霊魂

2014年7月 6日 (日)

ゾンビZombie

●ブードゥーの精霊
ゾンビは映画や小説などでお馴染みの「生ける死体」です。
術者が復活の儀式を行ったか、あるいは別の理由があるかなどで、身体は死んだまま復活を遂げ、術者(死霊術師、ネクロマンサー)の命令に従って他の人間を襲ったり、簡単な仕事をしたりします。
時には自分の意思で動き、術者自身をも殺してしまうような場合もあります。

このゾンビが実在すると言うと、驚く人も多いかも知れません。
正確には、ゾンビと呼ばれる人間が実在する、と言うべきでしょうか。
カリブ海に浮かぶ島ハイチ。その住民の間で信じられている民間信仰ブードゥー。

ゾンビとはもともと、そのブードゥーの秘法によって蛇の精霊ズンビーを憑依させた「死体」のことを差し、ゾンビ化された人間は司祭である黒魔術師(ボコール)の意のままに動きます。

かつては結社(コミュニティ)の掟を破った者や、犯罪をおかしたアウトローなどに多く施されていたようで、今でもしばしばゾンビ化された人の話を聞きます。


●ゾンビパウダー
もちろん、ゾンビが実在すると言っても、本当に死体に精霊を憑依させているわけではありません。

生きた人間を仮死状態にした後、「自分は死んでいる人間なのだ」「黒魔術師(ボコール)の言うことには逆らえないのだ」と強い暗示をかけているだけです。
だから、普通にものを食べますし、夜には寝ます。受け答えも(術者が許せば)きちんとできます。事故か病気かで本当に死んでしまえば、二度と復活することはありません。

この秘術には「ゾンビパウダー」という特殊な粉を使用します。
この粉にはフグ毒として有名な「テトロドトキシン」が含まれていて、服用した人間は意識ははっきりしているのに身体が動かなくなる、いわゆる金縛り状態に陥ります。
黒魔術師はその状態で暗示をかけ、身体の自由と引き替えに懲役などの刑罰を課したわけです。

だから、ハイチの人々は、今もこのゾンビ化の秘法を非常に恐れています。いつ自分がゾンビにさせられるか分からないからです。私たちが懲役刑や終身刑を恐れているのと一緒です。


●復活する死体たち
このように、ゾンビとは、比較的素朴な秘法のひとつに過ぎませんでした。それなのに、何故死体が蘇って人間を襲うような、非常に恐ろしいイメージを持つようになったのでしょうか。

それは、恐らくG・ロメロ監督の名作ホラー映画「ゾンビ(原題:Night of the Living Dead)」の影響によるものでありましょう。
この映画は三部作まで作られ、人気を博し、世界中にゾンビの名を轟かせました。

さらに、その設定を生かした小説・ゲーム・漫画が作られたり、世界中に点在するヴァンパイアやグール(生ける死体)の伝承と混同されたりして、次第にゾンビ=人間を襲う生ける死体のイメージが広まっていったのです。
むろん、本来のゾンビにそのような性質はありません。

なお、「ゾンビ・カクテル」と言われるものがありますが、これは怪物のゾンビとは関係なく、ラム酒とオレンジジュースを混ぜてシェークしたカクテルのことです。

名前の由来は、口当たりが非常に良いので飲み過ぎてグロッギーになるからとも、あまりに美味しすぎるため、マイケル・ジャクソンの「スリラー」よろしく、死体が起きあがって踊り出すからとも、あるいはオレンジ色のあの色調がゾンビの肌の色を連想させるから、とも言われています。



●亜種・別名など

リビング・デッド(生ける屍)/腐った死体/疆屍(キョンシー)/グール

ワイトWight

●魂魄(こんぱく)の怪物
ワイトを一口で言えば、死体に乗り移る悪霊です。金色に光る魂魄(こんぱく)の姿で現れ、死体に乗り移ってはそれを動かします。そして、通りがかる者を襲い、その精気を吸い取ります。

吸い取られた者は卒倒し、ひどい時には死んでしまうこともあると言います。なお、ワイトに乗り移られた者は身体の周りがぼうっと黄色く光るという特徴があります。

もともとこの怪物は、民間伝承に基づくものではなく、J・R・R・トールキンの「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」に出てくるもので、名前を「塚人(バロー・ワイツBarrow Wights)」と言うのですが、なぜか上半分が省略され、単に「ワイトWight」と呼ばれるようになりました。


●塚人(バロウ・ワイト)たち
塚人は、ホビット庄の南、古墳山に棲む怪物です。古墳山は人間の王が葬られた神聖な場所だったのですが、そこに、魔王の王国アングマールから拷問を受けた恐ろしい悪霊どもが大挙してやって来て、太陽の光を避けるためにちょうどそこにあった王の死体に入り込みました。
そして、死体は旅人を襲う恐ろしい怪物になったのです。

塚人は意志をくだく暗黒の存在であり、どんな姿にもかたちを変えることができます。冷たく光る目をしており、その声は身の毛がよだつほど恐ろしい響きをそなえ、同時に相手を眠らせる効果があります。

この塚人に捕らえられたら一巻の終わり。墓の下に連れられて、祭壇に寝かせられ、いけにえの剣を身体に突き立てられ、殺されてしまうのです。しかし、太陽の光に弱く、ひとたび彼らの頭上に光が差せば、叫び声とともに消えてしまいます。

ホビットのフロド一行も危うく古墳山を通りかかったとき、この塚人に拉致されかけたのですが、持ち前の勇気で何とか辛くも脱出しています。


●ワイトと妖精
ワイトと言う言葉は古代ドイツ語の「人」を意味するウィヒトWichtに由来するもので、それ自体に「不思議な住人」「精霊」と言うニュアンスがあります。日本語で言えば「山男」みたいなものでしょうか。
山男にも、単なる登山者や山で暮らす人という意味のほかに、人間ではない山の精霊と言った響きがあります。

14世紀には妖精を差す言葉としてしばしば引用されたようで、中世の代表的な物語集「カンタベリー物語」にも、「あなたをエルフやワイトから守ってあげる」という言葉が残っています。



●亜種・別名など
ウィヒト/ウンセーレー・ウィヒト/バロウ・ワイト(塚人)

2014年7月 3日 (木)

グールGhoul

●肉を食う悪しき精霊
グールは人間の肉を好物とする怪物です。
その食性からしばしば「食人鬼(しょくじんき)」「食屍鬼(しょくしき)」などと呼ばれ、人々に恐れられています。ゾンビと並ぶリビングデッド(生ける死体)の代表格であり、その活動範囲も、ゲーム、マンガ、小説、映画を問わず、あらゆる作品に及びます。

もともと彼らは、アラビアの伝承から生まれた存在です。
と言っても、今のように死体が甦ったものではなくて、アラビアのジン(精霊)の一種か、もしくは死体にジンが取り憑いたものでありました。その意味では「リビングデッド(生ける死体)」と言うよりはむしろ「レイス(取り憑く霊魂)」に近いかも知れません。

アラビアでは日本の「精」と同じく、その存在はかなり広く認知されており、「千一夜物語(アラビアン・ナイト)」ひとつを見ても、「シンドバッドの冒険」「アリババと40人の盗賊」など、メジャーどころにはたいてい登場しています。


●彷徨う死体
グールという呼称は、アラビア語の「災厄」を意味する言葉から来ています。
もともとは墓場などに感じる恐怖を差した言葉だったらしいのですが、やがてその場所をテリトリーとする怪物の名前に使われるようになりました。
なお、「グールGhoul」という呼称は種族名、もしくは男性形であり、女性のみを表すときは特に「グーラーGhulah」という名前を使います。

彼らはきわめて高い再生能力を持つ存在で、不死身の属性を持ち、首を切り取られても手足をもがれても、すぐにくっつけて元に戻ってしまいます。これを防ぐには聖水か火を使って身体を焼き切るしかありません。

アラビアの伝承では、やはり不死身なのは変わりませんが、ただ一つ円月刀(シミター)で腹を断ち割られるのだけは苦手、とされています。
首や手足であればいくらでも再生できるのに、なぜか腹だけはその傷口を塞ぐことができないのです。

ただ一つ注意したいのは、死の間際のセリフとして、「私を本当に殺したければ、もう一度腹を断ち割るが良い」と告げる場合がありますが、これに引っかからないようにすることです。
信用して同じように腹を切り裂いてしまうと、グールは何と元通りの身体になってしまいます。


●グールの外見
アラビアのグールに関するもう一つの特徴として、「生きた人間そっくり」という部分が挙げられます。映画のような、死体がそのまま甦った姿ではないのです。

もちろん、怪物ですから、人間とまるっきり同じというわけにはいきません。
よくよく眺めれば、どこかしらに「人間ではない」、あるいは「人間離れした」部分を見つけることが可能です。男性ならば、顔がやけに長いとか、目が飛び出しているとか、鼻が象のように伸びているとか……。
アラビアの絵画ではしばしば「毛深い黒人」の姿で描かれます。

一方、女性はと言えば、こちらはたいてい絶世の美女です。セクシーな姿で人前に現れ、スケベ心で近づいた男を物陰に誘い、ガブリとその肉に食らいつきます。


●グールとゾンビ
この怪物は、しばしば同じリビングデッド(生ける死体)であるところの「ゾンビ」と混同される傾向にあります。

もちろん、両者はまったく違う存在です。
グールはアラビアの伝承に登場する存在であるのに対し、ゾンビはハイチの黒魔術ブードゥーの風習が元になっています。恐らくはジョージ・A・ロメロ監督の名作ホラー映画「ゾンビ(原題:Night of the Living Dead)」のゾンビイメージが元になっているのでありましょうが、ヴァンパイアに代表される「墓場を渡り歩く生ける死体」の伝承なども、少なからず影響しているのかも知れません。

現代のゲームや小説などでも、しばしば両者は同じようなものとして扱われますが、近年は設定上の必要性からか、「暴れん坊なのがグール」「おとなしいのがゾンビ」、「人肉を喰らうのがグール」「仲間を増やすために人間を襲うのがゾンビ」と言うように、ある程度キャラクターの「色分け」がなされているようです。



●亜種・別名など
食人鬼/食屍鬼/腐肉食らい/死体食らい/グーラー(女グール)/ゾンビ

ゴーストGhost

●文化としてのゴースト
あらゆるモンスターの中でも、「ゴースト(幽霊、亡霊)」ほど普遍的な存在は他にありません。

妖精や精霊と違い、今でもその実在を疑わない人は多く、目撃例や体験例が引き続き報告され続けています。それまでに報告された研究結果や事例報告は厖大な数にのぼり、大きな本屋ならばそれだけで棚の一ジャンルを占めるまでになっています。

私たちにとっても重要な存在であるゴースト。その多くは、この世に心残りかを持ったために成仏できない者たちだとされています。

何が心残りなのかはシチュエーションによって違っていて、親類や友人たちどうしても伝えたいメッセージ、あるいは死に追いやった者への恨み辛み、伝え損なった大事なことづて、あるいは残る者への切なる愛情……などです。
また、「死後の世界に行くのはイヤだ」といった身勝手な理由、わけは分からないけどどうも成仏できない……という不可思議な理由の場合もあります。

いずれにしろ、思いを果たしたり、魂を現世に繋げている要因が解消されたとき、彼らは初めて「成仏」して、この世から脱することができます。


●成仏できないゴーストたち
いろんな理由で成仏できない、あるいはさせられない場合は、僧侶に頼んで「お祓い(エクソシズムExorcism)」を行ってもらい、ムリヤリこの世から追放してもらうしかありません。
カソリック(ローマ教会)には今もこうした「お祓いのプロ」が何人もいると言います。

強すぎる妄執のために天国も地獄へも生けずに、永遠に現世を彷徨う者もいて、その多くは「亡霊」や「浮遊霊」と化し人々にちょっかいをかけます。
あるいは死の世界の入り口を開けて生者たちをそちらにいざなおうとします。彼らの誘いに乗ってその「門」をくぐってしまえば、二度と現世に戻ることはできません。

昔はこうした魂がことあるごとに生者の魂を抜き取ってゆくと考えられたようで、葬式や祭礼といったものは、こうした死者たちの霊を「いかにうまく鎮めるか」といったところから生み出されたものです。
お盆や祭の山車(だし)など、いっけん私たちが何気なく接している年中行事の中にも、実は死者と深く関係しているというものは多いのです。


●憑依するゴーストたち
ゴーストが目的を果たすときは、たいてい「憑依」という方法を使います。生きている人間の身体を借りて話をしたり、目的の場所を訪れたり、どうしても触れておきたいものに触れたりします。
多くの目的を達すれば彼らは満足し、身体から離れていきますが、執着も能力も強い、いわゆる「悪霊」に取り憑かれると、場合によっては身も心も支配されます。元の持ち主の魂が追い出されることもあるようです。

こうして追い出された魂は、新たなゴーストとなって、己の容れ物となる身体を求めて彷徨うことになります。

逆に、生者の側からゴーストを呼び寄せ、人間に取り憑かせることも可能です。このような手段を「降霊術(交霊術)」と言います。有名な降霊術と言えば恐山のイタコなどの名前を挙げることができます。

手軽にできる降霊術にはいくつか種類がありますが、その中でも一番手軽なのは何と言っても「コックリさん」でありましょう。コックリさんは「狐狗狸さん」と書き、つまりはキツネやタヌキなどの低級霊を呼び寄せて予言や助言を行わせるものです。
悪霊を呼び寄せることもあると言いますから、慣れていない人間がやるとあっという間に取り憑かれ、支配されてしまいます。ゆえに気軽に行うのは禁物です。

実際には取り憑かれていなくても、こうしたプロセスを経ることで、「自分は霊に支配されたのだ」と思いこみ、それが二重人格発現のきっかけとなることがあるようです。
言わば「自己催眠」みたいなもので、「悪魔や悪霊に取り憑かれた」というケースの大半は、こうした「自己催眠」タイプの現象であると言われています。


●ゴーストの分類
一般にゴーストは、狭義のゴースト、スペクター、ファントム、スピリット、アパリション、レイスなどに分類することができます。

狭義のゴーストGhostはいわゆる「お化け」のです。人に布をかけたような形をしており、目と口に当たる場所は空洞。ふわりふわりと夜空を漂い、道行く人を驚かせます。

スペクターSpecterは恐ろしい姿をした幽霊です。「亡霊」「死霊」と言う訳語を与えられる場合もあります。出遭った者は例外なく魂の底から慄(ふる)えることになるでしょう。幽霊譚で語られるゴーストはほとんどの場合、このスペクターです。

ファントムPhantomもしくはファンタズムPhantasmも幽霊の訳語が与えられますが、必ずしもそれが「死者の霊」であるとは限りません。
死者に似た人間が現れたり、景色に人間の姿が見えたり、現れるはずのないものが眼前に現れたり……そのような、いないはずの連中が目の前に現れたりする「現象」を、ファントムと称するのです。

ですから、幽霊船、幽霊飛行機なども「ファントム」に入ります。幽玄自在に現れることから文字通り「ファントム」と名付けられた戦闘機もあります(F-4ファントム戦闘機)。心霊写真や心霊ビデオなどに現れる幽霊もこの「ファントム」に入れてもいいのではないでしょうか。

この言葉は元々「不思議な存在」「目に見えないが存在するもの」を意味する古代ギリシア語のファンタシアPhantasiaに由来するもので、「幻想」を意味するファンタジーFantasy、「現象」を意味するフェノメノンPhenomenonと同じ系統の言葉です。

スピリットSpiritは「幽霊」と言うより「魂」「精霊」という訳語がぴったり来ると思います。生霊、死霊の別を問わず、あらゆる魂をその範疇に含み、妖精や精霊、悪霊やキリスト教の聖霊などもこのスピリットの範疇に含まれます。
なお、お酒のスピリットは「魂を奮わせる飲み物」というところから名付けられました。

アパリションApparitionは端的に言ってしまえば「映像」です。
通常の幽霊のように、移動したり取り憑いたり……といったことはできません。その場にいつまでも居続けて、表情や身振り手振りで出遭った者にメッセージを伝えます。怨念や願望が解消されると同時に消えるのも、たいていこのアパリションです。

最後に、レイスWraithという言葉を挙げましょう。これは「生霊」に当たるもののうち、死に臨んで現れる「思念」のことを差します。
思念と言っても、喋ることも触れることも可能なものですから、誰もそれが「霊魂」であるとは気づきません。
むしろ、後でその人物が出会ったころには既に死んでいたことを告げられ、改めて驚くわけです。余談ではありますが、筆者(富士)の親戚にもこのレイスを目撃した人がいました。

ゲームなどでは、レイスと言えば他人に取り憑いて悪さをなす連中とされています。ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(D&D)などではそこだけ闇に包まれたような感じで、人型をした怪物です。


●ゴーストの寿命
ゴーストのほとんどは、数年もしくは数十年経つと自然に成仏します。しかし、場合によっては何百年、何千年も存在し続ける場合があるそうです。
例えば、イギリスのヨークミンスター宝物館の地下室には、何と2000年前の古代ローマ時代の兵士たちが「今も」行進し続けているという話です。



●亜種・別名など
幽霊/亡霊/死霊/悪霊/霊魂/魂魄(こんぱく)/スペクター/ファントム/ファンタズム/スピリット/アパリション/レイス