人は覚えているかも知れませんが、泥のように変形はするけど手にひっつかない、不思議なおもちゃが大流行したことがありました。
その正体はポリビニルアルコールという無害なプラスチックなのですが、ゲームに「スライム」という名前が出てきたとき、おもちゃのスライムを思い出して「ああ、あんな感じの怪物なのか」とすんなり納得できた人は多いと思います。

「ドラゴンクエスト」シリーズで顔のついた可愛らしいスライムが登場するようになってからは、彼らは単なる「敵役」からゲームの「顔役」へと一気に出世して、いくつかの会社からも、こうしたスライムを主人公としたゲームや漫画がいくつか発表されるようになりました。

●スライムの性質
よく、プレイヤーからゲームの製作者に「スライムに知性はあるのか?」と質問が飛ぶことがあるそうです。
あえて独断と偏見を言えば、「ドラゴンクエスト」シリーズなどのスライムを除いて、ほとんどのタイプは「ない」と言い切って良いように思えます。なぜなら、彼らの多くは脳も神経も持たないからです。生きて動く細胞が無数に集まっているだけなのです。

ゆえに、彼らが冒険者を襲うのは、決して知恵に基づくものではなく、ほとんどの場合本能(主に食欲)に基づきます。
場合によっては、本能と言えるものすらなく、反射によって動いている可能性すらあります。ここまで来ると、怪物と言うよりはむしろ植物に近いと言えましょう。

そんな彼らを攻撃するときは、刃物で切断するか、炎を近づけて焦がすやり方が効果的です。
特に炎は一番の弱点で、仮に肌へ直接貼り付いても、たいまつの炎などを近づけてやれば彼らは自然に剥がれ落ちてきます。しかし、液のような柔らかい身体はあらゆる打撃を無効化します。

●スライムの仲間たち
スライムは特定の神話や伝承に基づかない、形態的にも伝承的にも、文字通り「原型のない」怪物です。
ゆえにデザイナーの想像力いかんでいくらでもバリエーションを生み出すことができ、色とりどりのスライムやさまざまな能力を持ったスライム、固いスライム、大きなスライム、毒のあるスライムなどがいろいろ生み出されてきました。

作品によっては、スライムという呼称にこだわることなく、独自の名前をつけることもあります。
中でも明確な特徴を持つものは「ゼラチナス・キューブGelatinus cube(ゼラチン状の立方体)」「ブラック・プリンBlack pudding(黒いプリン)」「ウーズOoze(柔らかい泥、軟泥)」などのように、それとすぐ分かるような名前がつけられています。


●亜種・別名など
ゲル・クリーチャー(ゲル状の生物)/ブロッブ(ゲル状の液体)/ブラック・プリン(黒いプリン)/アメーバ(不定形原生動物)/ウーズ(ぬめりのある泥)/ゼラチナス・キューブ(ゼラチン状の立方体)/グリーン・スライム/ブラック・スライム/レッド・スライム/ブルー・スライム/ゴールデン・スライム/スライムベス

ミミックMimic

●擬態する怪物
ミミックは「擬態をする怪物」です。
擬態とはまったく無関係なものに化けることによって、捕食者の追撃をかわしたり、逆にエサとなる犠牲者を油断させて近づける技術のことです。
実際にある擬態の例として、景色に合わせて身体の色を変えるカメレオンをはじめとして、猛毒のサンゴヘビに化ける無毒のニセサンゴヘビ、アリになりすますアリグモ、枯れ枝になりきるシャクトリムシ、葉っぱそっくりに化けるコノハムシなど知られています。

ミミックも、これらの動物と同じように別の何かに化けますが、彼らの化け方は一風変わっていて、多くの場合宝箱や宝物そのものの形を取ります。

欲深い冒険者たちが何も知らずに近づいてきて、宝箱に手を伸ばす……その瞬間を狙って、ミミックは彼らに襲いかかります。
力も決して強いわけではなく、まともに戦えば怖い相手ではないのですが、相手が完全に油断をしている瞬間を狙うので、非常に効果的な攻撃を加えることができます。


●ゲーム生まれの怪物
ミミックはゲームデザイナーやプレイヤーの完全な遊び心から生まれた怪物です。
冒険者たちが血眼で探そうとする黄金や財宝。それが実は、怪物が化けたものであったとしたら、これほどスリルのあるものはありません。

ゆえに、彼らは確たる伝承も持たず、統一されたイメージも持たない存在でありながら、多くのゲームに採用され、またさまざまなバリエーションを生み出してきました。
そもそも、ミミックという名前からして、「模倣」「擬態」を意味する英語ミミックMimic、もしくはその名詞形ミミクリーMimicryが由来です。

ミミックは大きく2つの種類に分かれます。ひとつは身体そのものが箱や宝石の形をしている擬態タイプ。
もうひとつは普通の箱の中に入り込むヤドカリタイプ。
もちろん主流は擬態タイプですが、近年はヤドカリを採用する向きも多いと聞きます。後者は正体がバレると同時に、慌てて殻を脱ぎ捨てて次の住処を探しに回ります。


●ミミックのバリエーション
現在ではゲーム「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」やRPG「ドラゴンクエスト」シリーズなどの影響から、ミミックと言えば宝箱のような形をしたタイプが一般的です。

もちろん、宝箱だけでなく、宝石や金貨、武器や防具、ドアやドアノブ、置物、家具に化けるものもいます。
ひどいのになると、家や通路そのものに化けるものもあるそうです。
犠牲者が知らずにその場所へ足を踏み入れ、何かおかしいと気づいたときには既に遅し。哀れ怪物の腹の中に、と言うわけです。

ミミックの中でも、金貨や宝石など、特徴あるものについては「クリーピング・コインCreeping Coin(這い回るコイン)」「リビング・トレジャーLiving Treasure(生きた財宝)」「リビング・ボックスLiving Box(生きた箱)」「踊る宝石」などのように、独自の名前がつけられます。



●亜種・別名など
人食い箱/ミミクリー/ミミクリー・モンスター/リビング・ボックス/リビング・トレジャー/ハプツーン/クリーピング・コイン/ポゼッション

2014年7月 3日 (木)

ゲイザーGazer

●目玉の怪物
古代より「目」は恐ろしげな印象を与えるものとして、ことあるごとに嫌悪され、忌避され、恐れられてきました。
視線に何か不思議な効果があるという話はよく聞くところですし、おかしな目の持ち主は「邪眼(イビル・アイ)」「やぶにらみ」の持ち主とされてしばしば迫害の対象となりました。
怪物も、やはり人間にあだなす者はたいてい変わった視線の持ち主です。真っ赤な目、瞳のない白い目、一つ目、無数の目、と言ったように……。

ゲイザー(ギャザー)は、そんな「目」に対する恐怖感を怪物という形で表したものです。
多くの場合、巨大な目玉に触手(あるいは手足)がついたような恐ろしい外見をしていて、侵入者を見つけるとぎょろりとその大きな目を向けて、いきなり襲いかかります。ゲームや漫画などでビジュアル化されたその姿に、思わずうっと唸った人もいるのではないでしょうか。

一見して怪物と分かる姿から、しばしばゲームや漫画などの敵役として採用され、今も冒険者たちを襲い続けています。


●ゲーム生まれの怪物
彼らは中世以前の伝承に登場することはほとんどありません。せいぜいエジプトの伝承に「ウジャト(ウジャ)」という目玉型の神が登場するくらい。しかも、それすら実は「太陽(または月)」を神格化したもので、目玉をモデルにしたものではありません。

はっきり目玉をモデルにしたものは、諸説ありますが卓上ゲーム「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」の「ビホルダーBeholder」が最初であると言われています。このゲームが登場したのは1970年代後半ですから、まだ30年ほどの歴史しかありません。

このビホルダーという呼称は、「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)」以外での使用を禁じられていることから、他のゲームや漫画などでは、便宜上「凝視する者」を意味する「ゲイザー(ギャザー)Gazer」という名前を使い始めています。


●支配主
ゲームの中では、ゲイザーは非常に恐ろしい怪物です。まず、その大きな目玉を使って相手へ強い催眠効果をもたらすことができます。
しばしば、この能力を使ってあらゆる怪物(人間も)を支配下に組み敷くことから、しばしば「支配主」という意味のタイラントTyrantという名前で呼ばれることもあります。

さらに、あらゆる魔法を操り、空中に見えない障壁を作ることができるので、物理攻撃はほとんど効きません。魔法のかかった武器か、あるいは魔法そのもので倒す必要があります。
ほとんどの連中は、一般的なモンスター以上の知能を持ちませんが、中には大変高い知能を持つ者もおり、いずれにしても、性格は邪悪かつ非道であることが多いようです。


●鈴木土下座衛門
余談ではありますが、ゲイザーの異称として一部で有名な「鈴木土下座衛門」の名前は、マンガ「バスタードBASTARD!」(週刊少年ジャンプ連載、のち月刊ウルトラジャンプ連載/萩原一至・作画)に出てきました。

一説には、当時の萩原氏の連載担当者だった鈴木氏が、この怪物を巡って著作権者(当時の輸入総代理店だった新和)に土下座したと言う事件に由来するものだと言われています。
これが本当なのかどうなのかは、当の萩原氏、鈴木氏が沈黙を守っているため闇の中ですが、いずれにしろ、連載時には「ビホルダーBeholder」の名前になっていた部分が、単行本収録時にはそっくり「鈴木土下座衛門」の名前にすり替わっていて、フォルムも球形だったものが、野太い手足の生えた滑稽なものに描き変えられておりました。



■亜種・別名など
ギャザー/ビホルダー/アイ・タイラント(目玉の暴君)/デビルアイ/マッドアイ/ダークアイ/メデューサボール/ゴーゴンボール/鈴木土下座衛門/スカイライン